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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
7/59

ラビリンス 7層

 シローが、索敵にかかった魔物を視認するために壁に身体を寄せるように通路の角へ向かう。向こうに気づかれないように慎重に通路の角から向こう側を見た。


(ネズミ?)


『ジャイアントラットです。鋭い歯を持っていますので注意ください』


 鼻をひくひくさせながら制止している大きなネズミは、人の身体ほどの大きさをしている。シローは、初めて対峙する魔物を観察した後、ショートソードをかまえた。


 ネズミがまだこちらに気がついていない事を利用するように角から一気に飛び出しショートソードでネズミの背中を切りつける。

 奇襲により浅くない切り傷を負わせる事に成功したシローは、続けてショートソードを振ったが、次の一撃はわずかにネズミの皮膚を切り裂いただけで大きなダメージを与えられない。

 痛みに怒り狂ったかのようにジャイアントラットは、シローに噛みつかんと真っ直ぐ飛び掛かってくる。怪我していなければもっと早いかもしれないが、シローに迫るネズミの速度はそれほどでもなかった。冷静に飛び込んでくるネズミの首あたりを横に薙ぐように切り裂くとネズミはガクリと崩れるように息絶えた。

 光に包まれ消え去るまで剣を向け続けたシローもそこに宝箱が、現れると気を緩めた。


「側にまだ魔物はいるか?」


『索敵します。……いえ、周囲に魔物はいません』


「罠が、かかっているか確認してくれ」


『了解しました。……宝箱には罠はかかっていません』


 周囲の安全と宝箱の罠がない事を確認したシローは、ゆっくりと宝箱を開ける。宝箱の中には、草の束が入っていた。シローは、回収した草の束をアルハナートが作った収納に納めると再び通路を歩きはじめる。


 2層に入ってから数回の戦闘と数種類の罠を確認したシローは、2層の状況を整理する。現れた魔物で、1層で見た事がなかったのは、最初に倒したジャイアントラットとヒュージスライムの2体で、他は1層で何度も戦ったコボルトとジャイアントアントだ。まだ、2層には、他にも魔物ががいるかもしれないが、新たに戦ったジャイアントラットとヒュージスライムと戦った感想としては、何とかなると思える相手だった。


「2層も何とかなりそうだな」


 むしろ新しい魔物よりも2層以降で見つけた罠の方が凶悪と言える。シローには、アルハナートがいるから問題ないが、死に直結するような罠が数か所あった。


「少し疲れたから休憩したいな。安全な場所で少し休むか」


 シローは、アルハナートの収納から食糧と水を取り出すと口に運ぶ。アルハナートに警戒を任せておけば、安心して休むことができる。


「なあ。アルに任せて寝ても大丈夫か?」


『大丈夫かと。定期的に索敵し危険が迫った場合には、マスターを起こします。また、寝ている間、補助魔法でマスターの姿を隠蔽することも可能です』


「隠蔽ってアルのように姿を隠せるのか?」


『はい。但し、行動すると隠蔽が解けますので寝ている間くらいしか効果はありません』


「わかった。今日、ラビリンスの中で寝る時には、補助魔法で隠蔽してくれ。魔力に問題はないか?」


『はい。使用魔力はそれほど多くありませんので大丈夫です』


 ラビリンス内での休憩を終えたシローは、再び2層の探索を開始する。食事の際に出たゴミや包み紙は、そのまま通路に放置する。基本的にラビリンス内では、生命体以外を長期間放置するとラビリンス自体に吸収され消えてなくなるのだ。


 シローは、気持ち新たにもくもくと通路を進む。すると通路の先に小さな小部屋が見えた。小部屋の入り口に扉があるわけでもなく、入り口の先が広がっているように見えた。


「アル。あの部屋の中を探知魔法で調べてくれ」


『了解しました。……魔物がいるようです。罠の反応はありません』


 どうやら小部屋の中には、魔物がいるようだ。


「数は、1体か?」


『複数の反応があります』


 ラビリンスには、魔物部屋と呼ばれる部屋があるとシローは聞いている。部屋に入ると扉が閉まり魔物と

強制的に戦闘させられる部屋だ。中には、10体以上の魔物がいる場合もあるとシローは聞いていた。


「アル、あの部屋は、魔物部屋か?」


『マスターが言う魔物部屋が、複数の魔物がいる部屋と言う意味であれば魔物部屋です』


「中に入ったら扉が閉まると言う罠ではないのか?」


『扉自体が、ありませんので違う物と思われます』


 アルハナートがふよふよと浮かびながら小部屋へ向かう。無論、姿を透過させているため姿は見えない。部屋の中を直接確認し終えたアルハナートは、シローの所まで戻ってくる。透過していてもシローにだけは、アルハナートの居場所がわかる仕様だ。


『部屋の内部を確認したところ中に2体の魔物がおりました。どうやら通路ではなく部屋のようで、行き止まりとなっていました』


「わかった。魔物は?」


『ジャイアントラットが2体です』


 索敵に感知魔法も便利だが、余裕があればアルハナートが直接確認することも可能だ。


「2体か……」


 シローは、これまで複数の魔物を相手にした事はなかった。単体であれば、目の前の魔物に集中することが可能だが、複数いればそうはいかない。


「何か複数を相手にする方法はないか?」


『少々魔力を消費しますが、短時間であればマスターの身体能力を高める魔法が使えます。身体能力を高めれば複数を相手にすることも可能だと判断します』


 身体強化魔法は、上級戦士などが使用する強化魔法だ。魔法書を読む事で入手できるが、魔法書は高額なため簡単に覚える事ができない。魔力がどれだけあっても先天的に使える魔法以外は、魔法書から入手するしかないのだ。


「わかった。それじゃ頼むよ」


 覚悟を決め、アルハナートを信頼する事にしたシローは、部屋の前までゆっくりと近づく。


『強化魔法をかけます』


 アルハナートが、そう言うとシローの身体がわずかに光輝いた。シローの身体に力がみなぎっていく。その場でぴょんぴょんと垂直跳びして身体の動きを確かめたシローは、ショートソードを握り部屋の中へと向かう。できるだけはやく1体を倒し、1対1になるようすべくシローは、入り口そばにいたジャイアントラットに切りかかる。強化魔法により身体能力が向上しているシローは、いつもよりも強力な一撃をジャイアントラットに加える。

 正面からの一撃だったが、不意を突く事ができたその一撃は、止めはさせなかったが、かなりのダメージを与える事ができた。しかし、その奥でシローが現れた事を察知したもう1体のジャイアントラットが、シローにめがけて突進を開始する。シローは、ダメージを与えた方のジャイアントラットと一旦間合いを取り、無傷なジャイアントラットと対峙する。相手の突進をぎりぎりで見切り横にステップすると上段からジャイアントラットの首を狙う。ぐしゃっと言う音と共にジャイアントラットの首を切り落とす。

 一撃で仕留める事が出来たことにシロー自身も驚いたが、今はそんな余裕もない。最初にダメージを与えた方のジャイアントラットが、噛みつかんとばかりにシローの足を狙う。シローは、その攻撃を前に飛び込むようにジャンプしてかわすとすぐに振り向き剣を一閃する。ジャイアントラットの顔が真一文字に分断されるとジャイアントラットが光に包まれ、小部屋には、宝箱が2つ残された。

 

「ふう~」


 強化魔法を使った戦闘も複数を相手にした戦闘も初めてだったシローは、少しほっとする。


「いい経験ができたな。アル、いつも通り頼むよ」


 アルハナートは、周辺の安全を確認し、宝箱に罠がかかっていないかを確認する。これが、シローが言ういつもの依頼内容だ。


『索敵したところ周囲に魔物はいません。マスターから見て右側の宝箱に罠が設置されています。罠を解除しますか?』


「頼む」


 シローに確認を取り、アルハナートは、宝箱に施された罠を解除した。


「鉄の短剣と本か」


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