ラビリンス 35層
スラージの8層に降りたクランの面々は、良い緊張感を保ち、持ち場につく。隊列を確認したブッカは、ダームに進行方向を確認する。階段を降りた先は、一本道が続き奥は暗くて見通せない。
「罠や魔物は、側にいないようだ。先に進むぞ」
より慎重に歩を進めるシロー達は、通路の途中の分岐に差し掛かる。ダームが、左の道を選択し、道を折れる。
『マスターこの先に特殊な罠があります。おそらくテレポーターでしょう。回避するには、壁面にあるスイッチを操作し解除する必要があります』
ダームの索敵は、ここまで問題なかったが、アルハナートの言葉にシローは迷わず声を出す。
「罠だな」
シローの声にダームも含めて立ち止まる。
「罠? 特に探知できないが……」
「正確には、わからないが、特殊な奴だ」
そう言うとシローは、右側の壁面を探り、そこにスイッチを見つける。ダームを誘導してスイッチの場所を確認させてからそのスイッチを押した。すると20歩くらい先に丸い魔法陣が現れ徐々に消えていった。
「あれは、テレポーターか?」
「おそらくな。俺にも自信はなかったが、違和感を感じたとしか言えないな。以前に似たような罠を見た事があるんだ」
ダームは、スイッチの位置と周囲の雰囲気を把握していく。
「なるほどな。こりゃ探知できないわな」
魔法か何かで隠蔽されている罠は、なかなか気がつくことができない。アルハナートの機能は、魔法の隠蔽すら確認できるようだ。
(アルは、わかるんだな?)
『これは、マスターの力ですから』
「助かった。シローがいて良かったよ。危なく何人か飛ばされる所だった。下層は、罠の数が減るが、こんな罠がたまにあるからいやらしいな」
皆が納得する。おそらく自分が飛ばされた後の事を考えているのだろう。
「よし、罠の解除も問題ないようだから進むぞ」
ブッカの号令で再びクランは、歩きはじめる。先ほどの事で、ダームはより一層集中している。
「魔物だ」
そのダームが、魔物を把握し伝える。
「シロー。数はわかるか? 俺には複数としか把握できない」
ダームの信頼を得たのかシローにも確認がある。
『通路の先の小部屋に魔物が4体います。今から中を確認してきますので時間をください』
アルハナートが、部屋を確認に進む。
「この先の小部屋か……数は4体だな」
戻ってきたアルハナートが
『中にいるのは、植物系の魔物で、エルダートレント1体とドリアード3体です』
「4体か確かにそのくらいだが、何か感覚が違うな」
「おそらく植物系か何かだろうな」
「なるほどな。それなら数がわかりにくい事も納得だ」
ダームとシローの索敵を受け
「聞いたか相手は、植物系の可能性がある。おそらく火属性は有効だろう。メイレインの活躍の場だな。生命力が高い可能性があるし、再生持ちの可能性が高い。戦士は、相手の攻撃を防御し火魔法を軸に倒すぞ」
納得の指示を確認したメンバーが、通路を進むとシローが言ったとおり、小部屋がある。小部屋を覗きこんだダームが、ハンドサインを出し予想が当たった事を伝える。
「先制でメイレインは、ファイアウオールを張ってくれ。敵を分断するぞ」
皆が頷く。
メイレインが、集中すると小部屋のほぼ中央に火の壁が出来上がる。それに合わせて飛び込んだ4人の戦士が広がると小部屋の中には、奥にエルダートレントが陣取り、手前に分断されたドリアードが並んでいた。
ドリアードは、花の中央部分が口になっている禍々しい植物であり、ツルのように伸びる手足のような物で攻撃し、口からは、種のような物を飛ばす。
メイレインのファイアーウオールの手前にいたドリアードが、すぐにツルを伸ばしてきたが、戦士達は、そのツルを切り、手前にいたドリアードの花や茎を切りつけていく。2人でペアを組むように挑み手前にいた2体のドリアードに止めを刺す
「ファイアウオールが、消えるぞ。次に備えろ!」
メイレインの魔法が、維持困難になるとすぐにシローは、氷魔法で奥のエルダートレントを狙う。その数5本にも及ぶアイスアローが、エルダートレントに突き刺さるとその周囲を凍らせた。耐久力の高いエルダートレントには、ダメージは少ないが、動きを拘束するには十分だろう。
「今だ。シローの魔法が効いている間にドリアードを始末しろ!」
ブッカの声に戦士が発奮し、1体をヒルデが、もう1体をシーリーンが倒す。周りの魔物を倒されたエルダートレントは、怒り暴れると表面を覆っていた氷が割れ拘束を抜ける。暴れるように足元から現れたエルダートレントの根が、波打つようにメンバーを襲う。
およそ5本の根がしなる鞭のように襲ってくるのをヒルデ達は、剣で防御する中、シーリーンは、その高速で迫る根すら回避し、エルダートレントに接近する。エルダートレントもそれを避けようとツルや枝をシーリーンに向ける。シーリーンは、手に持つ短剣でその枝を掃うが、その手数の多さにそれ以上接近はできない。
エルダートレントの注意が、シーリーンに向かった事で、戦士達への攻撃が鈍る。ヒルデ達が、ほぼ同時にエルダートレントに肉薄しようとする。
「アイスアロー」
「ファイアアロー」
メイレインとシローの魔法が、牽制のために打ち出されるとシーリーンに意識を集中しているエルダートレントの顔や頭の部分に矢が次々と突き刺さり、燃える矢と凍る矢がエルダートレントを苦しめる。
すでにエルダートレントの攻撃は、正確性を欠きやみくもに根や枝を振るうだけだ。無理に接近せずに遠距離から仕留める方法にブッカ達は、切り替えた。ダームやポーターが持っている武器は、弓矢でポーターは、火矢を使って攻撃している。的が大きい事もあり、おもしろいように火矢が命中しそこから煙があがる。耐久力の高いエルダートレントもこの波状攻撃の前に力尽きやがて宝箱を残して消えていった。
「よっしゃー」
声を上げたのは、戦士のダルカスだ。あまり喋る男ではないが、よほどうれしかったのだろう。
『マスター。魔物の気配があります。奥の通路です』
その喜びの中、アルハナートから別の魔物の索敵報告がある。
「新手だ。すぐに準備を」
シローの声で、一瞬で歓喜は終わり、魔物に備える。その一言がなければ不意を襲われていたタイミングで、奥の通路から猪の魔物が現れた。
不意打ちは何とか避けたが、現れた猪の魔物であるマッドボアは、鋭い角で狙いをつける。
「ポーターは、こっちだ俺とダルカスの後ろに来い」
ブッカが、指示を飛ばしポーターを守る。部屋の真ん中にいるマッドボアが、狙いを誰にするか迷っている。非戦闘員が狙われると危険だと判断したシローは、氷魔法でミスリルの剣を魔法剣にするとマッドボアに向かって進む。
マッドボアもシローに気づき突撃しようとしたが
「いまだ。シーリー!」
背中を向ける事になったシーリーンが、そのマッドボアの背中にまたがるように飛び掛かり短剣を首の上に突き刺した。
「ブキャー!」
悲痛な叫び声をあげるマッドボアが、背に乗るシーリーンを振り落とそうと暴れるところにシローは、魔法剣をマッドボアの額に突き刺した。首と頭を貫かれたマッドボアは、3歩くらい歩いたところで力尽きる。
「危なかった……」
メイレインが、そう言うほど危険な状況だった。魔物の不意打ちは珍しいが、展開によっては全滅につながっていた。
「どうだ? まだ魔物はいるか?」
ブッカが、ダームとシローに尋ねる。
『魔物の気配はありません』
「いや。大丈夫だろう」
「大丈夫だ」
2人の意見が揃い、ようやくメンバーは緊張を緩める。




