君と花火
ーー次は本郷高校吹奏楽部による演奏です。
河野くん、どこだろ。
吹奏楽部の演奏が終わって、2時間後にはお祭りはフィナーレを迎える。そのときの花火も楽しみだなあ。
「あっエース来たよ!!」
近くから声が聞こえる。私たちと同じ高校の河野くんファン。やっぱ多いんだね…。
さっきから私たちはずっと5人でお祭りを楽しんでいる。尚都くんも遥香も有田くんも友達の多い人なので、歩くたびに誰かに声をかけられる。私も友達が増えてなんだか嬉しい。何よりも有田くんがかわいい。
吹奏楽部の演奏は、元気に始まった。
天国と地獄のアレンジバージョンを始めとした運動会メドレー。そしてしっとりとした曲。様々な表情を見せる音楽に、どんどん引き込まれていった。
そして…
「最後の曲になりました。聞いてください『忘れないように』今日はありがとうございました!本郷高校吹奏楽部でした!」
ラストか!!
自然と目線は河野くんに向く。真剣で、でも楽しそうな彼の顔はとってもかっこいい。
元気いっぱいに終えた吹奏楽部の演奏に、会場全体が拍手を送る。
演奏を終えて立ち上がった河野くんと、一瞬目があった気がした。
そして、それにドキッとした自分がいた。
演奏が終わり、片付けが終わり。私たちの元に河野くんがやってくる。シンプルな彼の私服、スタイルがいい河野くんに似合っていて、見惚れてしまう。
「お待たせー!花火行くぞー!でも疲れたからなんか食わせてくれ!」
そりゃ河野くん、1日に2回もステージ出てたらお腹も空くよね…。お疲れ様でした。
風のような早さでフランクフルトとたこ焼きを買ってきてそこでパクつく河野くんはさっきの真剣な表情の正反対でかわいい。
「さ、食い終わったし行くか」
河野くんが立ち上がった。そのとき有田くんのスマホが鳴った。
「ごめんごめん」
と言って電話に出る有田くん。どうやら相手は野球部の仲間たち。電話を切り、言った。
「野球部連中が特等席にブルーシートとったらしい。行こうぜー!」
「おー!有田ナイス!」
そこに合流させてもらうことになった。6人でわいわい歩く。
私の横には、最高に眠そうな河野くん。
「眠そうだね…」
「まあ、朝から太鼓叩いてたしな」
「そりゃ大変だよね…1日に2回も…」
「見せるのは別にどうってことねえよ。湧いてもらえたらそれでいいんだし」
「そういうものなのか…。あ、さっきの、忘れないように!練習よりかっこ…」
「あ、ごめん」
「ん?」
「あんまりあの日のこと言わないで」
「………?」
「見てくれてありがとう」
河野くんって、どういう人なんだろう。天才とか言われてて、口悪いとか言われてて。あの日のこと言わないで、って。
イマイチ掴みきれない河野くんの本音。そんなに踏み込んでいける仲でもないんだけれど、でもなんだか、彼のことをもっと知りたいと思っている。
「隆弘ー!!こっちこっちー!!」
「おー!!呼んでくれてありがとなー!!」
野球部連中に合流した。流れでブルーシートの端に、河野くんと隣りで座る。
そして、花火は始まった。
麻里を中心にはしゃいでいる。麻里花火大好きだもんなあ。
「花火の音って、音階ねえから聴きやすいな」
ポツリと河野くんが言う。
「絶対音感って誤解されがちだけど、音階ない音は普通に聞こえるから」
「……どういうこと?」
「わかりやすく言うと…誰かが作った音楽だったり動物の声だったりは音階わかんだけど、花火とか普通の自然に出てくる効果音は音階がないからわかんねえの」
「へえ…そうなんだ」
「これは俺だけかもだけど、何も考えてないときにわかる音を聞くとドレミにしか聞こえなくて怖くなるときがあんだよ、それがないから花火は見やすい」
絶対音感の人と初めて生で出会った気がする。やっぱかっこいいなあ、音楽できる人って。というか、河野くんって、すごい人だなあ。
ドーンッッッッ
1番大きな花火が打ち上がった。私の頰が熱くなったのは、きっと花火のせい。