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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
50/59

ラビリンス 50層

「今日の探索は、ここまでね」


 ユシルは、側にいる兵士に声をかける。賢者ユシルとして王都のラビリンス、スラージに潜るようになって今回で5回目の探索だったが、近衛兵から選抜された戦士とギルドから紹介されたスカウト、ポーターで構成されたクランは、順調に成果を上げていた。

 代表は、立場上ユシルが務めているが、実質のリーダーは、ギルドから紹介されたベテランスカウトだ。戦闘は、近衛兵戦士が主体となりユシルが魔法でサポートする。


「がははは。それにしてもここはいいな。もっと早く訓練に使うべきであった」


 そう豪快に笑うのは、ベテラン近衛戦士で近衛隊のリーダーを務めるヘイストだ。当初は、否定的だった近衛兵の面々もラビリンスで行われる魔物相手の戦闘を繰り返すうちにその意義を認めていた。


「なによりもこの緊迫感が良い。命のやり取りを感じられる戦闘こそ我らを鍛える事につながろう。これから近衛に入る若者には、ここで数日笑って過ごせるくらいの気概が欲しいものだ」


 ユシルも苦笑いしているが、言っている事は間違いでもない。近衛と言っても実践経験に乏しい戦士が多いためこのような経験は、必要だと思った。


「賢者様に誘われたと言われれば、悪い気はしない。それに近衛の旦那方は、戦闘では優秀な戦士だ。色々なクランやパーディーに入れてもらったが、なかなか面白い構成だぞ」


 そう言うのは、リーダーを務めるノリス。スカウトの経験が豊富にある彼は、攻め時と引き時を理解できるベテランだ。


 今回の探索は、3層の途中で追える事になるが、徐々に戦闘にも慣れてきている。連携も取れ、ラビリンスの中で過ごす事にも適応しつつある。戦力的には、十分その先にも進めるだろうが、身体を慣らすのが先だとノリスは譲らない。これにユシルも賛同したためヘイストもしぶしぶ納得した。


 ユシル自身もブランクがあるため、身体を慣らすのにちょうどよかった。潜る度に身体も元の引き締まった身体へと戻っていく。魔力だけは、この数年で大きく上昇しているが、実践経験を積めなかった時間を取り戻すために積極的に魔法を使っていた。


「しかし、さすがに賢者様だな。あれだけの魔法を使ってもまだまだ魔法が使えるってどれだけ魔力があるんだよ?」


「そうね。初級魔法なら連発しても問題ないくらいね」


 ビドウィン達に過酷な鑑定魔法を使わされ続けたユシルの魔力は、想像以上に高まっていたためユシル自身も魔力が切れる気配を感じないほど魔力は高くなっていたのだ。

 



 探索を終えラビリンスから王城に戻ったユシルは、自室で休憩を取ると鑑定作業に移る。新たに本を王国で買う事はなくなったが、倉庫にはビドウィン達が、買い漁った本が山のように積まれていた。

 ユシルは、ラビリンスに向かわない時間は、そんな本を鑑定し王国に貢献しようと考えていた。ユシルの王城での暮らしは、王の直属の配下となってから大きく変化した。外出に制限はなく、勤務もユシル任せ。ラビリンスの探索を近衛兵と合同で10日に1度ペースで行い。数日をラビリンスで過ごす。残りの時間は、研究や鑑定に充てるのが最近の生活リズムだ。


 ユシルは、最近になってラビリンスから入手される武器防具に魔法が付与されている事に気づく。以前は、鑑定できなかったのだが、魔力が増加した影響か今は武器防具の鑑定も可能となった。ユシルは、この事を王へ報告したが、冒険者の中や市場が混乱する可能性があり、発表はまだ行われていない。


 ユシルは、与えられている執務室の隅に積んである本を1冊手に取るとそれを机の上にあげる。無理やりさせられていた鑑定と違い今はリラックスした中で作業を行えるのがユシルにとってうれしかった。


 いつもどおり、本に手をあて鑑定魔法を使う。


「???」


 ユシルは、鑑定中にも関わらず違和感を感じる。いつもなら本を光が覆い内容を読み取るような感覚があるのだが、今手を触れている本は、なかなか読みとる事ができない。

 ユシルは、集中力が足りないのか魔力が足りないのか一瞬考えたが、すぐに気持ちを切り替え魔力を送り込んでいく。いつもならそれほど多くない量の魔力で、鑑定を終えれるのだが、この本は魔力を送り込み続けても鑑定が終わらない。それでもユシルは、意地でも鑑定してやると魔力をさらに注いでいった。

 すでにどれほどの時間魔力を注ぎ続けたのかわからなくなるほどユシルは、魔力を送り込み続けた。


『魔力パスを確認。起動に成功』


 ユシルの頭の中に声が聞こえる。慌てて目を開け本を見ると鑑定が完了していた。


「えっ?」


 驚いたユシルの脳裏に再び声が聞こえる


『ええと。驚かせて済まない。君の名前は?』


「あ。あの……」


『ああ。声に出さなくてもわかるから頭の中で話してくれていいよ』


(わ、私は、ユシル=ボートレインと申します)


『ユシルだね。了解だ。私は、トレイヴァー。目の前の本が僕だ』


(本が喋った……)


『インテリジェンスウエポンって知らないかな? 僕は、そう呼ばれている。意志持つ武器の1つだ』


(インテリ……ごめんなさい。私は、し、知りません)


『少し待ってね……。ああ……なるほどね。ずいぶんと時代が変わったようだね。そうか…もう800年以上が経過したのか。それなら僕の事を知らないのも仕方ないかもな。じゃあ、君にわかるように少し説明するよ。僕は、そう800年以上前に王に作られた武器なんだ。王は、僕にトレイヴァーと言う名前と魔法の力を与えて創造してくれた』


(あなたが、武器?)


『そうだよ。僕は、意志ある魔法書。僕の中には、王が創造した魔法のすべてが詰まっているんだ』


(王様が創造した魔法?)


『そうさ。おそらく今君たちが使っている魔法もすべて王が創造したものだよ』


(あなたの言う王って?)


『僕の想像主さ。そして、王が作った僕らは王と呼んでいた。おや…おかしいな王の気配はあるようだけど、王の様子がおかしいね』


(ええ? 今もあなたの王はいるの?)


『そりゃいるだろう。王は、この世界の管理者なんだよ。簡単に死んだりすることはないんだ。でもおかしいな…王の身に何かがあったのだろうか』


(あなたは、王のいる場所がわかるの?)


『だいたいだけどね。王がいる方向くらいは感じられるよ。それに…どうやら君も王に会っているようだね』


「ええっ!!」


『驚かせてごめん。でも確かに君は、王に会っている。それに君の魔力はその王の影響を受けて変質しているようだ。おそらく生まれつき資質はあったのだろうけど王の魔力にあてられたのもしれないね。そうでもなければ、僕を起動するなんて事はできなかったはずだ』


(起動って?)


『君が、魔力を流し僕とのパスをつないだ。君の魔力が僕を眠りから起こしたと言う事だよ。今は、君の魔力と僕はつながっている』


(私と?)


『そうだよ。今、君は、インテリジェンスウエポンである僕、トレイヴァーの契約者になっている』


(私があなたの契約者に?)


『今、君は、僕の力を使えば、現存するすべての魔法を使う事ができる。魔力は君のものを使う事になるけどね』


 ユシルは、恐る恐る右手を開く


「ライトアロー」


 右手からは光の矢が現れる。驚くユシルは、すぐにその矢を打ち消した。ユシルの手に入れていない光魔法が、そこに現れた。


『君に嘘はつかないよ』




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