ラビリンス 42層
他の街と違い周囲に5つのラビリンスを抱えている王都には、それだけ多くの冒険者が集まる。当然、毎日のようにラビリンスから持ち帰られるアイテムも多く、それを取扱う店も数多い。
「なあ。王都で魔法書を買えるって話を聞いた事があるんだが、どこかで売っているものなのか?」
店の主にシローが声をかけると
「魔法書? 確かに以前何度かオークションにかけられたって話はあるが、普通に売ったり買ったりできるようなものじゃないからね」
シローは、王都に来てからまだ魔法書を売っている店を見たことがなかった。初めは、広い王都の中の事だからと考えていたが、どうにも出回っているようには見えなかった。
「そんなに珍しいのか?」
「お前さんは、王都の者じゃないないようだね。この国には、賢者様がいる事は知っているかい?」
「ああ。俺は田舎者だからな。賢者様がいる事は、そんな田舎者の俺でも聞いた事がある」
「その賢者様が、鑑定しなければラビリンスから手に入る本は読むことができない。しかも聞けば膨大な本の中から価値のある本は、わずかしかないと言うじゃないか。だから貴重な魔法書なんかは、売ったりできるほど数は見つからないんだよ」
確かにこれまでにシローが見つけ鑑定した本は、数百冊に及ぶが、その中から魔法書はわずかしか見つかっていない。しかもその多くは、ラビリンスの希少種を倒した際に現れる宝箱から手に入れているため、最近シローは、希少種以外の宝箱から出る本以外は、あまり期待していなかった。
「そうか。賢者様1人じゃ仕方ないか。いくら本が集められても鑑定が追いつかないってことだな」
「おそらくそうなんだろうな。1日、何冊あたり鑑定しているか知らないが、噂じゃ王城には積みきれないくらいの本が集められているそうだ」
シローは、本に囲まれた賢者の生活を考えると少し気の毒に思った。
「情報ありがとな。後、これを買い取って欲しい」
シローは、背負い袋からプラチナの槍と剣を取り出してカウンターにおく。本当は、クリスタルが売っていれば買いたいのだが、この店には売っていないようだ。
「おいおい。ずいぶんといいもの持っているな。使わないのか? 冒険者だろ」
「ああ。俺には扱いきれないよ。それに金が欲しいからな」
「まあ。それもそうか」
店の主もシローの年齢を見て実力を値踏みする。価格交渉を済ませそれなりの値段で売買が成立し、シローも金を懐に入れた。
シローは、ラビリンスに潜っていない時は、王都の店を回り魔法書の情報を集めつつ、クリスタルを見つけては購入し、まだ見ていない店に顔を出していく。同じ店には、できるだけ行かないようにしているのは、怪しまれないようにするためだ。いつぞやの店のように客の情報を売るような者もいる以上、名前なども名乗らないように気をつけている。
(それにしても魔法書は、手に入らないようだな。期待していたんだがな)
『残念ですが、ご自身で入手するほかないようですね』
(戦力の増強には、魔法書で魔法を追加する事が手っ取り早いんだがな)
『属性的には、バランスよく入手していますので、土系統の魔法か闇系統の魔法を入手できればよいですね』
(ああ。だが、こればかりは運次第だからな。それにしても賢者の鑑定も思ったより進んでいないようだな。俺なら1日で数百冊くらい鑑定してやるのにな)
実際、シローの魔力量と魔法があれば可能なのだが、鑑定できると言わない限りラビリンスから持ち帰られる未鑑定の本をシローが買う事もできない。鑑定魔法を秘匿する以上は、本は自分で手に入れなければならない。
シローが、まだ出入りしたことのない店を探しながら王都を歩いていると1軒の店が目についた。
「あれって……」
シローが見つけたのは、大量の本を壁一面に並べる店だった。誘い込まれるようにその店に入ったシローは、きれいに並べられた本棚の背表紙を見ていく。そこに魔法書はないようだが、図鑑や技術関係と言った物が並んでいる。
「何かお探しですか?」
奥から出てきた店主の男にそう聞かれたシローは
「いや。すごい量の本が見えたからな。もしかしてこれ全部、鑑定済みなのか?」
「ええ。もちろんですよ。お城の賢者様が鑑定した本になります。まあ、魔法書などの貴重な物はありませんが、それでも知識書としては価値がありますからね」
確かに魔法書でなくとも価値のある本はある。事実、シローも鑑定が済んだ本は捨てずにすべて収納に納めている。趣味や教養関連の本も役に立つことはあるのだ。
「冒険者をしていますから冒険に役立ちそうな本は、どこにありますか?」
「おや。冒険者の方でしたか。それならその一番奥の棚にありますよ。冒険者の方は、あまり来店しませんからね」
店主に教えてもらった棚がある場所に向かうと確かにそこには、冒険者に関係するような書籍が並べられている。中には、戦闘技術や魔法に関して考察する本もあり、なぜそんな貴重な本が売れないのかシローは疑問を感じた。
「なぜ、冒険者が来店しないのかわかりますか?」
シローの内心を理解してか店主が、シローにそう言った。
「いや。なぜだ?」
「字を読めない者が多い事と本に金をかけるくらいなら、別の事に使いたいからですよ」
確かに冒険者になる者の識字率は高いとは言えない。喰うに困って冒険者になる者や貧困から抜け出すために冒険者になる者が多いのは事実だ。
そして、冒険者の多くは、危険を冒しているわりに金に困っている者が多い。
「なるほどな……」
「あなたが、どれくらいの冒険者からは存じませんが、余裕があるのならお勧めしますよ。どの本も1冊10000Gですからね」
10000Gとなれば新人冒険者にとって安い金額ではないが、手が届かない金額でもない。だが、それなら武器を買う足しにしたり、防具を強化する事を考えるだろう。
シローは、そんな中から魔物の事について書かれた本と魔法の考察について書かれた本を選び、店主に購入する旨伝える。
「ありがとうございます」
店主が礼を言う
「それにしてもすごい量の本だな」
奥まで続く本棚を見てシローがそう言うと
「数日毎にまとめて王城から払い下げられるのですよ。最近は、少し量も増えましたね。賢者様が、頑張っているのでしょうね」
確かにこれだけの本を鑑定するのは、根気のいる事だろうとシローも頷く。
本屋を出たシロー達は、その日は宿に泊まり翌日からのラビリンスに備える事とした。すでに必要な物はそろえてあるので、またしばらく籠るつもりでいる。
翌日に備えて早めにベッドに転がったシローは、寝るまでの間、本屋で買った本を取り出して目を通し始めた。知っている事も多かったが、知らないこともあったのでパラパラと関心のある所だけ読むようにして進めていくと本に挟まれていた小さな紙切れが本から落ちた。
「なんだこれ?」
ふと気になったシローが、その紙切れを広げるように持つとそこには、文字が書いてあった
「王城に囚われる哀れな賢者をどうかお救いください」
そこに書かれていたわずかの文字は、何かのいたずらかとも思える内容だが、なぜかシローは興味を抱いた。
「アル。明日、一度王城へ行って賢者の様子を見てきてくれないか?」
『了解しました』




