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2 私は天野 姫(てんや ひめ)!!

え、ここどこ?

「おう、気が付いたみたいだぞ!」

なぜかたくさんの人に囲まれている。

な、なに?

周りはガヤガヤ騒いでいる。確かにガヤガヤが恋しいとは言ったがこういうことじゃない。

「よし、運ぶぞ。」・・・

だれか教えて・・・・!


三角形の帽子を付けた侍従が膝を折った。

「王様、つれてまいりました。」

「何をだ」

王様は大きな玉座に座っていた。基本的にいつも定位置はここだ。

「王様、忘れておったのですか?あんなに心配されておりましたのに。

 アマノ王女のことですよ。」

「ああ。娘のことか。忘れておった。」

王様はポリポリひげをかいた。

「忘れちゃだめですよ!」

侍従は呆れてため息をついた。

「まあ、とにかくアマノ王女です。」


私は気が付いたら赤いじゅうたんの上を歩いていた。なぜか左右に分かれたラッパを吹いた人たちに見つめられた。見つめられることには慣れているが、こんな状況はめったにない。

それに久しぶりに緊張していた。

「おお、アマノ。久しぶりだなあ。」

白いひげを生やしたおじいちゃんに抱かれてしまった。私は思いっきり目を大きくした。

「え、あの、私、テンヤなんですけど。あの、あなたに会ったこともないんですけど。」

「なんなんだ、ふざけるのはやめろ。その手にはもう乗らないぞ。」

そのおじいちゃんは笑顔を見せた。ぼちぼち虫歯で黒くなってしまった歯が見えてしまったほど。

うわあ、どす黒い・・。見たくなかった・・・。

「そうだ、アマノ。会ってなかった時どうしておった?心配したんだぞ。」

「嘘つけ。忘れていたくせに。」

後ろに立った侍従が小声で反論した。そのおじいちゃんは侍従のほうを見た。どうやら、耳はいいらしい。

「なんと言った。侍従。」

「いえ、ただ私はキトワという名前です。きちんとそういってほしいです。」

おじいちゃんは侍従ーキトワを無視し、私の答えを待っているようだった。

でも私は困るばかり。こんなに不意打ちに立たされたのは初めてだろう。

「多分、あなたは勘違いされていると思います。私はただの天野 姫であって、ここにいるのはおかしいと思います。・・・まさかとは思いますがここテレビ局ですか?これ、テレビで放送されるのですか?

だったら、事前にスカウトされないと困ります。」

場にいるみんな、びっくりしたようだ。

全く、呆れてしまう。思うがまま話しただけだというのに。

「侍従。」

おじいちゃんはキトワを呼んだ。今度は反論せず黙っておじいちゃんの近くに寄った。もともと近くだったというのに。

「はい、なんでしょう。王様。」

私は目を大きくした。なんと、このおじいちゃんは王様だったのだ。

「アマノを休ませろ。まだ、疲れが取れてないようだ。休ませた後、またここにくるのだ。アマノ。」

侍従はぺこりとお辞儀をすると、私の横についた。案内係になるようだ。

全く、名前を教えたのに。

「アマノ王女、こちらです。」

途中で気が付いていたがここは王宮の中のようだ。金色のものがぼちぼち見える。それが何かはわからないが。

また、ファンファーレを吹いている大勢の人に見つめられ戸惑った。異世界に来ただけでも困るってのにそ

の現地の人に見つめられるのはおかしい。ましてや、私はそもそも黒板に文字を書くという最高の瞬間を

邪魔され気が狂いそう。

ドアがたくさんあり、変な文字が刻まれていた。その文字は日本語でもなく、英語でもなかった。

そんなドアから、キトワは迷いなく奥から3番目の右側のドアを案内した。

「こちらのお部屋です、アマノ王女。」

その部屋は私の部屋の四倍もあった。今思えば私の家庭、貧乏だったのかな?

天井からぶら下げた長布のかかったベット。小さな机。本棚、しかもその中にはびっしりとまた意味の分からん文字が書かれている本が入っていた。しかも、奥にはまた別のドアがあった。これはドレッシングルームで、たくさん服が入っている、とキトワは語った。

机とベットの横には大きな鏡が挟まれていた。ふと、自分が制服を着ていることに気が付いた。そりゃあそうだ。数学の授業中に誘拐されたんだもの、そんなのは当たり前。

ど正面には正方形の窓が付いていて、その下には昼寝できるミニベット。その横にはなぜかドアノブがついている。

「?」

ドアノブを回して開けると実は、窓、ミニベットがドアになっていて、開放的な半円のテラスに出た。

風は気持ちいいが、外はそうでもない。たくさん市場があって、人がうじゃうじゃ動き回ってる。

期待したのが、間違いだったのかも。

「どうですかあ?アマノ王女。」

「うわあっ!!」

いつの間にかキトワが横にいた。

「何ですか、アマノ王女。いつも私がこんなことするってわかっているじゃないですか。」

・・・・知らない。

「久しぶりにこの風景、見てみてどうですか?」

ノーコメント。で、私はそそくさとテラスを去っていった。


私はしばらくこの部屋を眺めることにした。

で。

本棚の上になぜか一冊いろんな色(赤とか緑とかその他)が混ざっている本が横にしておいてあるのを見つけた。その本は背伸びしないと取れない・・というかそれ以上かも、なので背伸びして一生懸命取っていた。

「あっ!取れた!」

しかし、悲劇なことに私はその本を手から放してしてしまった。

「あっ!いったあっ!!」

驚くことにその本は私の上履きの上にきれいに落ち、しかも痛みがボウリングの球を落とされてしまったときのように痛かった。

「あっ!大丈夫ですか!アマノ王女。すぐ、病院に連れていきますね。」

・・えっ?

慌てて、キトワの腕を掴んだ。

「大丈夫。病院なんて連れて行かないで、ただのケガよ、キトワ。」

「アマノ王女様。」

ふいに、キトワは私を呼び止めた。痛かったし、「様」なんて呼ばれてしまったから。

見上げると。

「嬉しいです。」

「えっ?」

意味が分からない。キトワは目を潤ませてる。

もしかして・・・、私を、し、死なせる気っ?!

離れようと立ち上がるとキトワは私みたいに私の腕を掴んだ。・・・う、すごい力・・・。

「今、やっと名前で呼んでくれた・・王様は『侍従、侍従!』としか呼んでもらえなくて・・。

 以前のアマノ王女もそうで・・。ああ!嬉しい!」

・・・そ、それだけ?

「ああ、失礼。」

キトワはポケットからハンカチを出すと、目を拭いたり、鼻をかんだりした。

でもなかなか止まらない、キトワの涙と鼻詰まり。

・・・そんなに?

私はもう痛みがなくなってしまった。手当してほしかったが。

私は制服のポケットから、ポケットティッシュを取り出した。

「はい、これ使って。ハンカチ汚くなるだけだし。」

「王女様はこんな高価なものを持っているのですね、・・・すごい。」

キトワがポロリ。

えっ?ハンカチよりティッシュ、安いけど?

キトワは一枚ティッシュを取り出すと、鼻をかんだ。私、この人の鼻かむ姿見たくてこうなったんじゃないんですけど?!

「失礼いたします。アマノ王女。侍女のメアイと申します。」

かわいらしい声とは一変。この部屋の、引き戸ともいえるドアを豪快に開ける音が響いた。

怖い・・怒ってる?

しかし、表に出てきたのはやっぱり、声と同じかわいらしい子だった。メイド姿に身を包んでいる。

怒っている様子はない。

「お風呂の順番がアマノ王女に回ってきました。」

「え、はい。」

この異世界ではお風呂という文化は生きてるらしい。少し安心した。

「お一人でお願いします。」

お一人・・・・?!この異世界で全くわからんところを一人でさまよえと?!

しょうがなく部屋に出てきた。

のだが。

「何なのよ、あんたあ!王女に弱いところ見せおって!王女、迷惑してたぞ!」

「ひいいい!そんなこと・・、」

「そんなことあるわい!何のためにここに飛び込んだ?!」

「手当のため・・」

「で?手当できてないじゃん。男なのに情けない。」

「ひいいいい・・・!」

部屋から声が丸聞こえ。

怒ってるのはメアイだろう。女はこんなに男に叱れるものなのか・・・。

それに王様の侍従だから、それなりに偉いはず・・・。

メアイのすごさをしみじみ実感しながら、さっき歩いたであろう赤いじゅうたんの道に入った。

きっと、「一人で行って」というのは私のこと、本当にアマノ姫だと思っているから。でもいくら、私がアマノ姫だとしても、少しは忘れているはず。だから配慮を考えて案内するはずなのに。

親切なことに王宮の地図が貼ってあったが、分からない。

全く。なぜ日本語にしてくれないのか。

少々プンプンしながら、右往左往してみた。ここはホテルのように頑固階段が多い。

「はあ。全く・・。」

「アマノか?」

聞いたことある声。振り返ると。

「王様!」

「王様はよせ。『父上』か『ガシス様』にしてくれ。

 全く、王宮を離れたとたん、忘れてしまうんだから・・・。」

どうやら、王様の名前はガシスらしい。

「それより・・・・アマノ、どうした?お風呂の順番じゃないか。」

「えっと・・お風呂の場所が分からなくなってしまったので・・。」

ガシスは一瞬怪訝な顔をしたが、急に何かを思い出したようだ。すぐにその表情を消した。

「そうだ、アマノは久しぶりだったなあ。連れてってやる。」

「あ!ありがとうございます!」

ガシスは階段を12段、降りその奥に閉ざされたドアがあり、その門番に何か話した後、門番が開けてくれた。

「そうですか、アマノ王女ですか。久しぶりですねえ。」

「え、はい・・。」

反論する力もなく、門番にとにかく合わせた。


ドアの先にはさらにドアがたくさんあったが、ガシスは迷いなく左の角を曲がった。

すると、急に「女湯」、「男湯」の文字らしきのれんが出てきた。相変わらず、なんて書いてあるか分からないが。

「ここだよ。ピンクの布の方が女湯だ。じゃあ、いい夜を。」

ガシスは静かに来た道を戻った。

「・・・さて、ここまで来たんだし。入るか。」

のれんをくぐるり、私はたった一人だけのお風呂を楽しんだ。


さすがにかごの中にタオルはあるが、替えはなかったので仕方なく制服で我慢した。

その先は覚えている。私はバカではない。そのぐらい覚えられる。

それで、部屋に戻ると。

「!」

メアイがキトワに襲い掛かっていた。こ、これはあ・・・?!メアイがすぐに気が付いてとっさに立ち上がった。

「これは、これは・・アマノ王女。部屋に入るときはノックして入られては?」

え?なんで?

「ここ、私の部屋として用意されたじゃ・・・?いちいち自分の部屋に入るためにノックします?」

「・・・そうですね・・。」

メアイとキトワはお辞儀をして退散した。

また違うところでメアイはキトワに襲い掛かるのだろうか?そう思うとキトワがかわいそうに思えてきた。

とにかく、寝よう。


それで私は頭にタオルを置いて、髪がまだ乾いていないまま、眠りに落ちた。


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