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【コミカライズ】汚名を着せられ婚約破棄された伯爵令嬢は、結婚に理想は抱かない  作者: 花宵


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40/58

第40話 皆で食べるお食事は美味しいです

「ティア様、そろそろ夕食のお時間です」

「わかった、今行くわ」


 読みかけの本に栞を挟んで部屋を出ると、サーシャが心配そうに声をかけてきた。


「ティア様、暗い顔をされてどうされたのですか?」


 薔薇の栽培方法を調べて、フォルティアナはとある事実に気付いてしまった。


 おいしい話には裏があるとよく言うけれど、クリスタルローズの種が安価でたくさん売られている理由まで調べていなかった。


「サーシャ、薔薇って突然変異しやすい植物みたいで、種から育てても必ず親と同じ薔薇が咲くとは限らないらしいの……」


 そもそも薔薇は、台木に咲かせたい品種のバラを接ぎ木して売られているのが一般的だった。


「つまり……」

「クリスタルローズの種を植えても、クリスタルローズが咲くとは限らないわ」

「そ、そんな罠が!」


 花を咲かせるのも難しい上に、苦労して育ててもクリスタルローズが咲くか分からない。

 安価で叩き売りされていたのは、その種を育ててクリスタルローズを咲かせられる確率がほぼゼロに近いからだった。


「世の中、そんなにうまい話はないわね……」


 フォルティアナは、深くため息を吐いた。

 そんな話をしながら廊下を進んでいると、ちょうど反対側から歩いてくるクリストファーとラルフの姿があった。


「ティア、顔色がよくないけど大丈夫?」


 こちらに気付くなり、クリストファーが心配そうに声をかけてくれた。


「クリストファー様。実は……」


 事情を話すと、なるほどね……とクリストファーは少し考えた後、口を開いた。


「僕の知り合いに、花の飼育について詳しい者が居るんだ。よかったら今度、紹介しようか?」

「よろしいのですか?」

「突然変異のメカニズムを調べて実験してるから、もしかすると何か役に立てるかもしれない。それに僕もティアが育てたクリスタルローズ、見てみたいから」

「嬉しいです、ありがとうございます!」


 さっきまで落ち込んでいた心が弾むように軽くなった。


(やはりクリストファー様は、光のように温かいお方だわ)


 エントランスに繋がる階段を降りようとしたら、先に一段降りてクリストファーが手をさしのべてくれた。


「足元、気をつけてね」


 普段何度も使う降りなれた階段だ。それでもこうしてエスコートされて降りると、まるでパーティー会場のお洒落な階段のように見えてくるから不思議だ。


「はい、ありがとうございます」


 食堂へと向かうと、既に家族は揃っていて、こちらを見るなり妹達が嬉しそうに駆け寄ってきた。


「ティア姉、おかえり!」

「ティア姉様、おかえりなさい!」

「ただいま、トリー、シルヴィ。二人とも、また身長が伸びたわね」


 十四歳を迎えた次女カトリーナは、運動が得意で学園では乗馬部に所属している。

 母譲りのストレートの茶髪を高い位置で一つに束ね、健康的に日焼けした肌と引き締まった体躯がボーイッシュな印象を与える元気な女の子だ。


 十一歳を迎えた三女シルヴィアナは、ピアノが好きで学園では吹奏楽部に所属している。

 緩くウェーブのかかった金髪をリボンの髪飾りでハーフアップにした可愛いらしい見た目に反して、好奇心旺盛でよく周囲を驚かせるやんちゃな女の子だ。


「ゴホン!」


 母オリヴィアの咳払いで、フォルティアナ達の背筋が反射的にピンと伸びる。


 オリヴィアが咳払いする時、それは大抵周囲を見てその立ち振舞いを正せという合図だった。


(はっ、クリストファー様の御前だったわ!)


「クリストファー様、こちらは妹のカトリーナとシルヴィアナです」


 屋敷に到着した時はまだ学園から帰宅していなかった妹二人を慌てて紹介する。


「次女のカトリーナ・グランデと申します」

「三女のシルヴィアナ・グランデです」


 ささっと淑女の礼をとり、妹達が挨拶をする。


「初めまして、クリストファー・オルレンシアです。一年間お世話になります」


 妹達の緊張をほぐすように、クリストファーは優しく声をかけた。


「王子様だ! トリー姉様、本物の王子様だよ! 白くてキラキラしてる! ハーネルド様と大違い!」

「デビュタント前に王族の方にお会い出来るなんて……すごいね、シルヴィ!」


 カトリーナとシルヴィアナはグランデ領から出たことがないため、王族に会うのは初めてだった。


 クリストファーを前に大はしゃぎする妹達を見て、母オリヴィアの額に青筋が浮かぶ。


「ゴホン! さぁ皆揃った事ですし、晩餐を始めましょう」


 オリヴィアの咳払いで妹達はピンと背筋を立て「はい!」と返事をし、ささーっと席に座った。マナーに厳しい母の逆鱗に触れるのを恐れて。


 にこやかな笑顔を浮かべるオリヴィアに促され、父レオナルドの右側にクリストファー、その正面にフォルティアナが座る。


 テーブルの中央では燭台と季節の花々が彩りを与え、よく磨き上げられた銀のカトラリーとガラス製のグラス、薔薇の形に織られたナプキンがそれぞれの席に並んでいる。


 食前酒として大人にはスパークリングワイン、未成年のカトリーナとシルヴィアナにはオレンジとブルーベリーの果実水が配られた。


 乾杯を済ませると、使用人達が前菜から順に食事を運んでくる。


 最初に運ばれたのは、葉物野菜とローストビーフのサラダ。


 採れたてのベビーリーフの上に、茹でたじゃがいもと牛のハツを使ったローストビーフを飾り、スライスした紫たまねぎを上に添え、特製ドレッシングで味付けされたシンプルなサラダだ。


 食事がクリストファーの口に合うか、皆が内心ハラハラしながら見守っていた。


「いかがですか?」


 緊張した面持ちで父レオナルドが尋ねる。


「大変美味しいです。特にこのドレッシングが新鮮な野菜や肉にとても合っていて、素材の良さを引き立てていますね」


 クリストファーから笑顔で発せられた一言に、皆がほっと胸を撫でおろす。


「ドレッシングは子供でも食べやすいように、はちみつを加えて酸味を抑えた特産のリデル酢をベースに作られているんです」

「だから優しい口当たりがしたんだね。王都ではここまで新鮮な野菜は手に入りづらいから、採れたての野菜がこんなにシャキシャキして美味しいなんて知らなかったよ」


 地方から運ばれてくる頃には葉物野菜は萎びている事が多いため、王都では火を通して食べることが多かった。焼いて肉や魚料理に添えたり、スープとして煮込むのが一般的だ。


「野菜やお肉は近くの契約農家から、毎日新鮮なものを届けてもらっています。サラダにはその時期に採れる旬のものを使っていますので、季節によって色んな野菜が楽しめるんですよ」

「そうなんだね、これから楽しみだな」


 柔らかな笑み浮かべ、フォルティアナにだけは砕けた口調で話すクリストファーを見て、母オリヴィアは嬉しそうに口元を緩めていた。


 そんなオリヴィアとは対照的に父レオナルドは顔をひきつらせ、持つフォークに思わず力が入る。その顔には、やはり案内役などさせるべきではなかったと後悔が滲み出ていた。


 しかし表立って苦言を呈するわけにはいかず、晩餐は和やかなムードのまま終わりを迎える。



「伯爵。少し話があるのですが、この後お時間いただけませんか?」

「かしこまりました。書斎の方でお伺いしましょう」


 そのままレオナルドとクリストファーは席を外した。


(ブルーサファイアの装飾品はきちんと処分されている。大丈夫よね……)


 二人の背中を心配そうに眺めていると、オリヴィアに声をかけられた。


「フォルティアナ、中々良い応対でしたよ。この調子で殿下が不自由しないよう支えてあげてください」


 何か粗相をしてしまったのかと身構えるも、褒められてほっと胸を撫で下ろす。


「分かりました。ありがとうございます」

「カトリーナ、少し背筋がプルプルしていましたが及第点です。姿勢を崩さず、よく頑張りましたね」

「はい、ありがとうございます!」

「シルヴィアナ、苦手な野菜もよく我慢して食べましたね。偉いですよ」

「王子様が美味しいって言ってるのに、私がぺーって吐いちゃったら大変だもん!」

「ふふっ、そうですね」


 マナーには厳しい母であるが、こうしてきちんと出来た時は褒めてくれるし、人目がない時は多少の言葉遣いにも目をつむり笑顔で受け流してくれる。そんな母が、フォルティアナ達は大好きだった。



「そうだ、ハーネルド様から二人にお土産を預かってきたのよ」


 部屋に戻る途中、預かってきたものを渡しておこうと妹達に声をかけた。


「ハーネルド様のお土産!」

「今度は何のおもちゃかな? トリー姉様、楽しみだね!」


 自室に戻って、フォルティアナは妹達に預かったお土産を渡した。

 妹達が嬉しそうに箱を開けて出てきたのは、色違いの機械仕掛けのクマの人形だった。


「リモコンないね、動かないのかな?」


 箱の中にクマの人形しかないのを見て、シルヴィアナが残念そうに呟いた。


「シルヴィ、背中にボタンがあるよ」


 クマの人形を持ち上げて色んな角度から観察していたカトリーナが、そう言って目を光らせる。


「本当だ、押してみよう!」


 意気揚々と妹達がボタンを押すも、何の変化もない。


「動かないね、壊れてるのかな?」


 ハーネルドが持ってくるものは、ボタンを押せば動くと認識しているシルヴィアナにとって、押しても何の変化もない人形は故障品のように見えた。


 すると次の瞬間、二体のクマの人形の目が赤く光り同時に音を発した。「動かないね、壊れてるのかな?」と、先程のシルヴィアナの言葉を復唱するように。


 急に喋りだした二体の人形に驚き、妹達はひぃっと思わず後退った。


「ホラー人形だ!」


 カトリーナが叫ぶと人形達は目を赤く光らせ再び復唱する。「ホラー人形だ!」と。結局妹達は恐怖におののき逃げ出してしまった。


「録音と再生機能のついたお人形なのかしら? でも復唱された音の声質は違うわね」


 声を復唱するクマの人形を冷静に分析しながら、フォルティアナはまじまじと人形を眺めていた。


(玩具にまでこのような高度な機能を付けれるなんて、やはりアシュリー領の技術開発力はすごいわね)


 感心しつつも夜に渡したのが失敗だったと、フォルティアナは背中のボタンを押して電源を落とした。





 その頃アシュリー侯爵邸では、ハーネルドがワイングラス片手にとある本の続きを読み進めていた。


――恋の必勝マル秘テクニック


『旦那様、フォルティアナ様を振り向かせたいんだったら、少しは勉強して女心を学んだ方が良いですよ』


 そんなお節介をやいて従者ルーカスが買ってきた巷で話題の恋愛のバイブル本だった。


 そんなもの必要ないと最初はつっぱねたハーネルドだが、クリストファーが療養すると聞いてから藁にもすがる思いで隠れながら少しずつ読み進めていた。


「ククク、掴みはばっちりに違いない」


 本から得た知識によれば、本人に脈が感じられない時はまず身近な家族を味方につけろと書かれていた。


 フォルティアナは妹達を可愛がっている。

 つまりあのじゃじゃ馬達を味方につければ、自身の印象を少しはよく出来るはずだと、お土産を渡した。


「今ごろきっと、楽しく遊んでおるに違いない」


 操縦する玩具は壊れる未来しか見えない。

 やんちゃな子供でも壊さずに遊べるをコンセプトにハーネルドが考えた末、触れずに遊べる玩具として開発したものの試作品だった。


 大はしゃぎして喜んでいるだろうというハーネルドの予想は大きく外れ、後日グランデ伯爵邸を訪れた時に知る。


 渡したお土産が、ただの置物として飾られている現実を。むしろ妹達に、少しマイナス評価を受けていた事実を――

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よろしくお願いいたします!

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