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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
38/59

ラビリンス 38層

 新たな装備と新たな思いを胸にエターナルウインドの面々は、シローを加えた2度目の挑戦を実施する。予定通り歩を進め、前回到達した8層まで順調に到達する。

 士気は高く、皆集中できており、数回の戦闘で手にした武器にもなじんだ。8層の魔物を連携して退けながら未踏の地を進む。


 シローは、すでに9層に至る道も確認しているが、それをあえて口にする事はない。エターナルウインドがなし得なければ意味がないと考えているからだ。

 ヒルデも積極的に戦っている。おそらく自分の精一杯の力を出すつもりなのだろう。


 魔物の数が多い時や組み合わせが悪いと苦戦するが、そんな時は、シローとシーリーンが、危機を救うように戦闘を終わらせる。

 クランのメンバーのはやる気持ちを抑えながら3日かけてようやくダームが、9層への階段を見つけた。


「お嬢! 9層が見えたぞ」


「ええ。これでこのスラージの最高到達層には並びましたね」


 ブッカが、言うにはスラージの歴代最高到達層は、これから進む9層とのことだ。迷わず階段を降りるメンバーをシローは、苦渋の想いで眺める。

 シローは、この先の苦難を考え、拳を強く握りしめる。


 9層に降りたメンバーの士気は依然として高い。ヒルデを高みへと導こうとするクランの想いも十分なものだろう。


「通路の先に魔物がいる。警戒しろ」


 ダームが索敵で魔物を見つける。


 通路の先から現れたのは、ストーンゴーレムが3体。


「ストーンゴーレムだ。生半可な攻撃は効かないぞ! メイレイン、シロー魔法攻撃を頼む」


 ブッカの指示を受けた2人は、すぐに魔法を行使するが、アローだけではストーンゴーレムは、びくともしない。立て続けにシローが放ったアイスウオールが、3体のゴーレムを2体と1体に分断する事には成功したが、目の前の1体を倒す前にアイスウオールも破壊され混戦状態となる。

 新たにシローが、渡した武器は8層あたりではかなり有効だったが、物理耐性の強いストーンゴーレムには、ほとんどダメージが通らない。加えてメイレインの火魔法もほとんどダメージを与えていない。


 シーリーンが、1体を素早さで圧倒する事で動きを止めている間にシローが魔法剣を駆使しながら1体を倒した。残る1体を他のメンバーが、囲み何とか戦況を維持している。


「だめだ。槍が刺さらねえ!」


 槍を使うダルカスの声が聞こえる。魔法剣でも使えなければ、さらに上位の武器でもなければ装甲を貫く事は難しい。シローでもウエポンクリエイトで創造した剣や槍で戦わないと簡単に倒す事ができない相手だ。


「メイレイン。誰かの武器に火魔法を付与してくれ!」


 シローの指示を理解したメイレインは、ブッカのロングソードに火魔法を付与する。ブッカのミスリルのロングソードは、余すことなく魔法を受け止めた。


「うおりゃー」


 気合一閃。ブッカの上段からの攻撃が、ストーンゴーレムに命中するとわずかに傷をつける事ができた。だが、それだけストーンゴーレムは倒せない。


「再生される前に傷を狙うんだ」


 他のメンバーが、次々と剣や槍を打ち込む。1体倒し終えたシローが、そこに参戦しブッカがつけた傷に氷を纏った剣を突き指すと2体目のストーンゴーレムも倒す事ができた。

 2体のストーンゴーレムを倒した事で、残り1体に対応しているシーリーンに全員で加勢する。シローが、シーリーンの短剣に氷魔法を付与し、シーリーンは、ストーンゴーレムを削っていく。

 ブッカが、止めとばかりに背後から火魔法を付与された剣を打ち付けて勝負があった。


「や、やったぞ」


 皆、戦闘を終えるとその場にへたり込んだ。9層の1度目の戦闘で、一歩間違えば全滅する可能性のある戦いだった。


「シローが、いなきゃ全滅だったな」


 現れた宝箱の確認をしながらぼそりとダームが言った言葉が、先ほどまで高かった士気を一気に下げる。しかし、その先の言葉を……これ以上は無理だと言うメンバーはいなかった。その言葉の意味と重みを知るメンバーだからこそ言えなかった。


「現状、これ以上進むのは、まだ無理だな」


 沈黙を破ったのは、シローだ。


「なっ! シロー」


 ダルカスが、たまらずシローを止めるが


「今の俺達には、これ以上進む事は無理だ。もっと力をつけなければこの先を攻略する事はできない」


 シローは、きっぱりとこれ以上の探索を否定する。


「だがな、俺達には、時間がないんだ」


「だからだ。そんな時間に縛られて死んでしまっても意味はない。生きてさえいれば必ずこの先も攻略できる。今、進むことが最短の道じゃないだろう。それとも誰かが、仲間が死んでからあきらめるのか?」


 シローの言葉にそれ以上、反論するメンバーはいなかった。誰もがヒルデのために命すらかける覚悟をしていたのは事実だが、たとえ命を懸けても先に進めると言う保証はない。結局、先に進めなければ犬死にしかならないのだ。


「もう。良いわ……十分よ」


「お嬢……」


 ヒルデの言葉にブッカも言葉を失う。


「皆、もういいわ。こうやって皆で、9層までこれただけでもすごい事なのよ。結成からわずかの時間で、皆の協力のおかげで、私はここまで来れたの。私だけじゃここまで来る事なんてできなかった。皆が、いてくれたからエターナルウインドは、ここまでこれたのよ。本当は、トールとフリッカが、怪我をした時に言わなくちゃならなかったの。このまま私のわがままを押し通せば、いつか皆を危険にさらす事になるって。本当ならもっと時間をかけて攻略しなくてはならないのに、私のせいでいつも急がせてしまった」


「お嬢」


 ダームも声をかけるが、ヒルデがそれを静止する。


「シローに再会した時、あきらめかけていた私に欲がでたわ。シローが加わってくれれば、もっと先へ進めるかもしれないって」


「……」


 メンバーは、俯き悔しさをかみしめている。


「私のできる事は、すべてやりました。考えられる方法も手段も使い切りました。だから、後悔も未練もありません」


 ヒルデに目からたくさんの涙があふれる。つられるようにメンバーも涙を流した。


「さあ。凱旋しましょう。9層まで進んだ私達が、俯いていてはいけないわ。私にとってあなたたちは、誇りなんですから」


 メンバーは、自らのふがいなさと力のなさを嘆き、ヒルデを高みへ連れて行けない自分たちの弱さを嘆く。シローもまたぐっと拳を握り、ヒルデの想いを受け止めた。

 その後、重い足取りでラビリンスから帰還したメンバー、ほとんど無言のまま拠点へと戻った。その様子は、最高到達層まで進んだクランとは思えないものだった。


「シロー。辛い役回りをさせちまったな」


「ああ。本当なら俺達の仕事だったんだがな……」


 シローは、拠点に戻るとすぐにブッカとダームに頭を下げられた。


「俺にできる事は、あれくらいしかなかった……」


 シローもくやしさは、同じだった。連れていってやれるものならもっと奥へ連れて行ってやりたかった。拠点に戻ったヒルデが、少し一人にしてほしいと言って籠ったヒルデの書斎の方を見た3人は、やり場のない想いをかみしめる。


「今日は、泣かしておいてやろう」


「ああ。今日は、そっとしておいてやるしかないだろ」


「なあ。ヒルデは、本当にこれで冒険者を止めるのか?」


 シローが、2人に聞く


「まだ、はっきりとしたわけじゃねえが、あと数週間もすれば話が決まるだろうな]


「エターナルウインドは、どうなるんだ?」


「お前だから言うが、もし話が決まれば、俺達はお嬢について行く事になる。近習と護衛って形でな」


「全員がか?」


「ああ。エターナルウインドのメンバーは、お嬢の私兵なんだよ。傭兵や魔法兵の中からお嬢の考えに賛同できる奴を選出して構成したからな。だからお嬢を主として忠誠を誓っている。もし、お嬢が嫁ぐなら嫁ぎ先でもお嬢の私兵として護衛なんかにあたる。これは、もし、相手国が裏切った場合も考えての事だ」


 周辺諸国では、国家間で婚姻する場合、嫁ぐ側も私兵を連れて行くのは当然の事だった。




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