54 久しぶりのお城での朝
ガシスは、ワイングラスにあのいびつな形をしたスプーンで「チリチリチリン♪」と鳴らした。
一斉にひそひそ声がピタッと止まる。
「ええ・・・この朝早い中、皆集まってくれてありがとう」
皆じゃないけど。・・・・アマノ王女がね。
私は、この朝、ゆっくりするはずだった・・・。
「・・・・ずっと、アマノが異世界のテンヤという顔がそっくりな人と入れ替わっていたようで、昨日しっかりつかまえたばかりだ。アマノにはしっかり反省をさせたいと思っている」
さっと、皆私の方を見た。
あの・・・私、ガシスの言う「アマノ」じゃないよ?
しっかり勘違いしてるよ?!
私は、皆とガシスを睨んだ。
「まあ、今日は平和な日になるだろう。ゆっくりしていってくれ・・乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
「乾杯・・・」
・・・もういつまでたってもガシスが「乾杯」というタイミングはつかめない。
そして・・・何よ?平和な日になるって?
私は全然平和じゃないよ?!!
何?ゆっくりしてってって・・・?
舞踏会?今、普通に朝なんですけど?
こんな私がゆっくりできるかあっ!!!!
おまけに、ガシスの言葉のせいで、私が問題児扱いされちゃったし。
いや、確かにアマノ王女は元から問題児だけどさ・・・。
はあ・・・もうなんでいっつもめんどくさいことを私に丸投げするわけ?
え?これ、絶対アマノ王女の仕業だよね・・?
私、アマノ王女の影武者じゃないんだけど?
本当、ワガママ・・・。
最初から最後まで。
「アマノ王女様」
「・・・・・・」
「アマノ王女様?」
「・・え、あ、はい?」
ずっとイライラしたから、侍女に話しかけられて気が付くのに時間がかかった。
・・・・あと、今の私が一応周りから見れば「アマノ王女」だということも。
まあ、農民の服着てるけどね。
「覚えていますか?」
「・・・・?」
いやいや、そう言われても。
・・・・でも、前にも同じようなことがあった気がする。
確か・・・ここに来始めた時のこと。
私は眉間にしわを寄せて、この人の顔をジロジロと見た。
その人は、私に見られて少し驚いていた。
・・・・・なんか、思い出せそうなんだけど・・・。
「・・・分からないですか?・・・じゃあ、『二ホンノハナシ』は?」
「は?」
さっきまで思い出せそうだったのに、なんか害された気がする。
『二ホンノハナシ』?
何それ?
『二ホンノハナシ』って・・・『日本の話』だよね?
私が住んでる『日本』の話?
そんなの言われた覚えもないけど。
・・・・・・・・ん?
そういえば、このメイドの服、たれ目、妙にサラサラの金髪を束ねたお団子・・・・。
あの時は特に印象に残らなかったけど・・・。
「もしや、料理の紹介をしてくれた?」
「ええ?!」
その人は、なぜか大げさに席から飛び出てしまった。
あれ・・・なんか違う人?
もしや、人違い?
「・・・・・ピーリーさん・・・じゃないの?」
「・・・いいえ、・・え?いや、ピーリーは合ってるんですけど・・・」
ん?
ピーリーは合ってるってどういうこと?
そして、急にピーリー(と仮定することにする)はキョロキョロ回りを見渡して、私の耳に顔を近づけてきた。
「・・・魔法の廊下で会いましょう」
ピーリーは、その後侍従のキトワに呼ばれて、去ってしまった。
・・・・魔法の廊下がどこか聞くことができなかった・・・。




