11 逃げたいっっ!
出たい、この国から。
このアホみたいな「ゾルラン」という国から。
「なにか服あったかな・・・?」
今、私は部屋に戻り、大きなクローゼットを探った。この国のクローゼットはドレスなどがびっしり詰まっているというのに、私がちゃんと入る設計になっている。それになぜか同じドレスが色違いで分類されている。
いらないのに・・・・
この城を脱出するには、変装が必要である。しかしクローゼットには貴族を感じさせる服ばかり。
もう、不良品・・・
「アマノ王女様?いらっしゃいますか?」
「うわっ」
この声は明らかに侍女、メアイである。気が付いたら・・きっと不審に思われる。
隠れよう・・このクローゼットに・・・
「アマノ王女様?お話があります」
話・・きっと王様だ・・・・
どんどんメアイの足音が近づいてくる。
「王女様?ふうん・・・いないのか・・・」
メアイはあと一歩のところで、クローゼットのところで止まり、部屋のドアに行こうと向きを変えた。
ふうう
どうしようかこの服ボロボロにして庶民に見せようかな・・・
立ち上がって服をあさろう・・・っと。
「うわあああああっ」
派手にクローゼットの中でどてんと頭から転んだ。
「いたたたた・・・」
なんで?なぜいきなり?
「・・・バナナの皮・・・・」
足にはバナナの皮が引っかかっていた。
でもなんでクローゼットにバナナの皮・・・?!
いやいや、ここコメディ系のテレビじゃないんだからさ・・・アマノしっかりしてよ・・・
「アマノ王女様?・・・アマノ王女様っ!」
派手にガラガラっと音が二回したあと、心配そうなメアイの顔がとびこんできた。
「大丈夫ですか・・?アマノ王女様っ!」
あーあああー・・・アマノのせいで・・・・・。
ため息をついて、足に付いたバナナの皮を見せた。
「あら、またこれのせいで・・・」
また?アマノは王女の癖になんてガサツなんだ・・・!?
「しっかりしてください・・!これでまた叱るの何回目だと思ってるのー」
メアイは私に向かって、怒りの目を向けたが、途中で口を手で覆った。
何?いきなり・・・
メアイはぽろぽろと、涙を流し始めた。
それはキトワが私が「キトワ」と呼んでくれた時の、声を出して喜んだ涙とはまた違った。
誰かに聞こえまいと・・声を押し殺して出している涙だった。
きれいに掃除された真っ白な床が、メアイの涙で濡れていく。
「あなた、アマノ王女じゃないんでしょ?」
メアイは必死に涙を手で押さえた。
え・・・・?
なんで?今まで誰も私がそう主張してきたのに信じてもらえなかった。
王様にも、キトワにも、国民にも、ピーリーにもー。
でも、なぜいきなり・・・・?
「ーはい、そうですね」
聞きたいことはたくさんあったが、口から流れ出たのはその言葉だった。
☆★☆★☆
「それで、逃げたいと・・・?」
メアイは、興味津々に訊いた。目が変な風にキラキラしてる気がする。
私は結局、メアイにすべてを話すことにした。
「しかし・・・その服を着たらバレバレじゃないんですかあ?」
「ああ、まあ・・・・」
頬に手をあてた。
この服だと、貴族だと完全に分かって、逃亡の意味がない。とかいってあきらめても・・・・・
「ちょっと待っててください」
メアイはすごいスピードで、走って部屋を去っていった。
「えっ・・・・・」
待って、と言われても何をすればいいのか・・・・
とりあえず、大変なことを引き起こしてくれた、バナナの皮をゴミ箱に捨てた。
まったく・・・そもそもアマノ王女がこんな逃亡をしなけばよかったのに。
それに何よ、「まだやり残したこと」って・・?!
私も十分やり残したことがあるんですけど?!
まったく、あのワガママ王女め・・・・・!
「アマノ王女っ!!」
私は瞬時に振り向いて、後ろの声の主を睨んだ。
「・・・じゃなかった・・・テンヤ・・、さん・・・?」
ーメアイは一人で首をかしげたが、気を取り直して、私に微笑んだ。
「いいものを持ってきました・・・ジャーン!」
メアイは、後ろのものを私の前に掲げて見せた。
それはハンガーにかけられた服だった。ハンガーには謎に長いストール、長い鈍い青をした、シンプルなコートがかけられていて、コートの中にはハンガーにぶら下がった、やけに汚い麻の服があった。
「なんですか・・・これ」
「これはこの国の農民のかっこうです・・、農民の中でも二番目くらいに身分が高い人の・・」
そうか・・・これを着るのか・・
窓の外からはかっこうが分からなかったけれど、こんなかっこうだったんだ・・・。
私はメアイからハンガーを受け取り、コートの手触りを確かめた。
コートは自分が慣れ親しんでいるものと、全く同じだった。
まったく・・・この世界はなんで私の住んでいる世界の中途半端な・・同じ具合なんだろうか・・・
「あのっ」
メアイの声で我に返った。
「忘れてませんか?・・・逃亡する準備・・」
「え?」
「だってほら・・・、外はもうどっぷり沈んでいるし・・・」
メアイは親指で外の景色を指さした。
確かに、メアイの言う通り、真っ黒な空の中に月が浮かんでいる。
・・・月が見えるって・・・、やっぱりここは地球のどこなんでしょう・・・・?
「でも、舞踏会はどうなるんですか?」
ー王様は、ずっと舞踏会をずっと休みにさせていて、今日、「アマノ王女復帰!」ということで、お祝いの
舞踏会を開くと、言っていた。
しかし、「主役が舞踏会に出ていない」と、心配させ、逃亡がばれる可能性が格段に上がる。
「大丈夫、なんとか王様に言っておきますよ」
「・・・でも・・」
「眼鏡がほしい・・・、ですよね・・・?」
メアイはまるで・・・いや、見透かしたかのように言いたいことを当てた。
「ほら、ありますよ」
「!!」
これにはさすがにたまげた。
メアイは、私の眼鏡を持っていた。丸く、縁がピンク。そして何より、眼鏡のアームに私の名前のイニシャルが付いている。
かつて(ってほど、昔ではないが)フイザーにとられ、強制的にコンタクトを入れられたときに使っていた、確かな私の眼鏡。
もう、フイザーが処分したのかと思ってたのに・・・
メアイの手から、自分の眼鏡を受け取った。
素早く、自分の目に入っているコンタクトを外し、私の眼鏡をかけた。
「ああこの感じ・・・」
懐かしい。
「あのっ」
またメアイの声で我に返った。
「眼鏡との再会は後にして・・・逃げましょう、そろそろ舞踏会始まりますよ?」
メアイから手渡された、いかにも農民らしい小さなバックにいろいろなものを詰め込んだ。
「こっち」
メアイは手慣れた様子で私をベランダに誘導した・・・
ってただベランダに来ただけだけど。
「これからどうするんですか?」
「ちょっと待って」
メアイはちゅうちょなく、ベランダから飛び降りた。
・・・・え?
心配して、ベランダから覗き込んだものの、ベランダ自体、大きくて、下の階の様子がまったく見えない。
「綱を使って降りてきて・・・!」
「綱?」
綱・・・とはどこの綱だろう・・・?
キョロキョロしていると、横に綱が垂れ下がっていることに気が付いた。
はっ・・・!メアイ、いつの間に・・・!
「早く!降りてきてよお!」
そういわれましても・・・逃げるの初めてですから・・・
私は景色が見えないように後ろ向きに綱を降り始めた・・・。
ってよく思ったら・・・反対じゃない??
上から綱を下ろして、綱を使って上る・・。
メアイ、多分、痛恨のミスっ!
でも彼女自身、自覚ないみたいだけど・・・?
「メアイっ!」
「うわあああ」
その時、ちょうど、知らない人の声と、私の声が重なった。
メアイが綱を支えていたはずなのに、その綱が緩んだからだ。
綱はガン無視して、ベランダの黒い柱に掴まった。
下には、城の下の階と、すごく高い、下の景色が見えた。
もしかして・・、
私、はめられた?誰か、私のこと、亡き人にしようとしてる??
私はどうなるんですかああああああ!!!!!!!!!!