ラビリンス 55層
「皆に大事な話しがあります」
ヒルデの声にたき火を囲う面々の顔が、ヒルデに向かう。すでにその変化に気づいた者もいたが、だまってヒルデの話を聞こうと言葉を飲み込んだ。
「バラトール領に入り、私達は、これまでに3度の襲撃を受けました。野盗に扮していたようですが、皆さんが見てもわかるように相手は、バラトールの正規兵で間違いありません。私は、ルシエル王国のため、国民のためにこうして皆さんとバラトールに向かっていますが、もはやバラトールには国同士の約束を守れるだけの力はないのでしょう。遅かれ早かれ彼の国は、滅亡へと進む事でしょう。ですので、これ以上バラトールに進む事はとりやめます」
ヒルデの話に数人が、驚きの声をあげる。ざわざわと侍女たちも隣の者に声をかける。ブッカが、皆にヒルデの話しを聞けと言うと皆が、再びヒルデを見る。
「良く聞いてください。皆さんには、このままルシエル王国に戻っていただきます。幸い、敵兵から食糧と水、馬も手に入れましたから馬車を組んでルシエル王国へ戻るのは可能でしょう。ですが、そこに私がいると問題が生じます。私は、ここでバラトール王国の兵士に襲われて行方不明となります。皆さんは、その報告をルシエル王国へ持ち帰ってください」
これには、ブッカ達も驚きを隠せない。ヒルデが、何らかの決断をした事は、なんとなく気づいていたがまさか自らの行方不明を報告させるとは思わなかった。
「私は、賢者ユシルと共に一端この身を隠します。賢者ユシルの予測では、バラトール王国の崩壊は、それほど遠くない時期に知れ渡る事になるようですので、それまで皆さんには、私が無事である事を隠していただきたいのです」
「姫は、その間どうするつもりだ?」
ブッカが、心配そうに言うと
「先ほど、言ったように賢者ユシルと共に身を隠すつもりです」
「ならば自分達もお嬢について…」
ダームが同行を申し出ようとしたときヒルデが、それを静止する。
「いえ。ブッカやダーム達には、侍女たちを連れてルシエル王国へ戻っていただきます。皆が私の事を大切にしてくださる気持ちはとてもうれしいのですが、侍女たちだけでルシエル王国へ戻る事はできなくなります」
確かにブッカ達クランのメンバーの力がなければ、非戦闘員ばかりでルシエル王国へ戻る事は事実上困難だ。ヒルデが、バラトールに向かって野盗に襲われ行方がわからなくなった事になれば、しばらくの間、両国間での交渉は停滞する。その間に政情が変われば、婚姻外交事態が見直される事になるだろう。
「お嬢…いや姫は、それで問題ないんだな?」
「ええ。賢者ユシルが力を貸してくださります。私は、必ず生きて戻ります。父には、今回の襲撃の件を伝え、しばらく私が身を隠すことをお伝えください。父ならば、その意図を理解し動いてくれるでしょう」
メイレインやダルカスは、反対したが、ブッカとダームは腕を組んで考え込む。
「わかりました。姫の指示に従います。姫が、決断したのは意図があっての事でしょう。ならば、我らは姫の帰還をお待ちしています。賢者ユシルどうか我らの姫を頼みます」
ブッカが、ユシルに頭をさげる。本当なら自分たちが支えたい人物を任せる。その意味を理解してユシルも決意を新たにする。
「お任せください。賢者の名にかけて姫は、お守りいたします」
その後は、帰還に向けた馬車の準備や相手から入手した食料などを確認する作業を進める。
「姫と賢者殿は、食料や水はどうされるつもりです?」
「ご心配には及びません。新たに手にいれたマジックアイテムがありますので、食料や水は十分に用意しています。姫と私だけなら半年以上は困ることはないでしょう」
答えたのは、ユシルだ。
「そんな便利な物があるなら大丈夫ですね。では、こちらで使わせてもらいます。後、必要な物はありませんか?」
「着替えなどの必要な物も持ってきましたので、姫様に不自由はおかけしません。その気になればラビリンスに半年籠る事も可能ですから」
賢者のとんでもない返答にブッカとダームも頭をかくしかなかった。王都への帰還後の事や王への手紙などを用意するとブッカとダーム達は、侍女たちを馬車に乗せて王都へと戻っていった。
『さて、これで2人は動けるようになったね』
「ええ。トレイヴァーの言うとおりになったわ。それで、次はどうすればよいの? すぐにシローを助けに行けばいいのかしら?」
トレイヴァーにヒルデが質問する。
『時間がないのは事実だけど。今のままの君じゃ王を助けることはできない。君には、このバラトールの南部にあるラビリンスの1つに潜ってもらいたい』
「どうしてラビリンスに潜る必要があるんです?」
ユシルが不思議に思って聞くと
『そこに僕の仲間がいるようなんだ。そして、王を助けるためにはその仲間の力がどうしても必要なんだよ。だから君達2人には、そのラビリンスに入って仲間を起動してもらわなければならない』
「私達2人でラビリンスを攻略するの?」
『僕がサポートすれば2人でも十分潜れるさ。君も見ただろう。ユシルと僕でラビリンスの周囲を囲っていたバラトールの兵士を倒したんだよ』
「はい。ヒルディー様。私もトレイヴァーの言う通り大丈夫だと思います」
「もう。ユシルもヒルデで良いわ。ここからは、冒険者として接してちょうだい。それとそれだけ自信があるならあなた達の力は相当なものと言うことね」
『ヒルデにも言っておこう。僕は、王の知を司る武器だ。王が創造した魔法はすべて使う事ができる。ユシルの魔力がある限りね』
ユシルの魔力は、鑑定魔法の事もあってかなり高いとヒルデも聞いていたので納得できた。
「じゃあむしろ私の方が、お荷物って事になりそうね」
その後、2人は、残してあった馬にそれぞれ跨り、トライヴァーが案内する形でバラトール王国南方にあるラビリンスへ向かって走りだした。
食料や水は、トレイヴァーの収納魔法があれば、いくらでも収納可能のようで2人は、武器以外の物を持つ必要すらない。夜は、トレイヴァーの結界魔法を使用すると安心して眠る事もできた。
「確かにこれならラビリンスの中でも問題ないわね」
「はい。私も最初に聞いた時は、驚きましたが、冒険者にとってこれだけ便利な物はないですよ」
ヒルデもトレイヴァーの力を知るに連れ、シローの力を感じていく。ふと疑問を感じたヒルデは、朝食にと出されたパンと暖かいスープを飲みながら姿を見せているトレイヴァーに聞いてみる事にした。
「もしかしてシローもこの力を使っていたのかしら?」
『うーん。どうだろうね。記憶がなければ収納魔法は使えないだろうから。アルハナートあたりがその役割を担っているかもね』
「そのアルハナートと言うのは何なの?」
『そうだね。僕が、王の作った意思ある武器だとすれば、アルハナートは、ベイジャーが作った意思あるマジックアイテムと言えるかな』
「マジックアイテム?」
『例えたらの話しだよ。人工的に作った意思のある端末とも言える。ベイジャーの幹部たちが、活動しやすいように色々な機能を持たせて開発した便利な魔道具と言ったところかな。魔法使いであり、ポーターであり、スカウトである魔道具と考えればわかりやすいか』
「それって、そのアルハナートは、魔法も使えて収納もできて探知なんかもできるって事?」
『そう言ったサポートを意思を持ってしてくれる便利な道具さ』




