17 リディアと二人きりで
「ところで」
私はリディアがキッチンから出てきたのを見計らって、切り出した。
リディアは少し困惑しながら、カウンターにしゃがみこんだ。
「なんだい?」
リディアがそうカウンターから取り出したのはワイングラス。普通の現実にしっかり存在しているワイングラス。
ここ、ゾルランって現実にあるものとないものの境目が中途半端なんだよね・・・
リディアがワイングラスを紫の布でまた、拭く光景を見て、別のことを思い出してしまった。
「あっ!」
考えと少し反応が遅い・・・・と自分でも思った。
リディアは不思議そうに見つめ、ワイングラスを拭く手を止めた。
「これ・・・払ってませんでしたよね・・」
スススと音を立ててそれはリディアに滑り込む。
「こ、これは・・・」
リディアはそれを手に取って、少し見、私に視線を移した。
「いいよ、払わなくて」
リディアはそれを返した。
私が取り出したのは紙・・。この国のお金・・札束。
お札には色々なゾル語が刻み込まれている。複雑すぎてよくわからないが、分かるのはただ一つ。
このお札は「100(ワン)タリィ」だということ。なぜかお金の言い方でゾルランでは円、ではなくタリィなのだ。
「あまりお金、ないでしょ?こんなボロ店にお金を出す余裕つくらなくていいよ」
自分で自覚・・?
それにお金があまりないわけでもなかった。
たくさんのお金を持たせたのだ・・お城の人が。
いや、本当は侍女のメアイが持たせた。
『テンヤさん、きっと逃亡したらお金があっという間に無くなります・・だからこれくらい持ってってください』
メアイが言ったその「これくらい」は、携帯ホルダーみたいなバックにぎりぎり入ってパンパン・・・のぐらいの量だった・・・。
『でもこんなにいいのに・・・逆に狙われますよ・・・!』
『いいの、ゾルランの人はそんなんじゃないから・・・』
『・・・こんな量のお金、どうしたんですか?』
『貯金よ・・・・もしものためにって』
こんな私のために貯金をはたく必要はないと思うけど・・・?
「でもいいんです・・・お店のために使ってください」
座りながらぺこりと小さくお辞儀をした。
リディアはそんな様子を見て、困った顔をし、申し訳なさそうになぜかまたキッチンに姿を消した。
リディアはキッチンめっちゃ行くんだなあ・・・
あっ・・・そうだ・・こんなやり取りして本題に入ってない・・・
「あんたはいつまでいるのかい?」
リディアはカウンターの角に両手をついて訊いた。
「閉店時間なんですか?」
「まあ、そうだけど・・」
そんなら・・ちんたらこんなことをやっている場合ではない・・・
本題を切り出さないと・・・
「あの、私をここに置いてもらいませんか?二日とか、短期間でいいので」
リディアの左眉がピクッと動いたのが分かった。
だめか・・・これは怒る寸前・・?
「いいよ、汚いけど」
なぜ、自分で自覚しておきながら・・・
でも、まさか置いてもらえるとは思わなかった。
結構時間が空いてから「え!」と席から勢いよく離れた。
「今更、遅いよ。反応」
はい・・・自分でも思いましたから。
「まあ、ついてきて」
私は席に着こうとしたのを、リディアの声でまた立つことになってしまい、思わずドテーンと軽く転んでしまった。
運動能力・・なさすぎ・・。
しかしリディアはどうやら気が付かないでズンズン前に行ってしまったので、
私はできるだけ何もなかったかのようについていくことにした。