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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
46/59

ラビリンス 46層

「このことを担当長官は、どう説明するのだ?」


 王にふられたトリエスト長官は、うつむいてしまった。背後からビドウィンが、助言しようとも試みたが、あまりにも目立つ行為となるだろう。

 だが、ふがいない目の前の上司は、王に返答する事もできない。


「お、恐れながら申し上げます。確かに多くの本の鑑定を賢者ユシルに願いましたが、その本の中から魔法書は、2冊しか見つける事ができずに終わっております」


 ビドウィンが、あわてて上司の代わりに弁明する。見つかった魔法書の正確な数など自分たち以外に把握している者はいないのだと言う自信がそう弁明させた。


「ほう……と言う事は、王城に賢者として迎え入れた事が、かえって賢者殿の力を奪ったと言う事ではないか。何のためにお主らの進言を聞き、賢者どのを招き入れたと言うのだ」


 そう。賢者を見つけた。王城で雇うべきと進言したのは、他でもないトリエスト長官とビドウィンなのだ。


「そ、それは、確かに期待通りの結果とは、言えませんが」


「3500冊か……。1年でこれだけの本を鑑定し、年に1冊の魔法書すら手に入らぬのであれば貴重な魔法書と言えど意味がないと言えよう。それよりもこれだけ有能な賢者ユシルを鑑定魔法だけに縛り付ける方が、よほど損と言う事だ」


 6種の魔法を使う優秀な魔法使いを閉じ込めてまでして得た物が、3年で魔法書2冊と言う成果はあまりにも少ない。


「国王様にお願いが、ございます」


 ヒルディーが、不意に国王に進言する。


「どうした?」


「これから嫁ぐ先へ賢者ユシルを同行する事をお許し願えませんか?」


 ヒルディーの突然の申し出にユシルも驚く。当然、トリエスト長官とビドウィン事務長も驚きを隠せない。


「なぜそのような事を?」


「はい。私が嫁ぐのは、情勢不安定な隣国です。嫁ぐと決めた以上は、その務めをはたしてこその王女でしょう。ですから私には、隣国で危険な目にあっても身を守る力が必要です」


「その力として賢者ユシルを同行させたいと言うことか?」


「はい。元々、同じ冒険者。しかも6種の魔法を使いこなす賢者ユシルが、同行してくだされば、私も安心して隣国へ向かえましょう」


「確かにお前が嫁ぐ先は、決して安全とは言えん。お前の姉がそうだったようにな……。わかった賢者ユシルが望むのなら同行を許そう」


 ビドウィンの背中に嫌な汗がつたう。ユシルの身柄が、王女に移れば、ユシルを監視する事も口を塞ぐ事も難しくなる。何よりもユシルの口から魔法書の事実や王位の簒奪を計画している事が、伝われればすべての計画が泡と消える。


「そのような事が許せるかー!」


 大声で叫び、ビドウィンが、ユシルの後ろに躍り出る。その意図をつかんでか、覚悟を決めたのか子飼いの者達が、一斉にビドウィンに習い前に出た。その誰もが魔法書で魔法をラーニングした者たちだ。


 近衛兵が、すぐに王や王女の前に飛び出し警護につく。王の間は、まさに一触即発の様相となった。


「王よ! いつまでも血筋だけで王でいられると思うなよ」


 ビドウィンが、右手を前に出す。それに合わせて他の者達も右手を突き出した。あきらかに魔法を行使するつもりだと言う事がわかり、関わりのない大臣や文官たちは逃げ回っている。


「ファイアアロー!」

「アースアロー!」

「エアーアロー!

「・・・」


 ビドウィンを中央に魔法使いが、一気に魔法を打ち込む。初級魔法でもこれだけ多くの数が集まるとその威力も計り知れない。


「私の後ろに!」


 王や王女を守るため自らを盾とする近衛兵のさらに前に立ったユシルは、すぐに魔法を行使する。


「アースウオール!」


 土の壁がユシル達の前に現れ、迫りくる数々の魔法の矢を防いでいく。しかし、すべてを防ぎきれず数発は、後ろの近衛兵に命中する。重装甲の近衛兵士も魔法攻撃を受ければダメージを受ける。


「はははは! 見ろ近衛兵であっても我らの前では無力だ。今こそ悲願を果たす時、過去に受けし屈辱を今こそ!」


 形勢を見て高揚するビドウィンは、もはや本性を隠そうともしない。危なく自分の計画が看破されそうになったが、準備自体は概ね完了していたのだ。魔法をラーニングした部下をこの部屋に入れる事ができた時点で、自分たちの勝利は決まっていたのだ。


「さあ、次で決着だ。いけ! ファイアアロー!」


 再び、集団で魔法を放ったビドウィンは、勝利を確信した。逆に近衛兵の多くや王も覚悟を決めざるをえなかった。それほど集団で放たれた魔法は、おそろしい力を持っていたのだ。


 たくさんの魔法の矢が、王や王女、そしてそれを守ろうとする者に迫る。


 しかし、その魔法の矢は、空中で何ものかに遮られそのまま消えていった。一瞬の静寂、何が起こったのか理解できないビドウィン達の虚をつくようにユシルが放ったフレイムアローがビドウィンの後ろにいた男の胸部に突き刺さった。


 突き刺さった場所から一気に燃え上がった炎が、男を焼き尽くす。あっけにとられるビドウィン達へ向けて近衛兵が、駆け出すと慌てて魔法を使おうとしたが、投げられた槍や剣が、次々と魔法を唱えつつあった男達を倒していった。中には、魔法を使い魔法の矢を飛ばして来る者もいたが、それはユシルがウオール系の魔法で防いでいった。


 近衛兵が、本領を発揮し始めると一方的な戦いとなり、ビドウィンも近衛兵に拘束されていた。


「よもや、ここまで考えていたとはな」


 床に押さえつけられたビドウィンに王が、そう言うと


「お前達、王族への恨みは忘れん。例え死んでも必ず復讐は遂げてやる」


 兵士の1人に槍で殴られ、それ以上は言えなかったが、ビドウィンは最後まで王を睨んでいた。近衛兵により、王の間にいた者で関係者と思われる者は、すべて捕えられ連行されていった。トリエスト長官は、最後までしらを切ったが、捕えた者の自白によりすぐにビドウィンと共謀していたことが判明し同じようにとらえられた。

 その後の調査で、共謀していた者達が次々と捕縛され、その中にはポーラの名前もあった。拘束された者の自白により、過去に現王家に追放された貴族の末裔であることが判明する。ビドウィンは、その貴族の再興と王家への復讐に生きていたことがわかった。


 惨劇から数日後、改めてユシルは、王と王女に面会する。後ろに近衛兵が控えてはいるが、王と王女からは、堅苦しさのない会話でよいと応接用のソファーで膝を向け合って座った。


「賢者ユシルよ。聞けばお前には、ずいぶんと苦労をかけたようだな。よかれと思って王城に招いたつもりが、ユシルには、辛い思いをさせてしまった」


「いえ。私が、幼く浅はかだったばかりにこのような事に。王様や王女様を危険な目に合わせてしまいまいした」


「脅されていたあなたのせいではないわ。それよりも身体を張って私達を守ってくれてありがとう。魔法を打ち消すなんてさすがは賢者と言ったところね」


「あの…それが、魔法を打ち消したのは私じゃないと思うのです」


「どういうことです?」


「あの魔法を打ち消したのは、私の魔法じゃありません。何とかしようとは思いましたが、間に合わず私も覚悟を決めた時、何かがあの魔法を打ち消したのです」


「何かが……」


「ふむ。賢者殿でもわからぬことを詮議しても仕方あるまい。その何かが、わからぬとて、その結果助かったのだからそれで良いではないか」


「確かにそうですね」






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