15 ジジミリンを食べる
「・・・んん・・・・」
なんだろう。この味。
なんとも言えない。
まずいわけでもないし・・・・おいしいわけでもない・・・。
もしかしたら、異世界にいすぎて味覚がおかしくなったのかもしれなかった。
「どうだい?おいしいだろう・・?」
リディアがドヤ顔で顔を近づけてくる。
これはひとまず、おいしいと言った方がいいんじゃ・・・?
「・・おいし」
「でも、率直な意見が欲しいんだ・・」
「・・・い」
私がおいしいの「おいし」まで言いかけたところにリディアが割り込んできた。
私はゆっくりと音を立てずにスプーン・・・よりはおかしな形をしたものを置いた。
「でも私がたとえ『おいしくない』と言っても変えられないんですよね?」
「・・・ということはまずいってことかい?」
「そうは言ってません。ただ、私は確認を」
「そうやって気を使わなくてもいいだよ・・・はっきり言えばいいのさ」
「・・・・・・」
ついに私は黙り込んだ。
本当にまずいのか分からない。ただそういったところで果たしてこの味は改善するのかどうか・・・
よく考えたらこの国、味音痴だ。
異世界だから取れないものもたくさんあると思うが・・・城のものでさえもおいしくない。
「まあまずかったら、ごめんなさいね・・・この国、この世界はこんぐらいの出来だもんで」
「いいえっ!」
私はブンブン、手を横にふった。
なぜそうしたか・・・私でも分からない。
「・・・・ところで。あんた、舞踏会を飛び出してきたんだね?」
「・・・・・はい」
このリディアには正直なことを言った方がいい・・・・かも。
「でもそれはまずいんじゃないか?」
「・・・・それはなぜ??」
私は「ジジミリン」を食べないようにした。
お腹はすいているが・・・辛抱だ。
「だって・・・主役がいなくなるのは誰だって気が付くんじゃないか?
それよりも普通の日に逃走した方がいい」
「でも・・・護衛がこっそり話してましたよ?
『王様は忘れる』って・・・」
「んっ・・・それは・・・アマノ王女の逃走の糸口がうまいからだよ・・・
アマノ王女は何日も逃走が成功したんだ・・・」
リディアは察して、鉄板を下げ、奥のキッチンに姿を消した。
私は水の入ったコップを見ながら、ため息をついた。
チリリン♪
誰か来る・・・・
その誰かは分からないが、その人が私を見て、拡散する可能性がある。
必死になって、カウンターのわずかの隙間に体を丸めた。
「おい、店員っ」
「はいっ、なんでしょう・・・?」
明るい声でキッチンからリディアは姿を現したようだが、この客は嫌な予感がする。
トコトコ・・・・
ブーツの派手な足音がどんどん近づいてくる。
「この店にアマノ王女は見かけなかったか?」
「いいえ」
リディアは即答した。
「そうか?本当は見かけたんじゃないのか?」
「何の事でしょう?」
「・・・・我々はこういうものだ」
隙間から、兵隊のかっこうをした人がどこかのテレビ映画のように、エンブレムを出すのが見える。
「護衛だから何ですか?
あたしは知らないって言ってるじゃないですか?」
リディアは声を張り上げる。
ゲッ!護衛!
あのよく分からないりんご売り場で気をとらしていたのに・・・
「そうですか?
我々は分かっているのですよ?一回目の逃亡の時にあなたがかくまったんだって・・・」
「何の事ですか?」
まあこう返事するしかないよね・・・・
ただメアイとは違い、取り乱すことはない。
「一回目は見逃してあげましたが・・・・二回目は・・・・・」
「だから何ですか?
あたしには一切関係のないものです」
「いいや、関係ある。そんなに認めないのなら、牢屋に入ってもらう」
・・・・・
なんて一方的な・・・・
ガシャッ
「槍で脅しですか?」
リディアは槍を目の前にしても落ち着いているようだった。
「これで最後だ・・・・もう一度聞く・・・この店にアマノ王女を見かけなかったか?」