君は誰
この想いも何もかも
決して忘れないように
帰ってきてから、制服も脱がずに部屋に閉じこもり、そしてずっとこの曲「忘れないように」を聴いていた。
でも今の私にはこれじゃない。いくら聴いても、あのサックス音が抜けない。
「くぅ…っ!」
「若菜ーー!!ご飯よーー!!」
そのまま、私は走ってリビングへ行った。
「おはよー若菜」
「麻里おはよっ」
「今日も自主練するの?」
「今日は……やろうかな」
「ほんとすごいねえ。さすがキャプテン。」
「エヘヘ」
夏休み5日目の水曜日。夏休み初日に出会ったサックスの彼にはまだ会えていない。最近は自主練をする理由のうち約半分はまた彼の音を聴きたい、だったりする。
にしても、キャプテン、かあ。
ぼんやりしていたら、チームメイトの麻里はもう体育館に行ってしまっていた。
自分のロッカーからシューズをとって、体育館への砂利道を歩く。
と、そのときだった。
「よお、久しぶり」
後ろからどこかで聞いたことある声がして、パッと振り向いた。やっぱり、そこにいたのは…
「あっ!えっと…!188cmの!」
「いやおい。身長で人を呼ぶな。」
「あっごめんなさい!この前の!」
「西棟の前で吹いてたら会議するからやめてくれと言われて体育館の前に行き着いた者です。」
「そういうことか…」
「普段は自主練は西棟で吹いてんだよ?」
そう、あのときのあの人。ちょうどよかった、名前聞いとこ。
「あのっ名前教えてください!」
「あっえっ?知らないか」
「ん?」
「俺けっこう学年の有名人なんだけどなー。河野竜樹って言います。よろしくね。」
「…!」
河野竜樹。名前は聞いたことある。確か異名があったはず、「吹部のエース」とか…
「そそ、俺が吹部のエース」
「あなただったのか!」
「そそ。名前聞いたら知ってたでしょ」
「うん。あっ、私は…」
「2年7組篠原若菜」
「へっ?!なんで知ってるの?!」
「尚都いるだろ?」
尚都ってのは、同じクラスのサッカー部の男子。少しチャラめだけどいい人なので、男女みんなから好かれる人気者。でもそれだから女たらしという噂もあったりする。
「あいつと俺、幼なじみだから」
「…なるほど」
尚都もこの河野くんもちゃんと美形だ。でもタイプは真反対。そんな2人が仲良しだなんて、なんだかすごい気がする。
「早く行かないと遅刻するんじゃない?キャプテンさん。」
「………あっ!ほんとだ!河野くん、じゃあまたね!」
「またな、頑張れよ。」
河野くんと別れて、体育館へダッシュで入る。
今日の練習と自主練、頑張ろ。