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25 【リディアの視点】

「ふう・・・・疲れた」

私は、一息入れてカウンター席の一つに腰を下ろした。

夫のレヴィが家出し、離婚した後、レヴィリディ(このみせ)は相変わらず繁盛したものの、人手が足りなくなっている。今では一人でてきぱきと仕事をしているが、さすがに歳で腰がついていっていない。

全くレヴィはあれから姿を見せない。

どこに行ったんだろうか?昔から女好きだったから、だれかとイチャついてでもしているのだろうか?

ま、それは私が知るべき事実ではないから、どうでもいい。

「もう、お昼か・・・」

そういえば、モーニングに気を取られて、宿泊しているヒメ・・いや、テンヤに朝ごはんをあげていなかった。この国では朝と夜しかご飯は取らないのだが、まあ、テンヤの住んでいるあっちには昼にもご飯を食べる習慣があると、アマノから聞いたので、遅めの朝ごはんをあげても何も言わないだろう。

それにちょうど、モーニングでの賑わいも去り、もう客がいないし、ここで昼ご飯を作っても何も支障はないだろう。

私はみっともなく「よいしょ」と声をあげて、席をたった。

と、それと同時にドアの上にある小さな鐘が「チリリン♪」と鳴った。

「いらっしゃい」

ドアの上の小さな鐘は客が来た証拠である。

その客はいつもこの時間帯頃にやって来る常連客。いつも一人でやってきてゆっくりと食べて帰る、そんな男だった。

「ご注文は?」

「いつものを一つ」

「了解」

そう言うと、常連客はいつもの一番はっしこの窓側の席に座った。

私はカウンターの中に入ってそのままつながっているキッチンに一直線に向かった。

彼はいつも「ガゼリーナあえ」というゾルランの昔からある伝統的なシンプルな炒め料理を食べる。

そして、テンヤは「チヂミリン」というゾルランのシーフードや野菜をジュージュー焼いた鉄板料理しか、食べない。個人的にそんなに好きじゃない料理なのだが、なぜ食べられるのだろう、彼女は・・・?

どちらもフライパンを使う。

「一気に作っちゃっていいよね」

私は埋もれた山の中から、円いフライパン二つをコンロに置き、具材などを切り、それぞれのフライパンに

別の食材を入れて、火をかけた。

そして、「ガゼリーナあえ」は炒め物なので、長い棒で食材を炒めた。

「ガゼリーナあえ」は意外とすぐできてしまうので、すぐに埋もれた山の中から、皿を用意して常連客の元へ運んで行った。

「チヂミリン」はほっといて焼いとけばいいので、ほっといた。


「お待たせしました、いつものガゼリーナあえです」

「ああ!ありがとう、これだよ・・これ」

客は料理が付いたとたんにフォークを手に取り、食べ始めた。

ただ、そのスピードはいつものゆっくり。

私はその光景をにっこりと微笑み、またキッチンに戻った。

しかしチヂミリンはなぜかその日によって焼き時間が変わる。

湿気、火の強さ(温度)などで変わると。

だからほっといてもほんの数秒しかほっとくことができない。それはおかしいと思うのだが。

今日のチヂミリンはキッチンに着いたときにちょうどいい焼き具合という様子だった。

全く世話が焼ける、チヂミリンは。こんなふうにめんどくさいのに、美味しくない、そしてそれなのになぜかテンヤはこれしか食べようとしない。

まあ、ここの世界に慣れるのに結構大変だと思うけどさ。

これまた埋もれた山の中から、鉄板を取り出し、そのなかに出来上がったチヂミリンを入れていく。

「さあ、これは倉庫だ」

テンヤは自力できれいになった倉庫で寝ている。

「・・・・・・あれ?いない・・・」

いざ、倉庫に行ったのに肝心の本人、テンヤ ヒメはいなかった。

どうしてなのだろう?おかしい・・・なぜ?こんなことはなかったはず・・・


-「リディア、私ゾルランの町探索に行ってきてもいいですか?」


急に朝テンヤが言ってきた言葉がよみがえってきた。

私はその時、そんなの考える余裕なんてなかったもんだから、適当に答えていた気がする。

でも探索にしては遅い。朝行ってきたんなら、この時間帯に帰って戻ってくるはず。

ということはテンヤは行方不明?

じゃあこのチヂミリンはどうすればいいのだろう。そして今テンヤはどこにいるのだろう。

これはレヴィのことではない、泊まらせた私の責任が伴っているので私は知る必要がある。

でも手がかりは何もない。


「どうしたの?」

常連客が聞いたきた。どうやら、私の顔を見てなにか異変に気付いたご様子。

「いやねえ、私ある宿泊客を泊めてたんだけどね・・いなくなっちまったんだよ」

「ええ?片付けるのが苦手なのに、宿泊にしたの?リディア」

「アンダラにそう言われると傷つく」

「そう?・・・・そう言えば、いなくなったといえば、なんか家の親父が大騒ぎしててね」

「大騒ぎ?」

急に何の話だろう。

「なんか親父が『アマノ王女を見つけた』って近所の人に言いふらして」

「アマノ王女??」

何日も逃亡を続けているあのアマノ王女が?

「なんか、親父はお店やってんだけどね『ミスター』ってダッサイ店」

「ええ?アンダラは『ミスター』の店長の息子だったの??」

「・・・あれ?言ってなかったっけ・・・で、毎日赤字なんだけど。今日319,112ビルドも払ったお客さんがいて、それがどうもアマノ王女らしくて。追いかけたんだけど、掴まらなくて逃げ切られたんだってさ」

「ふうん」

しかしそれがどうもアマノ王女に思えない。そんなバカなこと、アマノ王女はしないからだ。

・・・・あっ。

そう言えば、テンヤはアマノ王女に似ていてそのせいで、この世界に迷い込んでしまった。

もしや、それはアマノ王女ではなくテンヤでは・・・・?

そうなると、大変だ。

手がかりはつかめたが、もっと足取りが分からなくなってしまった。

しょうがない・・。

一つ一つ手がかりを探していくか。


私は作ったばかりのチヂミリンを口に運んだ。




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