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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
41/59

ラビリンス 41層

 王都の街へと繰り出した2人は、洋服を見たり流行りの食べ物を食べたりと年相応の外出を満喫する。しばらくぶりに自分らしく振舞えるユシルは、次々と目に入る物に関心を向けポーラを連れまわした。


 昼食時になり、しばらくぶりに歩き回って疲れたユシルとポーラは、一軒の食堂に入り昼食をとる事に決める。席はどこも満席に近く、なかなか相手いる席がなかったが、大きめの席に2人が腰かける席を相席として座らせてもらった。


「すみません。相席になってしまって」


「ああ。気にするな。混んでいる時は仕方ないよ」


 先に座っていた2人に声をかけたユシルに男が返事する。なかなか注文を取りに来ない時間は、相席する者には、居心地が悪い。


「冒険者の方ですよね」


 たまらず声をかけたのは、ユシルの方だ。元冒険者の1人として、同年代の冒険者に興味がある上、ユシルにとってしばらくぶりにストライクとなる容姿をしていたため積極的に声をかける。ユシルは、例え、女連れであっても引き下がるつもりはない。

 2人の装備は、それほどの物ではないようだが、体つきや雰囲気からかなりの力量なのだろうとユシルの感が告げる。


「ああ。そっちは、役人か何かか?」


 相手の男性に役人かと言われ、ユシルは自分の姿を見る。身体を動かすことのない生活は、かつて冒険者をしていた頃の身体ではなくなっているのだろう。確かに引き締まっていた身体も今は、町娘と変わりがない。


「ええ……」


 ユシルは、返事こそしたものの一瞬で気持ちが萎える。いつの間にか冒険者は、自分の世界ではなくなっていた事を改めて実感したのだ。


「すまないな。何か気に障る事でも言ったか?」


「いえ。そんな事はありません。お気になさらず」


 ユシルは、小さく言ったが、その顔は優れない。今、目の前にいる2人は、かつて自分がいた場所。そして、今目の前にいる男性の側には、同じ年頃の女性がいた。


 何を食べたのかわからない昼食を終えたユシルは、笑顔を取り戻す事なく王城へ足を向ける。せっかくもらった貴重な休日も途中からすっかり、気乗りしないものとなり、ユシルも帰ると言い出したのでポーラもそれにしたがった。


「ユシル。大丈夫? 具合でも悪いの?」


 ポーラも心配してくれているのかそう聞くがユシルから返事はない。しばらく無言が続き、ユシルが顔をあげる。


「ねえ。ポーラ。私、賢者を辞める」


 決意したように言ったユシルの言葉にポーラは驚く


「な、なにを言っているのよ。そんなの無理に決まっているじゃない」


「ううん。もう決めたの。私は、冒険者に戻りたい。このままじゃ私は、私でなくなるわ」


 ユシルの決意は、硬いように見えた。ポーラもユシルの決意した顔を見てそれ以上を言う事ができない。


 王城に戻ったユシルは、すぐにビドウィン事務長を尋ねる。


「おや。せっかくのお休みはもう良いのですか?」


 予定よりも早く戻ったユシルにビドウィンも驚いている。


「ビドウィン事務長。私は、もう賢者を辞めます。辞めさせてください」


 覚悟を決めたユシルが、一気にビドウィンに詰め寄る。驚いたビドウィンだったが、すぐに冷静になり


「何かありましたか? 色々と悩まれるお年でしょうが、何でも相談してください。私達は、あなたの味方ですよ」


「そうじゃないんです。私、もう、ずっと考えていて、ここで賢者の仕事をするのはもう辞めたいのです」


「少し冷静になりましょう。何があったんです?」


 ビドウィンは、後ろで心配するポーラを見る。ポーラは、首を横に振った。


「お願いです。辞めさせてください」


 必死に願うユシルを見ていたビドウィンの優しい目が変わる。


「あなたは、何か勘違いをしている。すでに辞める辞めないなどと言う選択をあなたが、する事はできない」


「なぜですか?」


「なぜ? あなたの価値は、あなたの物ではないと言う事です」


 これまでに感じた事のない冷たい視線が、ユシルに突き刺さる。


「辞めさせてくださらないならもうここで本の鑑定はしません」


 ユシルの持っているカードは、少ない。そして、そのカードは、ユシルにとって最も強いカードだ。


「そうですか。それは残念ですね。別に構いませんよそのかわり、あなたには、別の覚悟をしてもらう事になります」


 ビドウィンが、何か合図すると周囲から男達が、現れユシルを囲む。


「私をだまして……」


 今になってようやくユシルは、自分がただ利用されていただけである事を知る。だが、ユシルには、まだカードがある。鑑定魔法が使えるのは、自分だけであり、自分を殺すことも傷つける事も相手はできないと踏んでいるのだ。


「捕らえなさい」


 そう指示したビドウィンの言葉に身体を強張らせたが、捕らえられたのは、ユシルの後ろで震えていたポーラだ。


「なっ!」


 ユシルを放置して拘束されたポーラの首に男達のナイフが突き立てられる。


「確かポーラと言いましたか、残念です。賢者様が、どうしても仕事をしたくないと言うので、あなたの身体を使わせてもらいましょう」


「何をするの。ポーラは関係ないわ!」


「ええ。関係ないですよ。ですが、私は、あなたが、従わないと言うなら彼女を傷つける事にしました。八つ当たりでもしましょうかね」


 青ざめた顔で首に向けられたナイフを見るポーラが


「お、お願い。ユシル……助けて」


「ひ、卑怯よ」


「なんとでも言ってください。それで、賢者様はどうされます? 辞めて出ていくと言うのならあなたに関係した方に八つ当たりでもしてみましょうかね」


 クックックと笑いながらビドウィンは、ユシルを見る。改めて浅はかだった自分に腹がたったが、友達の命には変えられない。


「さあ。休日は、おしまいです。まあ、あなたにとって最後の休日となりますがね。これからは、1冊でも多くの鑑定を頼みますよ賢者様」


 ビドウィンを睨みつけるユシル


「ああ。それと手を抜いたらあなたの元仲間の冒険者でも家族や友人の首でも届けさせますからね」


 そう言って嫌らしく笑う男をユシルは睨む事しかできない。


「さあ。賢者様を仕事場につれていきなさい」


 ビドウィンが、男達に指示するとユシルは両手をつかまれ引きずられるようにいつもの仕事場へ連行される。


「良く持ったと言えばいいのかな?」


 ビドウィンが、振り向くとそこには自身の上司である男の顔があった。


「トリエスト長官。見ていらっしゃったのですか。そうですね今日までこうして騙せたのですから良く持ったと言えるでしょうね。ですが、これからは、管理がしやすくなったとも言えます」


「はははは。確かにそうかもしれないが、あれが自殺などせんように注意してくれよ」


「これまでの観察から、そうそう自殺するような娘とは思えませんが、念のため人質も確保しました。あの娘は、人質を犠牲にするだけの覚悟はできないでしょう」


「そうよの。いっそ薬か何かで操った方がよいのではないか?」


「確かにそうなのですが、残念ながら鑑定魔法は、極度の集中を要する上、繊細な部分が多くあるようなのです。もし、薬などのせいで、鑑定魔法が使えなくなれば一大事となりますので」


「ふむ。それは仕方ないな。それで、あの魔法は他の者にはやはり使えないものなのか?」


「側で、確認しておりますが、模倣は難しいようです。何よりもあの娘自身もなぜ鑑定魔法が使えるのかを理解しておりませんので」


「では、やはり、娘には死ぬまで働いてもらうしかないな」


「ええ。精々、こき使って差し上げますよ」




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