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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
57/59

ラビリンス 57層

 トレイヴァーにイルギスと呼ばれた剣は、しばし静観した後


『トレイヴァー。状況を説明しろ。こっちは、何の説明もなく眠りにつかされたんだぞ』


 剣が怒ると言うのは、表情もないのだが、声のイントネーションで怒っている事は皆理解できた。


『仕方ないだろう。時間がなかったんだから。今、現状について説明するから。魔力を送るよ』


 するとトレイヴァーが、輝き、イルギスに向けて青い魔力の光が向かう。その光を吸収したイルギスは、情報を受け取ったようだ。


『ほう。あの女狐め。やってくれたな』


『ああ。まさかこんな方法を取るとは想像もできなかったよ』


『そして、我らの王は、囚われの身と言うわけか……』


 剣と本が、相談すると言う不思議な事態にユシルとヒルデが、ポカーンと見ていると


『わかった。王の意志のひとつが、主と言うわけだな。ならば儂の力は、主に貸そう』


 そうイルギスが、言うと剣は浮かび上がりヒルデの元に向かう。ヒルデもその剣を恐る恐る手にする。


「これは……」


 ヒルデが、剣を握った瞬間、ヒルデの中の魔力とイルギスの魔力がつながったような感触があった。その何かが共有されたような不思議な感触を感じたヒルデは、自らの身体の変化にすぐに気づいたのだ。


『主と儂は、すでに一体。王の力を司りし我の力を存分に使うが良い』


 イルギスが、言ったようにすでにヒルデの身体能力は、かつての物とは比べ物にならない。イルギスを一閃してみるが、その速度や威力は、想像を超えるものがあった。


『ふむ。筋はいいようだが、まだまだよの。少し慣れねば力も使い切れぬだろうからこのまま下層で訓練といくか』


『ええ。ユシルにも魔法の神髄を教えなければ、いけませんからね。2人には、少々厳しいかもしれませんが、特訓とまいりましょう』


 剣と本が、なぜか笑っているように2人が感じたが、指示どおり下層へ向かってからその笑った意味が2人にはよくわかった。ヒルデとユシルは、それほど、苛烈な特訓を要求され、勢いで最下層まで到達し、そのままこのラビリンスの攻略を終えた。







 双子ラビリンスの1つ。カザンの街にあるロブリードの13階層を進む者がいる。8層までは、探索する者の姿があったが、9層以降その姿は見ていない。Bランクのラビリンスだけあってこれまでのラビリンスに比べると現れる魔物も罠も数段やっかいな物となっており、侵入者を悩ませる。


「よし。ここまで順調だな。アルもシーリーも強化されてきたから攻略が、楽になったよ」


「はい。マスター。マスターのおかげで、すでに封印された私も3つ取り戻していますから。この程度は、問題ありません」


 寡黙で会話もほとんどなかったシーリーンの表情が、豊かになった。そして戦闘方法にも変化が現れ、肉弾戦だけでなく武器や魔法を駆使した戦闘ができるようになってきた。特に魔法の力は、凄まじくすでに中級魔法を連発するなどしている。


『マスターのお力も増しております。現在のマスターの評価値は、1010 魔力値 452 アルハナートの魔力値 343 シーリーンの魔力値 401となっております』


 シローの力は、順調に伸びている。そして、シーリーンは、封印を解くたびにクリスタルを手に入れる以上にその魔力値をあげていった。


『マスター。魔物です』


 そして、アルハナートの報告がなくともシローは、魔物の気配を感じ取る事ができるようになっており、アルハナートの報告を聞く前にすでに臨戦態勢を取っていた。


「クリエイトウエポン!」


 現れた魔物は、グールタイラント。物理抵抗や魔法抵抗を持った耐久力の高い魔物で、多少切ったりしてもダメージが回復する再生力を持っている。おまけに猛毒の爪や猛毒の体液と体に触れると解毒手段がなければすぐに命を失いかねない。


 しかし、シローの創造した剣は、シローの身の丈の数倍はあろうかと言う巨大な物で、通路の高さぎりぎりのものだ。振り下ろす速度も尋常ではなく、グールタイラントは、回避する事もできずに両断される。さすがに再生しようにも両断されては再生しようもなく光となって消えていく。


 シローの側に常識のある者が、いればシローが異状な事を伝えているだろうが、側にいるシーリーンもアルハナートもそれを感じさせない非常識な力を見せるためシローも自分の力に違和感を感じなかった。


『マスター。シーリーン様。間もなくこのライビリンスの最下層のようです』


「マスター。ここにも私の封印があります。どうか協力をよろしくお願いします」


「ああ。大丈夫だ。シーリー達のためにも早く封印を解かないと……!」


『マスター。魔物以外の者の接近を探知しました』


 アルハナートの焦り、シーリーンの驚きがそこにある。これまでにない緊迫とした物をシローは感じた。


「何だ? 魔物ではないし。でもどこかで感じたような」


 シローは、自身の記憶に残る魔力の形を感じ首をかしげる。シーリーンとアルハナートの様子からただ事ではないと感じる事はできるが、その理由がわからなかった。このような深層に潜る冒険者は、他にいないだろう。事実9層以降、人影はない。今シロー達がいる13層に潜る事ができる者は……


「ベイジャー?」


 シローが、思いつく相手は、アルハナート達から聞いていた者達くらいだろう。だが、今、なぜ、この場所に現れるのかがわからない。


 身構えるシーリーンとアルハナートに習ってシローも後方を凝視する。間もなく通路の先に現れる相手の姿を見るためだ。

 そして、シローの前に現れたのは


「ヒルデ? それにユシルか?」


 かつて、シローが関わった女性2人。この深層にどのようにしてやってきたのかも気になったが、それよりもなぜ彼女らが、自分の前に現れたのかシローはわからなかった。


「シロー。だまされちゃだめ! 今シローの側にいるシーリーンとアルハナートは、あなたを騙しているベイジャーの幹部よ!」


「シーリーンの封印を解いてはだめ。あなたを利用しようとしているの!」


 2人が、矢継ぎ早に告げる。シローが、シーリーンの顔を見てすぐに側に浮かぶアルハナートを見る。


「マスター。騙されてはいけません。あの2人は、おそらく何者かが変化しているか操られているのです」


『13層に冒険者2名で到達する事は現実的に不可能です。危険ですので注意ください』


 シローが、双方の話しに混乱していると。武器も取らずに


「シロー。私は、あなたの失った記憶も過去も真実も伝える事ができる。どうか私の話しを聞いてください!」


 シローに訴えかけるヒルデは、剣も持っていない。


「マスター。異状です。この階層に武器も持たずに降りる事は不可能です。騙されてはいけません」


 シーリーンが、そう言うが、シローは目の前のヒルデが、偽物とは感じていない。かつて共に冒険したヒルデの魔力を感じられる。


「大丈夫だ。相手に敵意はない。話しくらい聞く分にも危険はない」


 シローが、そう言ってヒルデに歩み寄ろうとすると


「させるか!」


 シーリーンが、大地を蹴ると一瞬でヒルデの前に現れ魔力のこもった拳を振り上げる。慌ててシローが動こうしたが、すでに間に合わない。

 しかし、手が届く寸前、どこから現れたのかその拳を剣が受け止めている。


『久しいな。魔女』



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