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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
54/59

ラビリンス 54層

 ヒルディーの判断は、あっさりと決まった。座して死を待つくらいなら少しでも可能性のある方にかける。迷いなく決めたヒルディーに不満を言う者はいない。


「皆さんが、ここまで私に同行して支えてくれた事を私は誇りに思っています。そして、私のわがままで、また皆さんを危険な目に合わせてしまう事をお許し願います。ですが、私は、まだあきらめません。例えこの身が切り裂かれようともです」


 ヒルディーの言葉に皆が頷く。


 脱出の決行は、皆がしっかりと寝て起きてからとした。ここまで緊迫した場面が続き、まともに寝ていない者が多かったため。決行の前に少しでも寝る事にしたのだ。

 しっかりと食事を取った一向は、緊張感で眠れない者もいたが、侍女たち非戦闘員は疲れも手伝って目を閉じるとすぐに寝息をたてはじめた。




 その後、皆が起床し、荷物を整理し終えた一向は、覚悟を決めて装備を点検する。最初に飛び出すのは、ブッカとダルカスと言った戦士達だ。相手の槍に備えて防具を調整し、1人でも多くの兵士を倒すつもりでいる。そのあとに、ダームやメイレインが続き活路を開き、残りの者はヒルディーと共に囲いを突破すると言う計画だ。


 これから命をかける仲間たちに一言ずつ声をかけたヒルディーは、大きく息を吸うと気持ちを入れた。


 ラビリンスの入り口近くまで進んだヒルディー達が、意を決してラビリンスを飛び出す。すぐにブッカとダルカスが、目の前にいる兵士に向かわんとしたとき。そこには、倒れた兵士がうずくまっていた。


 何があったのかわからず、倒れた敵兵を見下ろしながら2人がきょろきょろとしていると後ろから次々とラビリンスを飛び出してくる。

 そして、ダーム達もブッカ達と同様に周囲の様子を見て驚きを見せる。ヒルディーが、ラビリンスから姿を現した時。


「ヒルディー様。ご無事でしたか?」


 そこには、かつて見た賢者の姿が見える。ヒルディーの姿を確認した彼女が、こちらに向けて駆けつけてきた。


「な、なぜ? ユシルがどうしてここにいるの? それにこれは……」


 周囲には、全滅している敵兵の姿がある。何があったのか周囲一帯が、まるで戦場となっていたかのように大地がえぐれ、あちこちから煙が上がっている。


「王の許可を受け、ヒルディー様に同行すべく賢者ユシル参上いたしました。敵兵は、私が殲滅いたしましたのでここはもう安全です」


 周囲に倒れる敵兵士は、援軍があったのか50人以上いるように見える。それをユシルは、単騎で殲滅したと報告する。


「おいおい。賢者様は、どうやってこれだけの兵士を」


 ブッカが、周囲を見ながら呆れて言うが


「魔法を使えば可能です。それよりもヒルディー様が、ご無事でよかったです。間に合わないかと心配しました」


「あなた……1人でここまで来たの?」


「ええと。もう少ししたら近衛兵の方も数名おいついて来ます。途中まで一緒だったのですが、嫌な予感がしたので私だけ先行してきました」


 ヒルディーが、賢者ユシルを見て頭を下げた。


「何はともあれ、あなたのおかげで皆の命が助かったわ。本当にありがとうね」


「いえ。ですが、本当に間に合ってよかったです」


 ユシルが、安堵している中、後から次々とラビリンスから出てくる覚悟を決めた侍女たちも外の様子を見て戸惑っていた。


「どちらにしても一度、状況を整理しないとだめね。敵の水や食糧もあるようだから。使えるものがあったら回収してください。ダームは、索敵、ブッカ達は、念のために敵兵を見て回って!」


 ヒルディーの指示にブッカ達は、すぐに行動に移る。現場には、ヒルディーとユシルが残される。


「ヒルディー様に進言したい事があります」


 人目が減った事を確認したユシルが、ヒルデに話しかける。


「ヒルデでいいわ。それに皆には言えない事ね」


「はい。単刀直入に申し上げます。シローさんの身に危機が迫っています。ヒルデ様には、シローさんを助ける協力をしてほしいのです」


 予想外の人物の名前を聞き、ヒルデは驚く。


「あなたが、どうしてシローの事を知っているの?」


「実は、私もシローさんに救われているのです。王城内で暗躍している者達の事を知らせてくれたのも、あの時、私達を助けてくれたのもおそらくシローさんです。私が、会って話をできたのは1度だけですが、絶望していた私を救い出してくれたのです」


「危機が迫っていると言うのは?」


「はい。実は……」


『ここからは、僕が話した方が早いね』


 突然、ヒルデの頭の中に男の声が聞こえる。


『驚かして済まない。僕は、ユシルと契約しているインテリジェンスウエポンで名前をトレイヴァーと言う。君の知っているシローが、昔作った武器なんだ』


「えっ……」


『ああ。言葉に出さなくてもいいよ。君とユシルにしか僕の声は聞こえないからね。君が頭の中で話しをしてくれれば、僕には伝わるから』


(これで、聞こえるの?)


『聞こえるよ。じゃあ。少し説明させてもらうね。僕の王は、イルシィー=ローレンス。君の知っているシローの本当の名前だ。僕は、その王に作られた意志ある武器なんだ。偶然、ユシルの協力を得る事ができてこうして起動することができたんだ』


(シローの本当の名前……。あなたの王?)


『今、君の記憶からも少し読み解かせてもらっている。勝手に覗いて申し訳ないが、時間もないから許してほしい。僕の王は、今記憶と力を失っている。だから自分が何者なのかを覚えていないんだ』


(シローは、昔の記憶がないと言っていたことがあるわ)


『王は、800年以上前に現在に飛ばされたんだ。その時に記憶と力のほとんどを失ってしまった』


(そんなことが……でもそれと私がどのような?)


『王の力を君が受けているからだ。今日会ってはっきりとわかったけど君は、王と会って大きく成長しただろう。ユシルもそうなんだが、君の魔力に王の魔力が強く干渉しているのがわかった』


(シローが、私に?)


『女性に対してこんな事を言うのは、どうかと思うけど。君も王の事が、シローの事が気になっている。これは、恋心と言って間違いないだろう』


 トレイヴァーにそう言われたヒルデの顔が赤面する。王女として自身の立場を理解し、自分の想いを捨て、隠し、見せないようにしていた。そんな秘めた想いを見透かされてしまった。


(な、何を……)


『君の立場は、理解している。だが、今日の襲撃で君も理解しているはずだ。例え、バラトールに到着しても遅かれ早かれ君は殺される。確かに国同士の付き合いは、大切なのだろうが、今のバラトールの政情では、国同士の友好関係は築けない』


 バラトールに入り、3度の襲撃を受けたヒルデも内心はそう感じている。だが、国を背負っているヒルディーが、簡単に逃げるわけにはいかない。


『提案がある。このまま君には行方不明になってもらいたい』


(でも……)


『君が、僕の事を信じてくれるかわからないが、バラトールはもう間もなく国としてなくなるだろう。さっき、倒した敵兵士の記憶を少し覗いたが、バラトールの内情はもう収拾のつかないところまで進んでいるようだ。おそらく軍部の誰かが、革命を起こし新たな国をうちたてる事になるだろうね。すでに革命の準備も進んでいるようだ。だから君が、バラトールに向かっても何も意味をなさない。こんな言い方が、ずるい事は百も承知だが、君を慕って命をかけてくれる仲間たちのためにも君は、これ以上進むべきではない』


 ヒルディーも理解していた。バラトールの政情を考えれば、例え無事に嫁ぐ事ができてもその先は暗い未来が待っているだけだ。そして、最後には、大切な仲間も命を落とすだろうことも。


「私は……」


 心の中のずっと奥に隠していた想いが、ヒルディーではなく1人の冒険者としてのヒルデを取り戻す。

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