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第9話 待ち望んでいた再会は、恐ろしい修羅場の始まりでした

 一ヶ月が経ち、第二王子クリストファーの快気祝いパーティ当日を迎えていた。

 それに伴い城下では、朝からお祝いムード一色で大変な賑わいをみせていた。大通りではパレードが行われており、一目元気な王子の姿を見ようと大勢の市民が集まっていた。


 午後三時頃、王都の屋敷にてフォルティアナはハーネルドを待っていた。身に纏うのは、ハーネルドにプレゼントされた白いシルク地に淡い水色の繊細なレースをあしらった美しいドレスだ。

 迎えに来たハーネルドにエスコートされて蒸気自動車に乗り込む。街道の移動手段としては馬車が主流だが、貴族の間では高価な蒸気自動車を所持しているかどうかが、一種のステータスのようなものだった。

 王城へと向かう蒸気自動車の中で、どことなくいつもより機嫌がよさそうなハーネルドを見て、フォルティアナは思わず声をかける。


「ハーネルド様、何か良いことでもあったのですか?」

「そうか、お前は知らなかったな。クリスと俺は幼馴染みなのだ。あいつが無事戻ってきてくれて、嬉しくて仕方が無い」

「まぁ、そうだったのですね」

「きちんとお前のことも紹介しておきたい。だから、俺の傍から離れるなよ?」

「かしこまりました。粗相が無いよう努めますね」


 王城に着いて、ハーネルドが先に馬車を降りて、フォルティアナをエスコートする。こうやってハーネルドの隣に並んで会場入りするのは、実に三年ぶりだ。そんなことを考えながら会場に入ると──


「あっ! ハーネルド様よ!」


 一瞬のうちにハーネルドが令嬢達に囲まれてしまった。その中には公爵令嬢ミレーユの妹、リリアンヌの姿もある。


 わずか二十歳にして家督を継ぎ、事業拡大をはかるハーネルドはここ最近、実業家としても有名になっていた。

 前侯爵がフォルティアナとの婚約を破棄して以降、数多の令嬢達がフリーになったハーネルドを狙っていた。

 しかし中々、前侯爵のお眼鏡にかなう令嬢が現れなかったようで、今まで誰とも婚約を結んでいなかった。

 まだ正式にフォルティアナとの婚約を発表していないため、ハーネルドの元には今日もたくさんの令嬢達が押し寄せてきていたのだ。


 傍から離れるなと言われたものの、集団と共にハーネルドの方から居なくなってしまった。この場合どうすればよいのか。

 入口で立っていても邪魔になる。とりあえず壁側へよけて待つも開放される気配すらない。


 アシュリー領にとってお得意様である取引先の令嬢達を、ハーネルドも無下には出来ないだろう。そこからフォルティアナが導き出した結論──始まるまでは自由時間ね。


 それならばと、そっと会場を抜け出したフォルティアナは、リヒトが居た庭園へと早足で向かう。居るはずがないと分かっていても、もしかしたらと一縷の望みをかけて訪れた。


(やっぱり、いらっしゃらないわ……)


 誰も居ない庭園を見て、フォルティアナはがっくりと肩を落とす。初めて出会ってからもう一年が経っていた。あの時、月明かりに照らされていた花は、日の光の下で今日も美しく咲いている。


(この場所で蹲って泣いていたら、優しく声をかけて下さったのよね)


 試しに同じ場所で腰を下ろしてみるも、誰も話しかけてはくれない。綺麗に手入れされた花壇を眺めながら、そっとため息をこぼす。


(いつまでもここに座っていても、仕方が無いわね。勝手に動いたから、ハーネルド様が怒ってらっしゃるかもしれないし)


 フォルティアナが庭園を後にしようとしたその時──


「ティア」


 優しく響く透き通ったテノールボイスが聞こえた。振り返るとそこには、肩を震わせ息を切らしたリヒトが立っていた。


「リヒト様……っ!」

「やっぱり、ティアだったんだね。よかった、元気にしてたかい?」

「私は元気です。リヒト様は大丈夫ですか? すごく苦しそうですが……」


 フォルティアナは思わず駆け寄ってリヒトの背中をさする。


「窓から君を見つけて、思わず走ってしまったんだ。この身体には、かなり、堪えたよ……」

「この身体には……?」


 そう言われて改めてリヒトを見ると、身体が光っていない。これはどういうことだろうか?


「ティア! 全く、勝手に離れるなと言っただろ!」


 その時、後ろからハーネルドの声が聞こえてきた。こちらに近付いてきたハーネルドは、驚いたように声をあげる。


「クリス! クリスじゃないか! 大丈夫なのか?! 外に出てきて……」

「もしかして……ネル? わぁ……久しぶりだね!」


 リヒトは他の人に見えないはずだ。それなのに、ハーネルドは彼と普通に話して握手を交わしている。


 何がどうしてそうなった?


 目の前で繰り広げられる会話に、フォルティアナの思考がついていかない。


「あ、あの……お二人は……お知り合いなのですか?」

「そうか。お前は会ったことなかったな。この方は、第二王子のクリストファー・オルレンシア様だ」

「え……リヒト様が……第二王子のクリストファー様?!」


 驚きを露わにしてフォルティアナはリヒトを見つめる。


「そうなんだ。実は僕、この国の第二王子だったみたい。ティア、君が居てくれたから僕は、前に進む勇気をもらえたんだ。君と一緒に外の世界を見てみたい、そう強く思ったら記憶を取り戻して、元の身体に戻ることが出来た。ありがとう」

「い、いえ! 私の方こそ! リヒト様が……ではなくて、クリストファー様が稽古をつけて下さって、ダンスの楽しさを知りました。自信をつけて下さったので、あの汚名を返上することができました。本当にありがとうございます」

「本当はもっと早く、お礼を言いにここに来たかったんだけど、身体が言うことをきかなくて。遅くなってごめんね」

「い、いえ、無理をなさらないで下さい。また会えただけで、すごく嬉しく思っています」


 その時、クリストファーに優しく手を取られた。温かいその手の感触が、彼が本当に生身の人間であると教えてくれる。

 目の前でひざまずいたクリストファーは、そっとフォルティアナの手の甲にキスを落とすと、真剣な面持ちで口を開いた。


「ティア、僕の妃になって欲しい。そして一緒にオーロラを見に行こう。君と一緒なら、僕はなんだって出来る気がする。きっと楽しい毎日を送れると思うんだ」

「え……あの、私は……」


 突然の告白に頬を真っ赤に染めたフォルティアナは視線をさまよわせ、視界に入ったハーネルドに助けを求めた。

 その視線に気付いたハーネルドは、フォルティアナを自身の方に抱き寄せて、無理矢理二人を引き離す。

 静かに二人の様子を見守り状況把握につとめていたハーネルドの、堪忍袋の緒が切れた瞬間だった。


「残念だったな、クリス。ティアは俺との結婚を控えている。よってお前の妃になることは、未来永劫ない!」


 ここに、フォルティアナを巡って恋のバトルが勃発しようとしていた。

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