表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
44/59

ラビリンス 44層

 ビドウィンが、退室するのに合わせてシロー達も部屋を無事に出る事に成功する。


(さて、悲しい囚われの賢者様に会いに行くとするか)


 シローは、賢者ユシルの部屋の前まで来るとシーリーンとタイミングを合わせて部屋の前で警護にあたる兵士の顎を揺らすように殴る。


 いきなり見えないものに殴られた兵士は、そのまま昏倒し廊下に倒れた。


 音も立てないように部屋のドアを開け中に入ると静かにドアを閉める。部屋の中には、涙を流す賢者の姿があった。


(シーリー。見張っていてくれ)


(はい。マスター)


 シーリーンがドアの前に立ち警戒を始める。部屋の中に入って行ったシローは、涙に濡れる賢者ユシルの前のソファーに座るとアルハナートに迷彩魔法を解除させた。


「賢者ユシルは、君だったか?」


 声をかけられ、ユシルが顔を上げると、目の前に知らない男の顔がある。理解が追いつかないユシルにシローは、懐から1枚の紙切れを出す。


「これを見たからここに来たと言えばわかるか?」


 そこには、ユシルが隙を見て挟み込んだ救助を願う一文があった。


「あなたは、確か街の食堂であった……でもあなたがどうしてここへ?」


「ああ。あの時は、君が賢者だとは気付かなかったな」


「そ、それよりどうやってここまで来たの?」


「わかった。俺にも時間がないから詳細について説明するつもりはないが、魔法で姿を消して潜入しているのは事実だ。そして、君の話しによっては、君をここから助けてやっても良いと思ってここに来ている」


 一瞬、ユシルの顔に希望が差し込んだように見えたが、すぐにその表情は曇る。


「私は、すぐにでもここから逃げたい。でも私が逃げたら友達が……」


「もしかして、その友達とは、ポーラとか言う女の事か?」


「あなたは、ポーラを知っているの? 彼女は無事なの?」


「ああ。さっき見てきたからな。あいつは、お前をだますためにトリエストとビドウィンとグルになっている女のようだぞ。それにトリエストの部屋で愛人のように絡みついているのを見てきたばかりだ」


 ユシルの顔がゆがむ


「そんな……私は、ずっとポーラを信じていたのに……」


「どうやらここには、悪巧みをする者達が大勢いるようだ。君はその悪巧みをする者達にうまく利用されているだけだな」


 ユシルは、ポーラに裏切られた事にショックを受ける。目の前の男に言われて想い起こしてみれば、彼女との出会いから今日までもどこかに違和感を感じるものだった。偶然を装ったポーラとの出会いも…恋の悩みを相談し合った時間も…自分を騙すために作ったもの。いつも街へ一緒に行くのは、監視が目的だったのかもしれない。


「悔しい……」


 ユシルが、考えてまとめた言葉は、悔しいの一言だった。自分の浅はかさや幼さが、今自分をこうした立場に追い込んだ。もっと慎重に事を進めていれば、目をつけられる事もなかったはずだ。


「それで、賢者様は、どうするつもりだ? ここから逃げるのか? それとも……」


「逃げても解決はしないわ。あの人達は、どこまでも私を追ってくる。そして、私の家族や仲間を見つけだして傷つけようとするわ」


「ああ。そうだろうな」


「私が生きている限り、あの人達は、私の周りの大切な物を奪う。あの人達がいなくなってもまた誰かが私を利用しようとするのでしょう。それなら…それなら私はここで命を絶ちます」


 覚悟を決めたユシルは、それが最も確実な手段だと考えている。確かに彼女が、死んでしまえばわざわざユシルの縁者を探して痛めつけても何の意味もないのだ。


「もうひとつだけ手段があるぞ」


 覚悟を決めたユシルにシローは、1つの提案をした。


「あなたは、なぜ私を助けようとするの?」


「そうだな。俺には……」







 翌朝、ユシルが部屋で目を覚ますといつもどおり、現れる男達に早く準備するようにせかされる。ユシルは、命令に逆らわずにすぐに着替えを済ませると自分が、働かされる部屋へと向かう。簡単な朝食、テーブルには、パンとスープが並べておいてある。


 さっさと食べろと言う指示を受けて、ユシルはそのパンを飲み込むように食べる。食べ終わるとすぐにテーブルの上に未鑑定の本が乗せられた。目の前にいる男が用意している本を見るとあれが、今日の自分のノルマとなるのだろうと想像する。


 1冊の本を鑑定し終える。本のタイトルは、どう見ても趣味の世界の物だ。ひったくるように奪った男が、背表紙を見て舌打ちをしたのがわかった。そんなに魔法書が、簡単に見つかる事はないのにとユシルは思ったが、余計な事は言わない方が良いと黙って次の本をとった。


 そんなユシルの態度を観察しているビドウィンは、ユシルの姿勢の変化を感じ取っていた。


(ふむ。諦めたのかずいぶんと従順になったな)


 だが、ビドウィンは、その姿勢の変化を自分たちの利として受け止めた。午前中の作業が、予定通り進む中、事務官の1人が、ビドウィンを呼びにあらわれる。トリエスト長官から至急、部屋に来るようにと指示されたビドウィンは、周りの男にユシルの作業を継続させるよう目配せすると部屋を出た。


 足早に廊下を進み。長官の部屋に入る。


「何かありましたか?」


 目の前のトリエスト長官の顔は、冴えないように見える。


「今日の会議で、王より賢者の事で話が出た」


「この3年あまりほとんど関心を示さなかった王がですか?」


 ビドウィンが、言ったように王も最初こそ賢者に関心を持っていたようだが、この数年は隣国との外交交渉が続き意識は外にむけられていた。今も三女ヒルディーの婚約発表をしたばかりで、その調整に追われているはずだった。


「なぜ急に王が、賢者を気に留めたのかはわからん。だが、後日、王が賢者との面会の場を作ると仰せられたのは事実だ」


 ビドウィンは、王がなぜ賢者と会う事を思い立ったのかを考えたが、意図を知る事ができるような情報もなかった。ユシルの監視は、徹底しておりこちらの手の者以外が、彼女に会ったと言うような報告もない。王には、定期的に賢者が出す成果を報告しており、魔法書を独占している事を偽装するために2度ほど賢者が鑑定して入手した魔法書をオークションで捌き実績も作ってある。

 ビドウィンは、信頼できる部下を集め十分に練った計画が、それほど簡単に見破られるとも思わない。


「賢者には、十分な脅しをかけ余計な事を口走らないように致します」


「無論だ。余計な詮索を受けるわけにはいかんからな」


「しかし、王が、なぜ突然賢者に会う事を決めたのかがいささか心配ですね」


「わかった。その辺については儂の方で探りを入れる事にしよう。王と賢者の面会は、急な話だが明日の午後からとなった。お前も立ち会えるようにしておくからそれまでに備えておくように」


「はい。わかりました」


 ビドウィンは、釈然としない気持ちを抱えながら鑑定作業を続ける賢者のいる部屋へと戻る。ちょうどよいタイミングで鑑定を終えたユシルを冷たい目で見据える


「明日、王があなたに会われる場を望まれた。王に余計な事を言えばポーラ達の安否は保障しない。王には、ここで鑑定を続けている事だけ伝えれば良い」


「わ、わかりました」


 特に不平を言う事もなく指示に従った賢者ユシルを見てビドウィンは、脅迫が効いていると受け止めた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ