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第四話 昔の話をしよう


「なんだこれ……」


 眼の前に横たわる、巨大なドラゴン。

 顎を半ばまで吹き飛ばされて、息も絶え絶えである。


「か、カバン振り回してぶち当てただけなのに……」


 手に持ったカバンは、多少血で汚れてしまったが、なんともなっていない。

 さっきのライターもそうだが、丈夫さと言うか能力というのかなんというか。

 

「俺も含めて、異世界に来たから……?」

 

 異世界に来たせいで存在自体がチートレベルでステータスが高くなってる、という例のあれだとでも言うのか。それも、持ち込まれた物が全て。

 ぶっ倒れて悶ているドラゴンを一瞥しつつ、俺は何がどうなっているのか、整理しつつ。

 すぐそばでこちらも今にも息を引き取りそうなグリフォンに近寄ると、手をかざしてこう言ってみた。


「ヒール」


 近寄ってきた俺に対して警戒心を顕にするグリフォンを素無視して、回復魔法とか使えたりして!? とちょっと期待してやってみた俺だったが……別に手のひらが光ったりはしなかったし、いきなりグリフォンが元気になることもなかった。

 いわゆるアレだ。「しかしなにもおこらなかった」だ。もしくは「しかしMPが足りない」かもしれない。

 正直ちょっと恥ずかしい。一応周りに人がいないことを確認するためにキョロキョロしてしまうくらいには。


「グルルル……」

「うおっ!?」


 ざらりと、俺の頬をグリフォンの舌が……って舐められた!? 味見か!?

 と思ったが、それ以上はなんの行動も起こさなかった。というかむしろ大人しくなっている。

 もしかして、敵の敵は味方的なアレか? 俺がグリフォンと敵対してたドラゴン倒したから?

 いや、違うな。違うと思いたい。グリフォンの目を見た俺は、なんだかこいつが俺のしたことを理解しているように思えた。

 

「……ああ、治療してやりたかったのはホントだよ。ドラゴンあっちはもう何ていうか、話の通じないトカゲっぽいけど、お前さんはなんかアレだ。うちの実家にいたわんこみたいな目をしてるからなぁ」


 恐る恐る、横たわるグリフォンの首筋に触れてみる。

 抵抗もなく触れさせてもらえた。

 温かい。

 が、それもどんどん失われているように思えた。

 

「お、そうだ。これ飲ませてみるか」


 カバンを開け、中からとある物を取り出す。

 手のひらに収まる程度の、小瓶。異世界に来て、物とか俺とかの能力が上がってるならもしかして、というやつだ。


「物は試しってな。動物実験とも言うけど。お前だって死にたくはなかろう」


 ほれ飲め、と俺は横たわっているグリフォンの口めがけ、小瓶の蓋を開け、中身――滋養強壮に栄養補給が出来るというお題目の、栄養ドリンク――をちょろりと垂らしたのである。毒になる可能性も考えて念のために、開けた蓋に移したちょっとだけ、だったのだが。


「グル!?」

「うわっ!?」


 でかい舌の上に垂らす程度の量だったのだが、グリフォンはくわっとばかりに目を見開き、身を翻し立ち上がった。


「おお……効いた、のか?」


 羽根や身体についた血の跡はそのままだからよくわからんが、見た感じすごく元気になってるようだった。

 グリフォンのやつも、自分の身体のあちこちを、身体を捻ったり首を振って目視確認している。


「おお、さすがファイト一発なだけはあるぜぇ……」


 たったアレッぽっちで瀕死のデカブツが元気になるとは……さすがにそこまで効果があるとは思っても見なかった。これはあれだな、いざという時用に大事に保管しておかねば。

 元気になったグリフォンは、俺を再びベロンと舐めると、今度は死にかけてるドラゴンに向かっていき、その巨大で鋭利に尖ったクチバシで、止めを刺した。


「おおう……。弱肉強食に首突っ込んでしもうた感が凄いぜ。まあドラゴンあいつが突っかかって来たせいだから俺のせいじゃないが――っ!?」

 

 ドラゴンが止めを刺された直後、俺とグリフォンの身体が淡く輝き始めた、と思ったら。


「ぐっ!? ごがああああああああぁぁぁあああ!?」


 いきなり全身に、激しい痛みが襲いかかってきた。

 全ての筋肉がこむら返りを起こしたような痛みを訴えはじめ、骨という骨が軋んで悲鳴を上げていた。

 なんだこれ、と考える意識すらも途切れそうになり、暗転する視界の中に――グリフォンが、心配そうな目でにこちらを覗き込んできたのを最後に、俺は――意識を失った。




 

 意識が戻った時に、まず目に入ったのは、輝かんばかりに……というかマジで輝いてるな。

薄汚れた白と濃い茶色のツートンカラーだったグリフォンが、全身白銀の羽毛に覆われた姿に変わっていたのだ。

 同じ個体だとすぐわかったのは、その目を見たからだ。


「ぐるる?」


 大丈夫か? と言わんばかりにこちらに向かって喉を鳴らしてくるリニューアルグリフォン。

 どうやらぶっ倒れていたようである。

 両手両足の感覚は、ある。問題なく動く。痛みは――ない。

 身体を起こして立ち上がる。と、グリフォンが心配そうな目でE俺を見つめてくるが、特にこれと言った不具合はない。手足を振ったり身体を捻ったりして確かめる。怪我もない。はて、あの痛みは何だったのか。

「うん、命に別状はなさそうだ。見張っててくれたのか? ありがとよ」

 顔を寄せてくるグリフォンの頭を感謝を込めて撫でてみる。

 うほ、ふっさふさもっふもふで羽毛に手が沈み込むぞ。

 こらぁ気持ちええ、と思っているとグリフォンの方もそう感じているのか目を閉じて撫でられるままにしていた。


「さてこれからどうするか」


 すぐ側には、ドラゴンの死体。

俺がぶっ叩いて半ば吹き飛んでいた頭が、グリフォンによって完全に砕かれていろいろはみ出てる。おまけに俺が意識を失っっている間に腹ごしらえでもしたのか、内蔵部分が大きくえぐられていろいろ無くなってるっぽかった。

 うーん、グロイ……が、なんか映像でクジラの腑分けを見ているみたいで、ただでさえ薄い現実味が輪をかけて感じられなかった。

 

「ゲームとかだと勝手にドロップしてくれるんだけどなぁ……龍鱗とか。流石にそれはないのか」


 物言わぬ躯となったドラゴンに近寄り、俺はその体表に触れてみる。

 硬い。何の気なしに触れてみたが、もうカッチンカッチンである。手のひらサイズの鱗を一枚剥がしてみようとしたが、その鱗一枚一枚が、削り出した金属片のようで、下手な触り方をすると怪我じゃ済まないだろうと思えるほどだった。おまけに工具でもないと剥がせないくらいに頑丈である。


「こんなのの頭を吹き飛ばせるとか、なんなんだいったい」


 そんなドラゴンをぶっ叩いた肩に下げてるカバンに触れてみるが、傷がついた様子はない。どう見ても、触れても摘んでも、いつもどおりの俺のカバンである。なんでこれで鉄よりも硬そうな鱗に包まれたドラゴンの顎を吹き飛ばせたのか甚だ疑問である。

 もっかい試しに死体を殴ってみるか? とも思うが正直死体殴りとか趣味じゃないのでパス。

 それよりも、だ。


「これ食えるのかね?」


 腹が減った、のだ。

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