ラビリンス 48層
フレイムフィストを放った後のわずかな硬直で、回避行動が遅れたシーリーンにそのシーリーンを呑み込めるくらい大きな口が開く。無数の鋭い牙が、シーリーンに届く瞬間、シローの放った。フレイムスピアーが、数本その口の中で爆ぜた。
大きな口の中で燃え盛る炎は、ロックタートルの口内を焼く。首をのけぞらせるように天井を向いたロックタートルの口から炎が見えた。
「よし。追撃するぞ!」
攻勢を強めるように指示したシローもロックタートルの顔めがけてフレイムスピアーを打ち込んでいく。たまらずロックタートルは、首を甲羅の中に引っ込めた。ご丁寧に首が引っ込んだ場所には、甲羅の一部がかぶさるように蓋がされそこへの攻撃も遮断している。
放たれたフレイムスピアーも甲羅の前には、焼き石に水と言った具合だ。
「殻に閉じこもったか。それなら!」
シローは、アルハナートの収納からミスリルの槍を出すとその槍をかまえる。身体強化された身体で大きく跳躍するとロックタートルの甲羅の上に上った。
甲羅の一部が動いたと思ったらそこからまるで火山が噴火するように人の頭ほどある岩が、噴き出した。シローは、慌てて一旦甲羅の上から退避し距離をおく。
「シーリー。プロテクトシールドで、あの岩の攻撃を抑えられるか?」
「はい。マスター。十分可能です」
「よし。先に飛び込んであの攻撃を抑えてくれ。俺もそのあとに続く」
「はい。マスター」
シローの指示にプロテクトシールドを展開させたシーリーンが、飛び込むとシローもシーリーンの影にかくれるように追随する。次々と噴き出す岩の攻撃は、シーリーンが受け止め2人は甲羅の上に降り立った。
ミスリルの槍を甲羅に突き立てるように置いたシローは、ウエポンクリエイトで創造した巨大な槌を出すとまるで釘を打つように甲羅にミスリルの槍を打ち込んだ。
ミスリルの槍の柄が中央部分でぽっきりと折れたが、その威力で槍の先端部分が硬い甲羅に突き刺さった。槍の先は、分厚い甲羅に遮られてダメージを与えられなかったが、残った柄を数回槌で叩くとかなり奥まで突き刺さった。
それでもロックタートルは、めげずに甲羅から岩を噴き出し続ける。
「シーリー。もう少し抑えておいてくれ」
シーリーンにもう少しシールドで岩を抑えてもらい。シローは、わずかに甲羅の上に残るミスリルの槍の柄を握る。魔法伝導率の高いミスリルの特性を活かし、シローはその槍の先に魔法を加える。
「アル。エレクトンを使う」
シローの指示にアルハナートの球体が正三角形を作る。
「ライトニングスピアー!」
甲羅に埋め込まれたミスリルの槍の先端に中級雷魔法を打ち込む。途中でアルハナートの球体が結んだ輪を通過するとライトニングスピアーが、上級魔法であるライトニングストームとなった。
シロー手には、甲羅の中で雷が暴れているかのような感触が伝わってくる。槍の根本からはもうもうと煙すら上がっていた。
先ほどまで平然としていたロックタートルが、再び首を出し悲鳴のような咆哮をあげた。
「がああああ!」
「ようやく甲羅から出てきたか」
シローは、甲羅から岩を噴射する事をやめたロックタートルの甲羅の上から現れた首めがけて跳躍する。すでに手には、ウエポンクリエイトで創造された大剣が握られている。
シローは、跳躍の勢いを活かしてロックタートルの首を切りつけると首の半分くらいが大きく切り取られた。止めと言える一撃だった。
だが、ロックタートルの目がシローを捉える。
『マスター。魔法攻撃が来ます』
ロックタートルの最後の攻撃なのかロックタートルの目がかっと光るとシローの周りに岩でできた無数の槍が地面からつきだした。
アルハナートのシールドビットも展開が、間に合わずその鋭い岩の槍は、シローの身体を貫いていく。
「ぐああっ!」
太腿と片腕を貫かれたシローは、5m以上宙を舞う。慌ててシーリーンが、ロックタートルの顔めがけてライトニングフィストを打ち込むと切れかかっていた首が引きちぎれて数m先まで飛んで行った。
「マスター!」
ロックタートルを倒した事も気にすることなくシーリーンは、自分のマスターへ駆け寄る。吹き飛ばされたシローは、数回地面で跳ねるように転がった後、仰向けに倒れた。すぐにアルハナートが、回復魔法を使いシローを癒していく。
「ハイヒール!」
中級回復魔法を使ったアルハナートの光が、シローを包みこむ。幸い、シローが絶命する前に回復魔法が作用したためシローの貫かれた太腿の傷も腕の傷も消えていった。わずかに間に傷を回復させると
「はあはあ。危なかったな……」
ようやく呼吸を整えたシローが、声をあげた。
「まさか。最後に切り札があったとはな……油断した……」
エンシェントロックタートルは、光となって消えそこには豪華な宝箱が出ているが、シローは仰向けのまま荒い呼吸をしている。
『土系統の上級範囲魔法でした』
相手の特徴からエンシェントロックタートルは、土系統の魔物だとは、理解していたが、初見の魔法であった事もあり、回避や防御に迷いがあった事、止めを刺したと一瞬考えた油断が危なく命を落とす事になりかけた。
「油断だな。二度とないように注意しないとだめだな……」
アルハナートの魔法の効果で傷が、完治するとシローは、ゆっくりと宝箱に向かう。すでに罠が、ない事はアルハナートの報告で確認済みだ。
宝箱を前に立ちゆっくりと箱を開けると中には、以前手に入れたアルハナートの追加装備が、入っていた。数も前回同様に3つ……
『追加装備を確認しました。起動してください』
アルハナートの言葉に従い、シローは、鑑定魔法で3つの球体を鑑定する。前回のような膨大な情報の伝達や頭痛はなく。数分で機動に成功した。球体は、すぐにアルハナートの周囲にあった3つの球体に合流するように浮かび上がるとアルハナートの周囲を旋回し始める。
「これでまたアルは、強化されたのか?」
『はい。これでアルハナートは、各上級魔法の使用とシールドビットの上位にあたる全方位防御魔法である。プロテクトフィールドを使用することが可能となりました。初級魔法なら最大6発、中級魔法なら最大3発、上級魔法なら1発の魔法を使用可能です』
「プロテクトフィールド使用時、アルは魔法攻撃できないのか?」
「すべての球体を使用しますので、他の行動は制限されます」
アルハナートの機能向上で、シローの戦力はさらに強化される。
『マスター。10層への階段が解放されました。次の層への階段はありません。ここが、ルーレリアンの最深部のようです』
アルハナートの報告にシローは
「ここが……最終層か……」
『この部屋の奥に部屋があり、その部屋の扉が解放されています』
「そこに何かがあると言う事か」
シローは、アルハナートに案内されるようにその小部屋にと向かった。青白い光を放つドアに手を添え魔法を使うと以前シーリーンを見つけた部屋のドアのように扉が開いた。
中に入ると明るさを増した部屋には、台座に載せられ透明のケースに収められた本が1冊大切そうに設置されていた。
ゆっくりとその台座に近づき、透明のケースに手を触れるとケースは、すっと音も立てずに消えていった。おそらく本が傷むのを防止していたのだろう。
シローは、そっとその本に手を伸ばした。




