ラビリンス 39層
ブッカやダームから今後の予定や計画を聞きシローも部屋に戻る。宴をするような雰囲気もなく皆、自室で過ごすか、武器の手入れなどをして時間を過ごしている。
ヒルデが、顔を出すまでは何も始まらないのだ。
結局、その日のうちにヒルデが、部屋を出る事はなく、翌日、眠れぬ夜を過ごしたメンバーたちが、食堂に集まってくる。朝から交わす言葉も少なく、皆の顔をみると憔悴しきっているようにも見えた。
食堂に集まったメンバーが、食事を済ませた頃、食堂にヒルデが現れる。ヒルデのすぐ後ろに2人の見知らぬ者がいるが、皆の反応から怪我して療養中と言っていたエターナルウインドの仲間2人のようだ。まだ、怪我が治り切っていないのか足を引きずっている。
皆の視線がヒルデに集まり、その一挙手一投足を見る。きちんと正装しているヒルデは、すでに冒険者ではなく王女としてふるまっており、シローはその姿に威厳すら感じた。
「皆、集まっているみたいね。お話がありますのでテーブルについてください」
ヒルデの指示を受け、全員が食堂のテーブルに着く。最後にヒルデが、座るとゆっくりと話を始めた。
「昨日は、お疲れさまでした。まず、全員が無事にここにそろった事うれしく思います」
皆が、ヒルデの顔を見る。
「すでに皆さんには、ある程度説明していましたが、間もなく私は隣国へ嫁ぐ事になります。先ほど、王城から父の使いの者が来訪し、婚姻の発表の日程について相談に来ましたのでこの話しは間違いない事でしょう。父からは、数日中に王城へ戻るようにと指示されましたので、私がここにいる事ができる時間は残りわずかです」
淡々と話すヒルデは、すべてを受け入れているのだろう。
「皆さんを何度も危ない目に合わせてしまった事をこの場で改めて謝罪いたします」
ヒルデは、すっと頭をさげる。
「姫……」
わかっていますとばかりにヒルデは、ブッカを静止する。姫として臣下に頭を下げる事は、そのくらい問題なのだろう。
「エターナルウインドは、本日をもって解散いたします。これまで本当にありがとうございました」
ヒルデの目から一筋の涙がながれる。ヒルデの解散宣言に覚悟していたメンバーもヒルデの言葉を聞き涙した。
「そしてシロー。最後まで私のわがままを聞いてくださってありがとうございました。約束どおり、倉庫のクリスタルはすべてお持ちください。あなたには本当に感謝しかありません」
シローは、ただ黙ってうなずく、シローにはヒルデにかける言葉も思いつかなった。
この後、ヒルデから今後の解散手続きやクラン解散後の屋敷の整理などについて説明があった。皆、想うところはあるだろうが、想ったよりも冷静に解散を受け止めているようだ。
説明が終わるとシローは、ブッカに連れられて倉庫に向かう。倉庫には、これまでエターナルウインドが、ラビリンスから持ち帰ったアイテム、そしてクリスタルが積まれていた。
「俺達が、手にいれたクリスタルは、これで全部だ。姫の言ったようにすべてシローが持って行って良い」
そこには、小さなクリスタルが50個、やや大きなクリスタルが十数個あり、シローは背負い袋に詰めようとしたが、すべてを入れるには袋は小さかった。
「すまないが、もう一度来てもいいか。さすがに持ちきれない」
本当なら収納に入れて終わりたいが、収納を見せるわけにはいかないのでそう提案すると
「姫からマジックポーチをお前にと預かっているから使うといいさ」
貴重なマジックアイテムを渡されたシローは、それを遠慮なく受け取り、クリスタルを詰める。すべてのクリスタルを詰め終えたシローは
「助かった。ヒルデには、よろしく伝えてくれ。そして幸せを願っていると」
「ああ。姫には、そう伝えておくよ。お前には、最後まで色々と面倒をかけたな。俺からも礼を言っておくよ」
ブッカに伝言を頼んだシローは、それだけ伝えるとクラン、エターナルウインドの拠点を去った。もうそこにいる理由はないのだから。
(アル。このままラビリンスに向かうぞ)
『これからですか?」
(ああ。無性に身体を動かしたい気分だ。それに手にいれたクリスタルをアル達に渡したい)
『了解しました』
(はい。マスター)
シローは、エターナルウインドを出た足でそのままラビリンス、スラージに向かい階層を降りていく。6層に差し掛かったあたりで、アルハナートに探知させ、周囲に人の気配がないところで手にいれたクリスタルをアルハナートとシーリーンに渡した。
「アル。俺の評価値と一緒に上がった魔力値を出してくれ」
『了解しました。マスターの評価値は、652 魔力値 249 アルハナートの魔力値 232 シーリーンの魔力値 232となりました』
「よし、かなりアル達の魔力上限値が向上したな」
『はい。共に2割程度能力が向上した事になります』
「なら9層でその効果を確認しつつ訓練を続け、その後10層を目指す」
『了解しました』
シローは、アルハナートに説明したとおり9層まで進むと9層の魔物と戦闘を始める。9層に現れるキメラやストーンゴーレムと言った魔物は、シローにとっても楽に倒せる相手ではないが、強化されたシーリーンやアルハナートと連携しながら確実に倒していく。
アルハナートとシーリーンの魔力上限値が向上したことは、シローの想像以上に戦闘力を高めた。
特にシーリーンの装甲や攻撃力の向上は目覚ましく、ストーンゴーレムを正面から殴り倒すと言う離れ技すら見せるようになった。
効率よく戦えるようになったシローは、魔物の殲滅速度を上げ現れる魔物を次々と撃破していく。
「それにしてもシーリーの装甲はすごいな」
ストーンゴーレムを3体を苦もなく撃破した後にシーリーンに声をかける
「はい。マスター」
『シーリーの装甲は、プラチナレベルからアダマンタイトレベルまで向上していますので、攻防共に大幅に強化されました』
アルハナートの説明どおり、鋼鉄やプラチナの武器では、魔法でも使わないと傷をつけられなかったストーンゴーレムの装甲を魔法を使わずにシーリーンは破壊する事ができるようになった。
『マスターも中級魔法を使用できるようになりましたし、ウエポンクリエイトの他、シールドクリエイト、アーマークリエイトを使用できるようになりましたので、戦闘力は大幅に向上しました』
ヒルデが、成し遂げようとして成し遂げられなかった10層への夢。シローは、その夢を受け継ぐつもりで戦い、10層へ向かうための力をつけていった。地上ではもうヒルデの婚約発表がなされているかもしれないが、もうヒルデに何もしてやれない以上、シローはラビリンスに潜る事で応えたいと思った。
「いいさ。俺にできるのは、こうやってラビリンスに潜る事だけだしな。ヒルデの分までやってやるさ」
シローは、ヒルデの想いを背負う覚悟をしただひたすらに戦闘を続ける。9層に滞在するようになっておよそ一ヶ月が、経過する。
『マスターの評価値は、766 魔力値 298 アルハナートの魔力値 273 シーリーンの魔力値 272となりました。10層に進むに十分な力を得た物と思われます』
アルハナートの評価にシローは、こぶしを握る。
「わかった。10層へ向かうぞ!」




