ラビリンス 6層
ラビリンスの2層以降へ下りる事を目標としたシローは、アルに相談しながらその準備を始めた。アリヒアを連れて市場を周り髪飾りをプレゼントする事もあったが、シローの気持ちはすでにラビリンスの攻略に向いていた。
(アル。階層を下りるとどのくらい魔物は強くなるんだ?)
『回答に制限がかかっていますので、回答可能な範囲で返答します。1層を基準とすると1層降る度におよそではありますが、1.15倍リスクが増加します。5層目でそのリスクは、1層の1.75倍となります』
(5層で1.75倍となるとそれより深い階層は、さらに厳しいって事だな。もっと俺が強くならないとだめだな)
『現在のマスターの能力では、下層への進出はお勧めできません。上層で能力を高めてから進む事を推奨します』
(強くなる早道はあるか?)
『より強い魔物を倒せば早く成長できますが、それだけ危険度が増しますのでお勧めいたしません。確実に倒せる相手を効率よく倒す事が良いでしょう。また、魔力の向上が重要ですのでマスターは、できるだけ魔法を使い魔力を消費ください。魔力は使えば使うほど増加する傾向にあります』
(わかった。あと俺の力を何かの指標で評価する事はできるか?)
『数値で評価可能です。その数字が、強さとなるわけではありませんが、マスターの能力を数字として示す事は可能です』
(それなら、成長の度合いを確認するためだけに使うさ)
『了解しました。現在のマスターの数値を100とします。以後、マスターの成長に応じて数値化させていただきます。必要な時は、確認ください』
(少し、深層に潜る練習もしたいから。ラビリンス内に留まる訓練も始めたいな。食糧を少し多めに持ってまずは、2、3日間籠れるようにしたいな。食糧は、収納機能で問題ないか?)
『問題ありません。食糧、水、ポーションなどが劣化する事はありませんのでご安心ください』
(アルの力は、隠さなければならない。偽装のために背負い袋は一応持っていくが、アルもアルの存在が、気づかれないように注意してくれ)
『了解しました』
シローは、身の回りのアイテムをアルの収納機能を使って整理すると宿屋を出る。市場を回って食糧や寝袋などラビリンスに籠る事を想定して買い物をし、シローの背負い袋にしまっていった。シローの懐事情もこの準備でほとんどなくなってしまった。
(さあ。これで少し稼がないと宿屋にも泊まれなくなった。さっそくラビリンスに潜って稼がないといけないな)
シローは、買い物を済ませるとそのままラビリンスの入り口に向かう。宿屋は一時引き払い。アリヒアには、すでに数日籠る可能性がある事を伝えてある。
いつでも部屋を開けておくのでと言ってくれたので、シローは無事に戻ったらまた宿泊するつもりでいた。
ラビリンスの入り口につくといつもの兵士が、シローの顔を見つけた。
「お、今日は、荷物もしっかりもっているな。ってことは、いよいよお前も籠るつもりか?」
「ええ。少し挑戦してみますよ」
「ソロだとできる事は限られるからな。無理だと思ったらさっさと帰ってこいよ」
「はい。無理するつもりはありませんから」
社交辞令を終えるとシローは、100G支払って名簿に名前を書く。ふとホークウインドがどうなったのか気になった。
「そう言えば、ホークウインドは戻ってきたのですか?」
「あ、ああ……。それな、潜ったままだ。長い時には、1週間以上籠るなんて言っていたから無事だとは思うんだがな」
どうやら、ホークウインドは、まだ戻ってはいないようだ。
「確か、このラビリンスに入るのは、初めてのはずですよね」
「そうだな。他のラビリンスで活動中だったようだしな」
初挑戦で、いきなり深く潜るだろうか。シローは、自分だったらマッピングしながら初挑戦のラビリンスに潜っていくような事はしない。だが、相手は有名クランだろうし、そんなことは言わずとも理解しているだろう。
「それじゃあ」
シローは、挨拶を済ませるとラビリンスに入った。慣れた道をある程度進んだところで
(アル。周辺に人や魔物がいないか探知してくれ)
『了解しました。……周辺に人や魔物はおりません』
「なら。背負い袋の荷物を収納してくれ」
アルハナートが、作り出した空間にシローは、食料や水を入れていく。
「さて、これで身軽になれたな2層に向かう」
『了解しました。索敵はどうされますか?』
「ああ。罠が会った場合と魔物がいた場合は、教えてくれ」
『了解しました』
シローは、身軽になるとショートソードを手に進んでいく。アルハナートが、索敵してくれていれば慎重に進む必要もないのだ。すっかりアルハナートの力を信用したシローは、これまで以上にアクティブにラビリンスに挑むつもりでいた。
『前方より魔物の接近があります』
アルハナートの索敵にさっそくかかった魔物にシローは、備えて剣をかまえた。
『ジャイアントアントです』
シローが1層で何度も戦っている魔物だ。蟻酸に注意さえすればそれほどの強敵でない事は、すでに確認済みだ。攻撃パターンも概ね把握しており、ジャイアントアントの蟻酸を回避して接近すればダメージを与えられる。
シローは、相手との間合いを調整しながら近づくと予定通りジャイアントアントが蟻酸を飛ばした。これも予想通りとばかりに回避しショートソードで切りつける。これを2回繰り返せば、ほとんど危険を冒さずに倒す事ができる。
予定通り、ジャイアントアントを倒したが、宝箱は現れなかった。
「残念」
ショートソードについた蟻の体液を剣を振って飛ばし、シローは、再び2階へ下りる階段で向けて歩きはじめた。
シローは、ラビリンスの1層に何度も来ているのでマップがなくても階段までの道は把握できている。迷うことも罠にかかる事もなく階段までたどりついた。
「さて、ここからだな。そう言えばアルは、2層以降のマップを持っているのか?」
『いいえ。1層のみマップを所持しています。2層以降は、マップを作成する必要があります』
「さすがにそこまでは無理か。ならマップ作りは任せる」
『了解しました』
今までシローは、自分でマッピングをしていたが、アルハナートがいればその手間はない。大幅に時間短縮できるためその効果は大きい。それほどマッピングには手間がかかるのだ。
シローにとって階段を下りるとそこは未知の領域だ。きょろきょろと周囲を見るが、特に1層との違いは感じられなかった。
階段を下りてすぐに三方向への通路が見えた。シローは、マッピングを進めるため進路を右方向と決め歩きはじめる。
『前方100歩ほどの所に罠があります。スイッチ型で踏み抜くと矢が飛んできます』
「わかった」
アルハナートが発見した罠のそばまで来るとシローは、床面を慎重に見る。注意して見なければ気がつかないだろう場所にスイッチとなる床があった。
罠のスイッチを確認したシローは、そこを大きく避けるように通路の端を歩き回避する。多様な罠を回避するには、罠専門のスカウトなどが、索敵を兼ねながら進む必要がある。大きなクランやパーティーには欠かす事のできないメンバーだ。
魔法使いにも罠探知や罠解除が可能な者もいるが、その数は少ないためスカウトの需要は高い。主なスカウトの役割は、罠の探知や解除、マッピング、索敵とされ戦闘は補助程度しかできない者が多い。
罠を無事回避したシローは、通路を進む。通路が再び分岐する。シローは、マッピングするとき、右手側から進める事に決めていたので迷わず右側の通路へ進む。
『次の角を右折した場所に魔物がいます』




