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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
32/59

ラビリンス 32層

 シローとシーリーンは、それぞれ客間を与えられ、エターナルウインドの本拠で寝泊まりする事になった。また、シロー達を夕食のときに他のメンバーにも紹介するとダームに言われたので、それまでの間シローは、ダームと情報交換をする。


「そうか。怪我したってのは、戦士1人と魔法使い1人か」


「ああ。6層で魔物と戦闘中に後方から現れた別の魔物にやられたんだ。索敵が追いつかなかったのは、斥候である俺の責任だ」


 悔しそうに話すダームに


「戦闘中に索敵するのは、簡単な事じゃないだろう。しかも後方から別の魔物が現れるって可能性は、ほとんどないからな」


「シローは、索敵もできるんだろ? 俺と分担すれば前後の索敵も問題ないだろう」


「今、エターナルウインドは、何人でどんな構成で潜っているんだ?」


「今、戦士は3人だ。お嬢とブッカ、他にダルカスって言う戦士がいる。斥候が1人スカウトの俺だ。他に魔法使いのメイレインとポーターをしているロドスとヘイルって奴がいる。本当ならもう1人戦士と魔法使いがいるんだが、その2人が怪我で抜けている」


 戦士4人、魔法使い2人と言う戦闘職にスカウト1人、ポーター2人と言う配置は、バランスも良い。もう1人スカウトがいると尚良いと思うが、優秀なスカウトはなかなか見つからない。パーティーを組むうえで最も確保できないのは、回復魔法を使う者とスカウトなのだ。


「じゃあ。そこに俺とシーリーが、入るって事だな。シーリーは、戦士だからそのままそのポジションに入るとして魔法使いの部分だな。突っ込まれるのを覚悟して言うが、俺は魔法も使える」


 呆れた顔をしてダームが答える。


「ソロする奴は、なんでもできるって言うが、そりゃ異状だろ。戦士、スカウト、魔法使いもこなせるって言うやつなんか聞いたことないぞ」


 本当は、回復魔法も使えるのだが、苦笑しながら突っ込みを受ける。


「どうやら戦士も足りそうだし、ダームの補助を請け負いながら戦闘では、魔法使いの役割をこなすよ」


「お嬢が、お前にこだわるのが少しわかったな。お嬢は、昔から人を見る目はあるんだ」


「ダームは、昔からヒルデの事を知っているのか?」


「ああ。ブッカと俺は、お嬢が、こんな小さな頃から知っているぞ」


 ダームが、小さな子供の身長くらいの高さで手横に振る。そして、シローが、ダームと話し込んでいるところに以前見た顔がもうひとつ加わった。


「おう。しばらくだなシロー」


「ブッカも変わらないな。クランのリーダーをしていると聞いたが?」


「ああ。成り行きでそうなっている。本当ならお嬢でいいんだが、お嬢がまだ自分には早いから当面は、俺がやれとさ。今は、戦士を突き詰めるって言われたらやるしかないだろう」


 ヒルデの性格を考えれば納得できるとシローは思った。


「大まかな話しは、そこで聞いたが、しばらく一緒に潜るんだろ?」


「ああ。一時的だが、世話になる事になった」


「一時なんて言わないで、お前がお嬢の参謀でもやってくれると良いんだがな」


 ダームとブッカは、すでに30代後半、ヒルデがまだ20歳前と考えれば将来の事を考えているのかもしれない。一般的な冒険者は、40代頃に引退する者が多い。


「それで、シローと一緒にいる子は、シローのこれか?」


 ブッカが、小指を立ててシローに聞く。


「いや。シーリーは、今一緒に組んでいるペアってだけだ」


「そうなのか?」


「はい。間違いありません」


 シーリーも返答する。どうにも寡黙な女性戦士のイメージができつつある。


「シーリーって言ったか。戦士ってシローから聞いているが、どうにも信じがたいな。軽装なとこをみると素早さを重視した戦闘をするのか?」


(シーリー。よければ軽く相手してやれ。但し怪我をさせたりしてはだめだ。相手に会わせて力を調整して対応するんだ)


(はい。マスター)


「はい。よければ、お相手しても良いですよ」


 シーリーの申し出にブッカも興味を持ったようだ。


「よし。なら俺が相手をしてやろう。怪我はさせないから安心してくれ」


 ブッカは、シロー達を案内してロビーへ向かう。ここが一番広く、そして多くの武器防具が並べられているのだ。


「得物はなんだ?」


 シーリーンは、武器を必要としないが、シローから短剣をと言われているので、短剣を選ぶ。左手には、自前のスモールシールドを手首から肘の間に括りつけている。


「これで行きます」


「短剣か。まあいいだろう。俺はロングソードを使う」


 軽く肩をほぐしたブッカは、シーリーンに剣を向ける。シーリーンは、特に構えもせずに対峙した。


「行くぞ!」


 ブッカが、両手で持ったロングソードで、受けれるものなら受けてみろとばかりに上段から切りかかる。シーリーンは、それを左手につけたスモールシールドで、綺麗に受け流し、逸れたロングソードをかいくぐるように身を寄せた。懐に入ったシーリーンが、右手に持った短剣でブッカの首を狙うが、さすがにベテラン戦士だけあって、引き戻したロングソードでかろうじてそれを受け止める。


 キーンと金属の音がロビーに響きわたる


「早いな。それに正確だ。俺じゃ勝てないか……」


 ブッカが、ロングソードを下げるとシーリーンも短剣をおろした。


「おいおい。ブッカが、負けを認めるってどんだけだよ。お前王都じゃそれなりの戦士だろ」


「冗談言うなよ。この嬢ちゃんの動きを見たか? 本気を出されたら俺なんかあっという間にあの世行きだぞ」


 実力のある者だからこそシーリーンの強さを理解したのだろう。手を抜き加減している事も理解した上で、ブッカは負けを認めた。


「なら。シーリーも合格だな」


「お前が、選ぶわけだ。言葉が悪いが、お前らは十分化け物だよ」


 ブッカも呆れるように言う。


「うちのお嬢もあと数年あれば、立派な化け物になるだろうが、今ならシーリーの方が上だな」


「ヒルデも頑張っているんだな。剣の腕は、かなりのものだと思ったが……」


「お嬢の才能は、かなりのものだ。ラビリンスに潜る度に成長しているってところだな。俺達も頑張らないとお嬢に置いて行かれちまうよ」


 ブッカもダームもヒルデの才能を高くかっていた。年頃の女性が、興味を持つような事にヒルデは、関心すら持たず、剣とラビリンスの攻略に集中しているからだ。

 その姿勢を見たブッカやダーム達は、彼女を支えたいと考えている。


「今さっき、お嬢から準備が間に合えば、明日にも出発したいと言っていた。食糧や水なんかは、すぐに用意できるからシロー達が、よければ明日には潜る事になりそうだ」


「俺達は、いつでも大丈夫だぞ。特に準備するものもないようだしな」


 シローは、収納があるので準備は必要ないが、今回は、ポーターがいると言っていたから任せるつもりでいる。


「お嬢に聞いたんだが、シローへの報酬は、倉庫にあるクリスタルとラビリンス内で入手できるクリスタルって事でいいんだな?」


「ああ。他は、必要ない」


「予定では、6層で少し様子を見て問題ないようなら7層へ向かうつもりだ」


「それで、潜るのはどのラビリンスなんだ?」


「ああ。言っていなかったな。今、挑んでいるのは、Bランクの第3ラビリンスのスラージだ」


 スラージは、王都で最も潜る者が多いメジャーなラビリンスだ。Dランクのラビリンスである程度活動できるようになると多くの冒険者は、このスラージに向かうようになる。

 なぜラビリンスを変えるかと言うとDランクのラビリンスでも7層あたりを越えると急に難易度が上がるためだ。難易度があがる原因は、その階層に到達するまでに必要な時間にある。7層までたどりつくまでの時間と、7層から帰還するために必要な時間を考えると、どうしても長期間ラビリンスに籠る必要があるため効率が悪くなる。

 だから冒険者は、あまり深い層に挑戦しようとせず、ある程度実力がつくと上のランクのラビリンスへ向かうのだ。


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