13 護衛に追いかけられる
前回のあらすじ
姫は、舞踏会当日、逃亡するために、ベランダから下りたのだがー。
って。
私は風には逆らえない。
それに下のものがコンクリートだということ(ってこの世界にコンクリートあるんだねえw)、それを変える力がない。
なのにだ。
これは絶対おかしい。
「白い・・・柔らかい・・・」
下にあるものは明らかに白い、柔らかい・・・マットだ。
こんなのおかしい。
さっきは明らかに黒い、硬いコンクリートだったはず、なのに。
「テンヤさあん・・!逃げてください!突っ立ってないで!これはあなっ」
メアイの声が途中で途切れる。誰かに手をかぶせられている、きっと。
そうだ。
逃げなきゃ意味ない。
マットの上を走りだした。
「護衛!アマノ王女をとらえるのだ!」
「はいっ!」
王様の冷たい声が響いた。
まずい、完全に気が付かれた。
キトワめええええええええ~!
後ろには馬の高らかな「ヒヒ~ン」という鳴き声が聞こえた。
きっと、王様の申し付けた護衛の馬だ。
それで。
役に立たないのは、運動神経の悪さ。
後ろを振り向いていないが、護衛の荒い鼻息がもう聞こえてくる。
もう、役立たず!
その前になんでこんなへんてこな国に誘拐されなきゃいけないわけ??
おかしいでしょ?私、ただ黒板に方程式の解き方を書きにいっただけなんだけど?
私、なんにも悪いこと、した覚えはないんですが?
「あっ」
もうとにかく荒れている城下町(多分)がだんだん見えてきた。
市場や、店がたくさん並んでいるので、隠れるのにちょうどいい。
珍しくレンガでできている店と、布をかぶせただけの市場が挟まった細い道めがけて、右へ曲がった。
「おい、右に曲がったぞ」
「追いかけろっ」
口々に護衛が話す声が聞こえてきた。
そりゃあそうだ。足が遅いせいでどこに行ったのか思いっきりわかる。
私は力を振り絞って、さらに右へ曲がり、先ほどよりももっと暗い細い道めがけてまたまた右へ曲がった。
息を必死で殺して、暗がりの中で周りの雑音を聞いていた。
「おいしい、おいしいりんごはいかが~」
うわあ、何気に市場の人の声。
「おい、アマノ王女はどこへ行った?」
「確かここを曲がったはずだよな?」
ふう、良かった。ばれなかった・・・。
「あらあ、おいしそうね、いくら~?」
消費者の方ですか?
「探せっ」
「ええっとねえ、あらあ、いくらかしら~?」
うわあ、売ってる側なのに値段が分からないって・・・
やっぱり、この国どうかしてるっ!
「分かりませんよ、そんなの」
まあ、そうなるがな。
「やばいじゃないですかあ、アマノ王女、見つけないと帰らせないって言ってましたよお!?」
怖いなあ・・・、私本物じゃないんだけど・・・・。
どこかの童話のお妃様みたい・・・。
「なんだとっ?!なぜそれを言わないんだっ、ワリワリッ!」
「ワリワリじゃなくて、ワリトです!」
いや、どっちにしろ、変な名前だって・・・!
「そんなのどうでもいいっ」
「その前にりんごってなにかしら~?」
だったら、なんで買おうとした、消費者よ。
「おい、王様に怒られるぞ?いなかった時の態度は超絶怖かったからな・・。」
「でも、忘れてしまったら普通の時に戻ったぞ?」
え?そもそもなぜ娘のことを・・
「あのお、そこの人たち・・・」
「「はい??」」
りんごを買おうとした消費者が護衛たちに話しかけた。
「りんごって何ですか?」
「「はあ・・・・?」」
護衛たちは期待していたようだが。
訊いたのは・・・・りんご・・・。
「そんなの知りませんよ。」
「それより、アマノ王女を見ませんでしたか?」
「アマノ王女様?今日は舞踏会の会場にいらっしゃるのでは・・?」
ー「テンヤさあん・・!逃げてください!突っ立ってないで!」
そうだ、忘れてた。
護衛は気を取られて、話している。
でも、逃げるって言ってもどこへ・・・・?
その時、「チリリン♪」と小さな鐘が鳴った。
「いらっしゃいっ」
「どうも、いつもお世話になっています・・・」
私は音がする方に顔をひょっこり出した。
そこでは、店の前に年を取ったおばあさんが、お客さんに会釈をしていた。
おばあさんは黒髪にやや白髪が入っていて、大柄、黄色と白と薄い赤のチェック柄のエプロンをつけていた。なんだか怪しげな感じだ。
レンガの店には上に大きく「レヴィリディー」と乱雑に書かれていた。
なんだろ、この店・・・。
ちらりと、市場の方を見た。
まだ、護衛たちは天然な(いや、そもそもここへんてこだから天然じゃないか・・・)消費者と話し込んでいる。
今ならチャンスっ!
ゆっくりと、「レヴィリディー」の中へ入っていった。
でも、泥棒みたいに抜き足、差し足とは入っていかなかった。
いくら逃亡者とはいえ、ダサすぎると思ったから・・・・