君の本性
河野くんたちの太鼓チームは、圧巻の演奏を力強く終えた。会場の全体が拍手で包まれる。
「ありがとうございました!」
河野くんが真ん中に立ち、全員で深々とお辞儀をして、彼らは颯爽と舞台を去っていった。
「……エースかっこいいねー!!」
「ホント、吹部のイケメンは違うわ」
「音楽やってるエースだけ見てたら好きになりそう」
遥香と麻里が話しているのを横から聞きつつ、私はしばらくボーッとしていた。見惚れていた、というか。
「竜樹に会いたい?」
尚都くんの声で、私は我に帰った。私の顔を覗き込んでいる彼の目は、明らかにニヤリとしている。
「……会いたい、けど。」
「じゃー、行くか!」
「麻里ちゃんと遥香は?行く?」
「………えー、じゃ…しゃべらないけど行くわ」
5人で舞台裏のほうへと歩き出す。さっきから気になっていたことが、ようやく私の口から出る。
「河野くんって、何かあるの?」
「ん?どういうこと?」
「さっきからみんな『音楽やってるところだけ』とか『しゃべらないけど』とか言うから…」
「え、若菜知らないの?」
「エースって、口は悪いんだよ」
「そそ、あいつ人のことなんも考えねえから」
「天才だからなー。努力って何?的な感じ」
「そこがおもしろいんだけどな」
部活の仲間たち2人、そして河野くんの幼なじみ2人に、口々に言われる。こんなに束になって悪口言われるって、河野くん何者なの…
でも私には…そんな感じなかったけどなあ。
「お、いたいた。竜樹ー!!」
「………おー尚都!隆弘!ん、あ…!若菜」
ショーが終わりドリンクを飲みながら仲間たちと話していた河野くんが、私たちの元へやってきた。
「え、篠原ってそんなに竜樹と仲良いの?」
有田くんが私と河野くんの顔を交互に見る。麻里も遥香も驚いているようで。
そりゃそうか、私と河野くんの繋がりって、実際どこにもない。
「あ、この前ね…」
「若菜の自主練中に会った」
「お前が女の子下の名前で呼び捨てするって珍しいよな」
「んー、いや、だってさ…篠原って、長くね」
いや、そこなの!なるほど…4人が言ったことの意味がわかった気がする。
「篠原は篠原だわ」
有田くんと尚都くんは大爆笑。私も笑いそうになったけど、自分のことだから笑えない。
「太鼓、すごかったね」
とりあえず河野くんに思ったことを伝える。河野くんはそのままの表情で、
「ありがと。まあ、当然かな」
あ…そういうことか…。さっきの散々な悪口がなんとなく理解できた。高身長特有の威圧感もないわけじゃないし。
「河野ー!ちょっと来いー!」
「あっはーい」
河野くんは太鼓チームの年上そうな男の人に呼ばれて少し残念そうに返事をした。私たちといたかったのかな。そういうところはかわいいのに。とか、少し思ってしまう。
「ごめん、俺行くわ。あっそうだ、3時間後に吹部のステージあるからそこもよろしくな」
1日に2回もステージ出るって…タフだなあ…
「おー、行く行く、またな」
4人はサッと手をふって、その場を去ろうとした。後に続いて私も立ち去ろうとすると。
「若菜」
「…ん?」
「"あの曲"やるから」
河野くんはそれだけを小声で言って、チームの元へ走っていった。
深い赤のハッピが、大きな背中でマントのようになびいていた。