5 本人降臨?
行方不明となったアマノ王女だと誤解され、異世界の国ゾルランに誘拐された姫。
姫は制服や普段の外見を正され、王女仕様に。そのあとーー?
私は窓をじいっと見つめた。
今日はきれいな円い満月。ピカリ、ピカリと輝いてた。
ふいに謎に全身赤の服で覆われている者が窓から現れた。口も赤い布で覆われ、目しか見えない。
「!!」
その人は私に驚いたようだ。
私も驚いたが逃げる気力もない。
その人が忍者だって知っている・・・が。
「ガサッ!」
「んっっっ!!」
その人は素早く私に乗って布をかぶせられた。
もちろん私は後ろにのけぞり、ある意味床ドン?いや、ベットだからベットドン?をされている状態。
「飲め」
「ぶう!!」
不作法にその人に緑色の瓶の薬を飲まされた。
一口で薬だと分かった。
なんでここでも薬を飲まされるの・・・・。
「え?」
気が付くと、椅子に座られ、縛られていた。よくテレビで見る拷問状態?
「ほら、白状しなさい!」
「は?」
目の前には目だけでも分かるしかめっ面をした赤忍者。
でも「話せ」と言われても理由を言ってもらわないと分からないのですが。
「ほら!話しなさい!なんで私が分かったの?
私を待ってたんでしょ?なぜ、なぜ!?!」
「は??」
ますます理由が分からなくなるのですが。
赤忍者は機嫌を悪くしたようで。赤ズボンの小さなポッケから小刀を取り出した。
「ひっ!!」
「話さなきゃ、あんたの命はない。さあ、話せ!」
小刀を私の首に近づけ始めた。
なにこれ、私にサスペンスドラマの再現でもやらせてんの?
でも小刀はキラキラ輝いていて・・・・怖い・・・。
「なんですか、さっきから話せ話せ・・・。分かりませんよ・・・・。」
「はあっ!!」
なぜか赤忍者は小刀を落とした。
「しゃべった・・・!」
いやいや、あんたが「しゃべれ」って言ってたのに驚くってどういうこと?
「リディアおばさんが言ってたことは本当だったのね・・・!」
「は???」
リディアおばさん?本当?
独り言が多い、理由を話せ!
「あら、ごめんなさい。拷問やめるわ。」
赤忍者はライトをoffにした。
「多分、あなたチンプンカンプンだと思うわー、」
当たり前です。
「私はね・・・。」
赤忍者は布を取った。
「あなたは・・・・・アマノ王女!」
私と同じかっこうしているから分かる・・・。
少しボロボロだが・・・。
「そう、よく知ってるわね。」
手際よく彼女は私の縄をほどく。
「それで?あなたの名前は?」
「私は天野 姫。」
それにしても驚きだ。・・・私の名前を尋ねた。
「ふうん、姫か。だから勘違いしたのね・・。」
「?」
何のこと?
「あのね、リディアおばさんは有名な占い師なんだけど、」
はあ、そうですか・・・。
私、アマノ王女から逃げた方がいいのかな・・・。
「リディアおばさんは私に似た異世界の人をお父様がさらうって。
私本当か疑ったけどまさかね・・・!」
「違うの。」
「?」
アマノ王女は勘違いしてる。これは私の姿じゃない。「アマノ王女」の姿。
「私は本当はこんなドレス、着てない。制服を着てて、丸眼鏡をつけて、髪をおさげにしてる。」
「・・・・・!」
アマノ王女は驚いたようだ。
「制服って何?なにそれ?面白そう!」
「はあ?」
そこかっ!
私の思いは?
「まあいいや。それで?あなたの望みは?」
「え?いきなり・・・・?」
「・・・・・ないようだから私の望み!」
この姫、考える時間とかくれないかな・・・!
「あのさ、このままアマノ王女やっててくれない?」
「はい?」
嫌なんですけど?なぜ、なぜ?!
アマノ王女は腰に手をかけた。
「私ね、お父様に見つかりたくないの、まだやり残したことがあるの。」
なにそれ。
これから天国行く人みたいに・・・・。
「お城の生活はきゅうくつ。遊べない。仕事、仕事って。
そんな時いい口実が現れた。・・・・お見合い結婚。」
・・・・はあ・・・。
「ちょうどいい。これなら抜け出せるって思ったの。お見合い結婚が嫌なのもあったけど、抜け出して!
ハチャメチャやってるの!」
どこかを見ていたアマノ王女が急に私に向き直った。
「ねえ、その前にどんだけお見合い結婚、嫌なのか分かってる?」
「・・・いいえ。」
分かるわけないでしょ!!
私は一生、結婚が自由な国に暮らすはずだったんだから・・・、
まだ先だけど・・・。
「だからまだやってて。ね?」
「あの・・・。」
「ん?」
アマノ王女が反応する。
「私の将来はどうなるんですか?」
「あなたの?」
気にもしてなかったらしい。
「私連れ去られるとき、数学やってたんです。もしこのままだったら、あの世界はどうなるんですか?
私、あそこに戻りたいんです。黒板に書ききりたいんです!」
何だろう・・・自分でも言ってることが意味不明なような・・・・。
でもアマノ王女はまた腰に手をかけている。
「へえ。あなたの望みが分かった。
でもあなたを取り巻く運命は変わらない。」
それはあなたのわがままですが?
「それに大丈夫よ。」
「何がっ!」
カッとなって、アマノ王女を見た。
「うわあ。あなた、怒ると怖いわねえ。」
怖くなさそうに言うと、深呼吸をした。
「あの世界の時間は止まってるわ。」
「え?」
「知らなかったの?あの世界の人がゾルラン王国に来ると、
あの世界は止まる。」
「そうだったの?」
初めてだ、初耳だ。
誰も教えてくれなかった、誰も・・・。
それはいくら言っても私をアマノ王女だと思い込んでいるせいだとは分かっていたが。
「だから。いいのよ、一生あなたがアマノ王女でも。
喜んで大受けするわ。」
笑顔で去ろうとしたアマノ王女。このまま行ったら次にいつ会えるか分からない。
「いや、ちょっと!」
「何?」
アマノ王女は案外、怒っていなかった。笑顔で優しい声。
こ、怖い・・・なんか裏がありそうで・・・怖い・・・。
「私、やりますって一言も言ってないんですが。」
「あら、今言ったじゃない。」
せ、せこい・・・。
「いやだから、それは説明するために言ったことです。」
「いいえ、一緒だと思うわ。」
アマノ王女は頬に手をあて困ったような顔を浮かべた。
いや。一緒じゃない。
とにかくアマノ王女は私に王女の代わりをしてほしいようで。
「嫌っ!!」というほどそれをアピールしてきた。
「そうだ!」
アマノ王女は満足そうに手を打った。
「??」
「一回、試してみて、もし嫌だったら、私に文句言ってきて。
ね?それいいでしょ?どっちもハッピー!」
「はい?」
いいえ、それはあなただけのハッピーです。
「嫌ですよ、さっきから言ってるじゃないですかっ!」
「違うわあ!そんなの試してみなきゃわかんないわよ!」
アマノ王女にはそれほど大事なことがあるらしい・・・。
私の意見を尊重しなさいってば・・・・。
「じゃ、よろしく!」
アマノ王女はまたあの時のように赤布をかぶせ、赤忍者に変身した。
そして素早く窓から飛び降りた。
「あっ!待ってください、アマノ王女っ!」
窓に飛び降りたアマノ王女に大きく呼び掛けた。
するとひゅうっとあの顔が戻ってきた。
「アマノ王女・・。」
「待って。もうアマノ王女って呼ぶの禁止。
これからはアーマーって呼ぶこと。以上。」
それだけ言うとさっとまた窓に飛び降りた。
「あのっ!!」
今度はアマノ王女は戻ってこなかった。
・・・さて・・・これからどうしよう・・・。




