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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
56/59

ラビリンス 56層

 朝食を摂る2人の質問は、まだ続いている。ユシルは、ある程度トレイヴァーから話しを聞いていたので確認程度だが、ヒルデにとっては、知らない事ばかりなので説明が欲しかった。


「それじゃあ。シーリーンって言うベイジャーの幹部の事を教えて欲しいわ」


『シーリーン=ルドアート。彼女は、ベイジャーの3人の幹部の1人で、僕達は魔女と呼んでいた。王の知らない魔法を使ったり、魔道具を作ったりするやっかいな相手だった。アルハナートも彼女が作った魔道具と言われているね。王が、記憶を奪われ、未来に飛ばされた件もシーリーンが黒幕だと僕は思っている』


「そのシーリーンが、今、あなたの王であるシローと一緒にいる。そして、シローは、シーリーンやアルハナートの本性を知らないでいるって事ね。でも、どうしてシーリーンは、シローと一緒に冒険者をしているのかしら。目的がシローの命ならさっさとシローを殺そうとするんじゃないの?」


『ここからは、僕の想像も入るが、シーリーンは王の力を手に入れたいと思っているんじゃないかな。記憶を奪い、自分たちを仲間だと信じ込ませ、王を自分たちに都合のよいように動かそうとしているとかね。一緒にラビリンスに潜るのは、王の記憶以外の力を取り戻そうとしているんじゃないかな。同時に自分たちの力も取り戻すつもりなんだろう』


「それってどう言うこと?」


『おそらくシーリーンもアルハナートも800年以上の時間をかけた事で力を失っている。特にシーリーンは、王を未来に送るためにかなりリスクを負ったと僕は、見ている。そうでもしなければ、そう簡単に王から記憶を奪い未来へ飛ばすなんて真似はできないからね』


「800年以上……そこまでして……」


『僕達は、王からもらっていた魔力の供給が停止したので、残った魔力があるうちにラビリンスに自らを封印したんだ。僕達を起動できるのは、王の魔力の影響を受けた者だけだからいつかユシルみたいな子が、現れると信じて眠りについた』


「じゃあ。あなたの仲間ってのは、あなたと同じインテリジェンスウエポンって事ね」


『そう言う事だ』


 ヒルデもあまりの話しの内容について行くのが大変だったが、ようやくトレイヴァーの話しの全容を表面だけでも理解することができた。

 ヒルデは、自分の知っているシローが、800年以上も前の人物であり、トレイヴァーのような物を作ることができる王だと言われてもピンと来なかったが、壮大な話をトレイヴァーから聞かされるとシローが、規格外の存在だったと思い出した。


「どこか普通の人じゃないとは思ってたけど、まさかね……」


 ある程度の事情を理解したヒルデ、ユシルと共に馬を走らせ、ようやく目的地のラビリンスに到着する。このラビリンスも手付かずで、名前すらついていないものだ。


「じゃあ。さっそく行きますか。ユシル達の準備はいいの?」


「ええ。時間もあまりなさそうだから急ぎましょう」


 ラビリンスの経験がある2人は、躊躇せずにラビリンスに潜った。


『索敵とマップは、僕が担当するからね』


 トレイヴァーの言ったとおり、進行方向と魔物の発見。罠の発見や解除は、トレイヴァーの魔法で解決する。ヒルデは、しばらくぶりに剣を振るい戦士として浅い階層の魔物を屠っていく。数が、多い時は、ユシルが魔法で一気に殲滅するが、魔力を残すようにとヒルデが中心となって戦った。さすがに9層まで潜った経験者であれば、浅い階層は運動にもならない。


「やっぱり、ラビリンスは悪くないわ」


 目の前の魔物に止めをさしながらヒルデが言う。ヒルデ自身も王女と言う立場よりもよほどしっくりくるのだろう。そして、迷う事もなく5層をすぎ、休憩をはさんだ2人が、6層への階段を降りようとしたとき


『少し待って、ここで試練があるから』


「試練?」


『ああ。少し強い魔物と戦闘するよ。ユシル。君の魔法でこの部分に魔力を流して』


 ユシルは、トレイヴァーが青い目印を着けた通路の壁に触れ、鑑定魔法を使用する。


『よし。後は、階段を降りれば、大きな魔物がいる。これを倒せば試練はおしまいだ』


「それで、試練ってのは、何?」


 ヒルデが、試練の内容を聞く


『試験みたいなものだよ。ちゃんと強くなっていれば倒すことができる魔物がいる。魔物を倒せば認められ、対価が手に入るから試練だね』


「じゃあ。これから魔物を倒せば……」


『僕の仲間がいる』


 ヒルデは、もっと深層に行く必要があると思っていた。しかし、トレイヴァーの説明では、次の階層が目的地のようだった。

 慎重に2人が、階段を降りるとそこは、広い部屋になっており中央に魔物の姿が見えた。


『あれは、エンシェントウッドゴーレムだね』


 身体が、木でできたゴーレムは、ゴーレムの中でも弱い部類に入る。弱点が火とわかりやすく身体も木である以上、ダメージを与えやすい。


『普通のウッドゴーレムじゃないから注意してね』


 トライヴァーが緊張を感じさせない説明をする。確かにその大きさや異様さは見るだけでもわかるものだった。肩口にある木のツルのような物や苔のような物が、床びっしりに生えている。


「どうやって倒す?」


 ヒルデが剣をかまえてユシルに確認する。


「そうですね。普通のゴーレムじゃないのでしょうけど。やっぱり木ですから燃やしちゃいましょうか」


 ユシルは、一歩前へ出るとトレイヴァーを目の前に浮かばせ魔力を込める。トレイヴァーに光が集まり、収束していくとぱっと一瞬輝いた。


「フレイムストーム!」


 ユシルの使ったのは、炎の上級魔法。ウッドゴーレムの周囲を炎の嵐が包み込む。


「ごああああ」


 ウッドゴーレムの叫び? とも言える声が部屋の中に響き渡る。


「来るわ!」


 炎に身を焼かれながらも一歩ずつ前に出るウッドゴーレムにむけてヒルデは、剣を握りなおした。ウッドゴーレムは、ツルを飛ばしてヒルデを攻撃しようとするが、ツルは身を包む炎に焼かれ届く前に燃え尽きていく。3歩近づいた頃には、自身の身体のほとんどに火がつき、そのまま前に倒れ力尽きた。


「終わりました」


 ユシルの言葉にヒルデも驚く。


「炎の上級魔法……すごい威力ね」


『ユシルの魔力があればまだいけるだろうね。さあ、それよりも宝箱が出ているはずだからそこに向かおう』


トレイヴァーの指示を受け、2人が倒したエンシェントウッドゴーレムの元へ向かうとそこには、豪華な宝箱が残されていた。


『さあ。宝箱には罠もないからそのまま開けてかまわないよ』


 すでに確認済みとトレイヴァーが説明したため、ヒルデはその宝箱をゆっくりと開く。そこには、1本のロングソードが設置してあった。


『ユシル。起動するには魔力が必要なので、その剣に鑑定魔法をかけてくれ。それなりに魔力を要するからね』


 トレイヴァーの説明に頷いたユシルが、宝箱の中に置かれている剣に手を添え魔力を流す。ぐぐぐっと魔力が吸われていくような感触が、ユシルの腕から感じられる。

 以前よりかなり増加していたユシルの魔力だったが、大半を使用した頃に魔力の流れが止まる。


『魔力パス確認。起動に成功』


『やあ。イルギス。800年ちょっとぶりだね』


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