20 鉢合わせ
「え?ど、どういうことですか?」
そう言いながら、なじみのあるリディアがつけているエプロンを凝視した。
な、なじみのあるって言っても見たの昨日からだったなあ・・・。
「うちは・・・さっきトレイ奪ってったでしょ?料理、口に合ってたのかなあ?・・・って思ったから」
「あ!・・・ああ・・そういうこと!ああ・・・なんだ」
安心した・・・・。ゴミの件については忘れたようだ。
『よくも大事な品々を「ゴミ」と言ったな』って・・・いうかと思って・・・ハラハラした~・・・
しかし、挙動不審な私を見て、リディアの頭には?が浮かんでいる。
「うんと・・・・・さっきのあんたの『違うんですっ!ゴミって思ってません!!』って言葉こそ何・・?」
ゲッ!!
説明しないといけないの?ええっと・・・・う~ん・・・・・って頭真っ白!
一人あたふためいていると、リディアは「あっ」と声を漏らした。
「トレイ、置いてくれたのね・・・・・ああ、もう少しで完食だったのに・・」
どうやら、リディアは洗面台に置いたトレイに気がいっているようだった。
ああ、助かった・・・・・・。よし、思い出させないように仕向けなければ・・・。
「なんで完食しなかったのかい?」
・・ったっ!
げ、またもやピンチ!!
ええっとどうすればいいのか?まずいって言ったら、「はあ?」って怒りそうだよなあ・・・。
「あの、これはっ・・・」
「はあ、やっぱり口に合わなかったか・・・」
しかしリディアはなぜだか「うんうん」と一人で納得してしまった。
「ごめんねえ・・・・ゾルランの料理はは精一杯やっても、口に合わないと思うよ」
「あ、だ、大丈夫です・・・」
ふう・・・・なんとか良かった・・・。
安心した私はさっき思い浮かんだ質問を投げかけることにした。
「リディア、エプロン付けてますけど・・・・・これから店なんですか?」
「まあ、ね。こんなに天気いいし・・・モーニングでもやろうかと」
モーニング?!
へえ・・・ゾルランにもモーニングは存在してたんだ・・・・。
「・・・ん?」
気づけば、リディアが目を丸くして、私の顔を覗き込んできた。
な、何?
なんか、私悪いことした?悪いこと、言った?はあ!・・・もしかしてセーフに見えて、気に障るようなこと言っちゃった?!ええっ?!
頭の中でパニックになって、固まっているとリディアがその理由を教えてくれた。
「いや・・・初めてうちのこと『リディア』って呼び捨てにしたから・・・びっくりして・・」
「え?あっ・・・・・」
確かにアマノ王女でも「リディアおばさん」と付けていたぐらいだ。結構勇気のいることをしてしまった・・・・。
「でも、それでもうちはいいけど」
そうリディアは付け加えると、店の開店準備をするため、奥の店側に行ってしまった。
私は一人、キッチンに立っていた。
ふう・・・・もう大丈夫だ・・・
「さて、邪魔になるから倉庫掃除でもしよっかな・・・」
改めて倉庫の前に立ってみると、いろんな色のものが混ざり、遠くから見ると黒く灰色に見えるゴミ。
それが天井までもう届きそうである。
ああ・・・掃除する気、うせちゃいそう・・・・。
ただ、今思ってみたがぼちぼちこの町で歩く人が増えてきている。もしかしたら、舞踏会で浮かれ帰っている人もいそう・・・。
そしたら、もしかしたらバレてしまう・・・・アマノ王女と私の顔って似てるもんね・・・。
な・の・で、
私はなるべく倉庫にこもりながら掃除することにした。
まずは、小さなゴミ山。割れた食器、汚れた食器など、キッチン用品が積まれていた。
ただ、これは絶対ゴミだと思うので、まとめることに・・・・ってあれ?
「ゴミ袋は・・・・・」
近くにあるか、探してみるけどゴミのせいで探す範囲が狭い。上に、見つからなかった・・・・。第一ここは異世界だし、ゴミ袋は・・・・でもそうしたらここの人たちどうやってゴミ出しに?
それとも、もしやどこもリディアのような家なのか・・・?
いや、でもゴミぐらい出すでしょ・・・待てよ、お城はゴミ出しどんな感じだったっけ・・・
・・・・・・・
「ぐるぐる回った記憶しかない・・・・」
うんと・・・しょうがないなあ・・・とりあえず外に出して・・
と、食器たちをかかえて外に出ていると・・
「なにをしてるの!!!!!」
甲高い悲鳴に近い、でも説教がましい声が聞こえてきた。
え?何、だれ・・・?もしやお城のスパイに掴まった?
いや、ここはそもそもゾルランだし、スパイなんて存在しない?あ!護衛がいた・・・・
私は固まった・・・・が、声をかけた向こうも固まったようだ・・・。
恐る恐る顔を上げてみると・・・・
「ってリディアじゃん」
突っ込んで気が緩み、持っていた割れていた食器を落とし、さらに細かく割らせてしまった・・。
「何をしてたの?」
また、リディアが改めてさっきよりも小さなボリュームで訊いた。
「いや・・・汚れていたのできれいにしようかと・・・」
私は小さな小さな食器の破片を一つ一つ拾いながら、言った。
「あ」
「『あ』って?」
リディアがすぐ反応して言ってきた。
私はまた顔を上げて、リディアの顔をちらりと伺いながら、手を横にふった。
「なんでもないです・・・」
さっき、リディアは私が倉庫のもののことを『ゴミ』って言ったことを忘れてしまった。
それがもしや、私が言った言葉で思い出して怒るんじゃないのかと思ったのだ。
・・・・・・・でも案外すっぱり忘れてる。
「うち、掃除なんてお願いしてないけど・・・」
「で、でもきれいな方が気持ちよくないですか?それに私は倉庫を貸してもらってるのでなにかお詫びにって思って・・・」
リディアは唇をかみながら、倉庫のゴミ山を見つめた。
もしや・・・ダメ?変なことしちゃった?
「ご、ごめんなさい・・掃除しちゃダメですよね」
「ううん」
リディアは首を横にブンブン振った。
「大丈夫、うちは掃除するのあんまり得意じゃないから・・・・じゃあ、掃除お願いしようかな・・・」
「は、はいっ」
良かった・・・これなら良質な睡眠がとれる・・・。
☆
「あれ、あの子は・・・・」
「ええ。分かってるわ、言わなくていいから」
ぴしゃりとそう言って指さそうとする女の腕を止める。
「逃げた方がいいんじゃない?」
「いいの・・・どうせ、見つからないよ・・・自信あるから」
彼女はそう言って、胸を張った。
「もう・・・・そういうところに呆れるわ・・全く、世話が焼けるわ」




