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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
51/59

ラビリンス 51層

(あなたの王は、私が会ったことがある人って本当?)


『そうだね。君の魔力の一部に王の魔力を感じたからね』


(もしかしてだけど。その人シローと言う人じゃないですか?)


 ユシルは、思い切って思い当たる人物の名前を告げる。


『シロー? 我らの王は、ただ一人 イルシィー=ローレンス』


トレイヴァーが、そう答えると


「イルシィー=ローレンス?」


『待てよ……。王の名前の略称かもしれないな。王の外見は20歳前くらいの男で、なかなかの男前だぞ』


「シローさんは、20歳前くらいの男性で、黒髪で…そうですね男前だったと思います。それに私も知らない不思議な魔法を使われているようでした」


『ならそのシローは、我らの王に違いないな。髪も黒髪だった』


 ユシルは、本との会話にも戸惑ってはいたが、徐々に違和感を感じなくなっていく自分に気がついた。


「あの。なぜかあなたの事に違和感を感じなくなってきたんですが、これは何かの影響でしょうか?」


『ああ。君と僕は、魔力を共有しているからね。僕も今君の記憶や感情を受け止めつつあるよ。君もきっと僕の記憶の断片や気持ちをなんとなく理解してきているはずだ。君が、僕の王へ感じている気持ちもまあ理解しているよ……」


 そう言われたユシルの顔が、赤面する。


「そ、それは、プライバシーです。女性の気持ちをなんだと思っているんですか!」


『それは、悪い事をしたね。でも、魔力を共有するとそんな事もわかってしまうんだよ。そうだな、例え君の気持がわかっても僕は知らない事にしておくよ』


 ユシルは、納得いかなかったが、それ以上何も言えずにいた。何よりも自身でも少し気にしていた異性への恋心を自覚してしまい。恥ずかしくて顔をあげられなかった。


『君の気持ちは、僕にとっても喜ばしい事なんだけどね。王を慕う者でなければ僕は力を貸すつもりはないし、僕の力も使えないだろう』


「トレイヴァーさんは、この後どうするつもりなんですか?」


『僕の事は、トレイヴァーと呼び捨てにしてくれてかまわないよ。僕も君をユシルと呼ぶしね。それとこの後の事については、少し待って欲しい。今、君の記憶と知識を読み解かせてもらって、この時代の事と周辺の状況、王の立場と現状について把握したいんだ。その上で、もしかすると君に色々なお願いをしなくてはならなくなる。無論、協力してくれると言うなら僕も対価を支払うよ。君は、僕の力を使いこなすだけの魔力もあるようだしね』


「わかりました。私もあなたの王が、シローさんだと言うなら協力は約束します。シローさんは、私にとって命の恩人でもあるのですから」


 恩人の部分を強調して言ってみたが、魔力でつながるトレイヴァーには、彼女の気持ちは透けて見えている。トレイヴァーにしても協力をかって出てくれるならその目的や理由を問うつもりはなかった。


『じゃあ。本当の意味で契約成立だね。僕は、さっき言ったように少し君から情報を得る時間が欲しい。僕の姿は、一度消えるけど君が呼んだり望んだりしたら現れるから心配しなくて良いからね』


「契約については、わかりました。お時間のある時に詳しい説明をお願いします。あと…可能な範囲であなたの王について教えてください……」


『はははは。了解だよ。時間のある時に偉大な僕の王の事を君に話そう。ではまた』


 そう言うとユシルの目の前にあった本が、すっと音も立てずに消えていった。


「イルシィー=ローレンスさんね」


 思い人の名を知り、少し微笑んだユシルだったが、すぐに気持ちを入れ替え次の本の鑑定を始める。少々、集中力をかいたが、それでも数冊の鑑定を終え作業をやめる。

 ラビリンスから戻り、ちょっとのつもりで始めた鑑定で、予想もしない出会いもあった。




 翌日、ユシルが、ベッドの中から起きだすと頭の中に声が聞こえた。


『やあ。ユシル。おはよう』


「おはようございます。トレイヴァー」


『ようやく。君からの情報をまとめる事ができたよ。それで少し話をしたいから時間をくれないかな?』


「ええ。良いわよ。そうね。朝食を食べてからでも良い?」


『ああ。それまで待っているよ』


 ユシルは、着替え身支度を整えると王城内にある食堂で、朝食を取り自室へと戻る。今日は、特に明確な予定もない日だったため都合も良かった。


(えっと。トレイヴァー。準備いいわよ)


『ずいぶんと早かったね。食事はゆっくりと摂った方が、健康に良いのだよ』


「あら。じゃあ次からは、ゆっくりと食べる事にするわ」


『じゃあ。さっそくだけど。話しをさせてもらうよ』


 そうトレイヴァーが言うとユシルの前に本が現れてユシルの手に受け止められた。


『まず、最初に僕の王の事だけど。予想よりも悪い状況にいるようだ』


「悪い状況?」


『ああ。王は、記憶と力を失っているようなんだ。本来なら切れる事のない僕との魔力パスも切れており、こちらから干渉する事ができない。これは、僕にとって大きな不安材料なんだ。僕の知っている王は、少々の事でどうにかなるようなお方じゃないんだ』


「それってシローさんにとって……」


『かなり危険な状態と言う事だ。しかも王の周囲に悪意のある者が、ついている可能性が高い。君の記憶の中にいた王と行動を共にしていた冒険者の女性なんだが、僕にはその顔に見覚えがあったんだ』


「確か食堂で、シローさんと一緒にいた女性がいました」


『そう。彼女の名前は、シーリーン=ルドアート。王と敵対していたベイジャーの幹部だ』


「ベイジャー?」


『ベイジャーと言う組織は、僕にも詳細はわからない。わかっているのは、王が誕生した存在していて、何度も王の命を狙ったり、利用したりと画策する連中の事だ』


「じゃ、じゃあ。その人達と一緒にいるとシローさんは、危ないって事じゃない?」


『だから危険な状態だと言っただろう。おそらく手下のアルハナートやトレイボールなんかが、裏で動いているのだろう』


「じゃあ。急いでシローさんに伝えないと」


『そうなんだが、今の王は、僕の事も覚えていない。それに王の周りにいる者達は、かなりやっかいな相手なんだよ。簡単に近づけないだろうし簡単にこちらの話を信じてくれないだろう』


「それじゃ。どうするの?」


『そこで、君に頼みがあるんだが、君はこの国の王女と顔見知りだろう?』


「ええ。ヒルディー王女とは、面識もあるしお世話になっているわ」


『彼女の力を借りたいんだ。彼女もおそらく王の魔力の影響を受けた1人だ。おそらく王は、無意識のうちに種を撒いているのだろう。そして、そのことは、ベイジャーにも気づかれていないと思うんだ』


「王女様は、先日、バラトール王国へ嫁がれたわよ」


『もちろん知っているよ。でもまだ向こうへついただけだろう。それにこれは僕の想像だけど彼女も王を慕っていると思うんだ。だから真実を伝えれば彼女はきっと動いてくれると思うんだ』


「それは……でも王女様は、王国のために……」


『それなんだが、おそらく彼女は、バラトール王国で命を狙われるだろう。彼の国には、どうやらルシエル王国と仲良くしたくないと考える者がたくさんいるようだからね』


「ええ!」


『だから彼女に力を貸してもらうためには、彼女を助ける必要があるんだ。そこで君には僕とバラトール王国へ向かって欲しい』


「わ、わかった。すぐに王様に許可を求めて」


『それなんだけど危険だとは言わない方が良いよ。王女に会いに行きたいとだけ伝えた方が、許可ももらえるだろうしね。同行者の事だけど近衛兵数人を同行してもらえるように頼むと良い』


「なぜ。危険だと伝えないの?」


『きっと王も危険は承知だと思うよ。すでに姉も犠牲になっているからね。それでも王としては、娘を旅立たせなくてはならないんだ』


「そ、そんな……」




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