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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
37/59

ラビリンス 37層

 ヒルデの悲痛な訴えを聞き、満足に返答できなかった自身に少し苛立ちを感じながらシローは、自室へと向かう。自室に入ったシローは、苛立ちを隠せず、机をドンと叩いた。


「アル。ラビリンスは、何層まであるんだ?」


「回答に制限がかかっています。回答は困難です」


 予想通りの回答にシローは、拳を握る。自分にできる事はないか。あのひたむきな姫様を救う手段はないのか。シローにできる事は、ただラビリンスに潜る事。


「アル。これから準備してスラージに潜る。最短で10層を目指すぞ」


『まだ、マスターでも危険な要素が残ります。もう少し研鑽してから進む事を推奨します』


 その答えも予想の中にある。ルーレリアンの9層、そしてスラージの8層。シローにとっても9層の先は、まだ未踏の地だ。


「このまま8層に進み、9層への階段を見つける。その後、9層の探索を行い10層へ降りる階段を見つけるところまで進むぞ。その間に10層に降りるだけの力をつける」


 シローの覚悟と想いにアルハナートもそれ以上否定する事を避ける。時間が惜しいシローは、部屋に置手紙を置くとその足でスラージへと戻っていった。





 アルハナートの収納には、半年分の食糧と水が入っており準備は必要としていない。シローは、マップを頼りについ先日、宿泊した場所まで最速で移動する。クランの時よりも早くその場所まで到達したシローは、覚悟を決めたように探索を開始した。


「シーリー。アル。お前達の言いたい事はわかるが、力を貸してくれ」


『了解しました』

「はい。マスター」


 シローは、途中まで探索を進めていた場所から探索を開始し、2日目で9層へと続く階段を発見する。倒した魔物は、30体を越えるが、わずかな休息を取るだけでシローは戦い続ける。

 アルハナートに止められ、2日目には、数時間の睡眠を取ったシローは9層で現れる魔物を把握するため魔物を探した。


「魔法系の魔物だけは、何としても避けたいな」


 シローが、言うように範囲攻撃魔法を使う魔物が9層にいるとクランで挑む事が、難しくなる。犠牲者を覚悟すれば可能かもしれないし、シローが秘密を明かす覚悟をすれば何とかなるかもしれないが、それは絶対に避けたかった。


 9層で十数回魔物と戦闘し、確認できた魔物は、ストーンーゴーレムとポイズンワーム、キメラ。それに8層でも見たエルダートレントとドリアードだ。


『マスター。通路の先に魔物です』


 現れたのは、ストーンゴーレムとキメラが2体。スピードはないが、硬く力の強いストーンゴーレムをシーリーンに任せ、シローは、強化魔法を使いウエポンクリエイトで作った槍でキメラに対する。キメラは、その口から放射線状に炎を吐くブレスを持っているが、アルハナートが展開する防御魔法がそれを防ぐ、鋭い爪でシローの槍を受けようとするキメラの腕ごと槍で貫きキメラを串刺しにする。すぐに引き抜いた槍をもう1体のキメラに向けた。


 その向こうでは、シーリーンとストーンゴーレムが一進一退で、殴りあっている。シーリーンが、その殴り合いの中、右手からライトニングフィストを放ち、ストーンゴーレムの腹部に打ち込むとストーンゴーレムは前のめりに倒れる。


 それと同時に残されたキメラの首を槍で突き刺しシローも止めを刺した。


「アル。俺の評価値はいくつになった?」


『マスターの評価値は、643 魔力値 245 アルハナートの魔力値 190 シーリーンの魔力値 189です』


「まだ、この先は難しいと思うか?」


『マスター。冷静になる事をお勧めします。マスターが、10層に到達できてもこの階層をクランエターナルウインドで超える事は、現実的に困難です。マスターが、すべての力を見せれば、数名はたどり着けるかもしれませんが、犠牲者が出る事は避けられないでしょう』


 シローは、アルハナートの指摘に言い返すことができなかった。シロー自身が到達できてもヒルデが、無事に10層へ到達できなければ意味がない。仮にシローが、ここまで先導したとしてもそんな事を彼女は喜ばないだろう。


「アル。彼女に冒険者を続けさせる方法はないか?」


『マスターは、ヒルデ様をどうされたいのですか?』


「おれは、あいつを……」


『政略結婚との事ですが、それでヒルデ様がご不幸になるとは限りません』


「違う。冒険者のヒルデでなければ、あいつは、ヒルデじゃなくなる。元のただのお姫様に戻ってしまうんだ」


 シローにも理屈は分かっている。ヒルデの将来を考えれば、他国の王子に嫁ぐ事が不幸だと言うつもりもない。ただ、ひたむきに挑戦する彼女を助けてやりたいと思っただけだ。


『マスター。残りの期間をこれまでどおり、ヒルデ様と過ごせば良いのではないですか。ヒルデ様は、きっとご自身にできるすべてをぶつけるおつもりです。おそらく、マスターに言われた自分にある力のすべてを使い出しきるために』


 自分の力を余す事なく使い切る事が彼女の目的だと言うアルハナートの助言にシローも首を縦に振った。


「ああ。そうだな。ヒルデならそう考えるのだろうな」


 シローの手の中にあった武器が消える。


「アル。ありがとな。俺も頭がすっきりした。ヒルデが、やり遂げたと思えるところまで守るのが、俺の仕事だ。絶対にヒルデとその仲間を守りぬくぞ。アルもシーリーも頼む」


『了解しました』

「はい。マスター」


 数日の無理を押し通したシローも冷静に戻るとスラージからの帰還を決める。この間わずかに4日。シローの置手紙には、数日留守にするとだけ書いてあったので4日後に帰還したシローを見てクランのメンバーも特に驚かなかった。ただ、ヒルデだけが、シローの姿を見て安堵している。


「シロー。戻ったか。もうすぐ次の挑戦だ。食糧なんかの準備も万端だぞ」

「どこ行っていたんだよ。出発するまでに戻るかひやひやしたぞ」


 仲間たちの言葉に笑って答える。


「少し、この先を考えて装備を整える必要があると思って探してきた。この中のは、好きなのを使ってくれてかまわない。俺は、そのかわりクリスタルを全部貰うからな」


 シローは、背負い袋から大量の武器を取りだす。シローが、ラビリンスの中で手に入れた武器の中から魔法がかかった良品を厳選して用意した。少しでもクランのリスクを下げる事が、今シローにできる事だ。

 出された装備は、プラチナ装備やミスリル装備が、中心だったこともあり、クランのメンバーはそれぞれ自分の得物を選び使うと言ってくれた。


 皆が、それぞえの武器の良さに目を奪われる中


「シロー。私が、話したせいであなたに無理をさせて……」


「いや。俺にできる事は限られている。だが、できる事は全部やっておかないとな」


 ヒルデは、シローが、自分の想いを理解した事を悟る。


「よし。シローも戻って装備もグレードアップした。これでお嬢を次の階層へ連れていくぞ!」


 腕を突きあげながらブッカが、叫ぶように鼓舞する。すでにブッカやダーム達は、ヒルデの内情も理解しているのだろう。

 気持ちをひとつにするエターナルウインドは、シローを加え2度目の挑戦を始める。





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