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第13話 その身分の違いをよく思い知らされました

「クリストファー様、そろそろお時間です。お戻り下さい」


 呼びに来た従者の青年によって、その場はお開きとなる。

 ハーネルドと共に会場へ戻ったフォルティアナは、心にある引っかかりを覚えていた。


 リヒトが療養中の第二王子だった。それはつまり、幼い頃から見えるあの光る人達は皆、帰る場所を忘れたがためにその場所に縛られていたということ。たまたまリヒトは身体がまだ元気なうちに帰れた。だからああやって元気になれた。


 では、長い間ずっと縛られている光る人達は──たとえ記憶を取り戻したとしても帰る場所がないのではないか。


(ヴィヴィアナ……)


 彼女は今頃どうしているのだろうか。




『ヴィヴィアナ、ページめくってもいい?』

『ちょっと待って……うん、いいよ』


 王立図書館の目立たない一角で、フォルティアナは隣に居る少女ヴィヴィアナに小声で話しかける。

 幼い頃、フォルティアナにはとても仲の良かった光る人である友人が居た。王立図書館で出会った一人の少女。自分では本を取ることもめくることも出来ないその少女は、人が読んでいる本を横からの覗き込むのが日課だった。

 フォルティアナが読んでいた本を覗きに来た少女に『次のページ、めくってもいい?』と声をかけたのが仲良くなるきっかけだった。


 自分が何者なのか、名前さえも分からないという少女に、名前で呼べないのは不便だとフォルティアナは名前を考えた。いつも明るくて元気な所から『ヴィヴィアナ』と命名。外国語で元気いっぱいな様子を意味する言葉だった。ヴィヴィアナは気に入ってくれたようで、嬉しそうに笑ってくれた。


 王立図書館でヴィヴィアナと一緒に本を読んで感想を語り合う。その一時が楽しくて仕方が無かった。彼女は博識で、フォルティアナが知らないことを何でも教えてくれる。お勧めしてくれた本はどれも面白くて、夜更かしして読んでいたらサーシャに怒らる程だった。


 誰も人が来ないよう歓談室で話していたものの、ある時その様子を迎えに来た母オリヴィアに見られてしまった。一人でブツブツと喋るフォルティアナを見て、オリヴィアは驚きを隠せなかった。


 それも仕方ないだろう。普通の人にヴィヴィアナの姿は見えない。その光景は、フォルティアナが誰も居ない空間に、独りで話しかけているようにしか見えないのだから。


 両親はフォルティアナにきつく言い聞かせた。その不思議な力のことを他人に話してはいけない。そして光る人に話しかけられても、気づかないフリをして決して耳を傾けてはいけないと。


 社交界シーズンも終わり、両親と王都に来ていたフォルティアナは、母と共に一足先に領地へ帰ることとなった。


『ごめんなさい、ヴィヴィアナ。私、しばらくここに来れないの。実はお父様とお母様が……』


 フォルティアナは泣きながらヴィヴィアナに謝った。そして事のいきさつを説明した。

 ヴィヴィアナは優しく相槌を打ちながらフォルティアナの話を聞いてくれた。


『ティアと過ごした日々は、私にとって宝物のような時間だった。たとえ言葉を交わせなくなっても、ティアが元気で居てくれるなら私はそれで幸せよ』

『ヴィヴィアナ……ありがとう。私、また絶対会いに来る。大きくなったらお父様とお母様に気付かれないように、絶対会いに来るから』

『ううん、それは駄目よ』

『え、どうして……?』

『今度は私から会いに行くわ。だから待ってて』

『でもヴィヴィアナは、この王立図書館から出られないんじゃ……』

『ここは確かに、私の大好きな場所だった。でも、あなたに会いに行きたいって思ったら、本来の帰るべき場所を思い出したわ』


 最後のお別れをして数年後、フォルティアナは再び王立図書館を訪れたが、ヴィヴィアナの姿を見つけることは出来なかった。



 もしかすると、ヴィヴィアナも記憶を思い出して元の身体に戻れたのかもしれない。でもそれなら約束通り会いに来てくれるはずだ。考えたくは無いけど、もし帰る場所がもうなかったのだとしたら……そんな事を考えていたその時、ハーネルドに呼びかけられた。


「ティア、そろそろ始まる」


 開幕の歌が終わり、大扉が開かれた。国王のカインが正妃のヴィクトリアをエスコートして入場してくる。続いて第一王子のライオネルと婚約者である公爵令嬢のミレーユ、そして本日の主役クリストファーの登場だ。


 青地に金の装飾の施されたオルレンシア王国の王族を象徴する正装に身を包んだクリストファーは、まるで別人のように見えた。透き通るような綺麗な青みがかった銀髪に、澄んだ青の瞳。それは彼が紛れもなく、イシュメリダ神の加護を受けた王族の象徴たる存在だと示していた。


 その元気な姿を見るや否や、会場中に歓喜の声が響き渡る。

 快気を祝い送られる言葉一つ一つに応えるように、クリストファーは笑顔で手を振りながら歩いて行く。フォルティアナの視線に気付いたクリストファーは小さくウィンクをしてみせる。するとこちら側に居た女性陣達が、色めき立つ声をあげた。


(すごい人気だわ……)


 十五歳の時、初めて王城を訪れたフォルティアナは、王族としてのクリストファーの姿をこうして直に見たことはない。噂で療養中の第二王子が居るらしいという事ぐらいしか知らなかった。

 それもそうだろう。グランデ伯爵領は王都から遠く、春と秋にある年二回の社交界シーズンのうち、王家主催のイベントが行われる四月と十月のみを王都に構えている邸宅で過ごす。一年のうちのほんとんどは領地で過ごすため、彼がどういう人物かまでは知らなかったのだ。

 ハーネルドと幼馴染みだったという話も、行きの馬車の中で初めて聞いて知った程で、王族との接点などそれまでありはしなかった。


 オルレンシア王国では、王族はイシュメリダ神の祝福を色濃く受けた神に近い存在と言われている。フォルティアナにとって、普通なら王子であるクリストファーはまさに雲の上の存在なのだ。


 初めて恋を知ったばかりのフォルティアナにとって、その壁はとても大きく見えた。とてもじゃないが、恐れ多すぎて近づけない。


(あの方の隣に、私は似合わない)


 あの庭園で共に過ごした時間が奇跡のようなことだったのだと、フォルティアナは改めて認識させられていた。


「ティア、後で挨拶に行くから俺の傍を離れるなよ?」

「かしこまりました、ハーネルド様」


 今日はハーネルドと同伴して来ている。フォルティアナは自分の役目を思い出し、笑顔を作り直してパーティーに臨んだ。

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