ラビリンス 31層
ダームに連れられたシローは、王都の中を移動し、大きな建物が並ぶ区画へと向かっている。周囲には、貴族の建物と思われるような豪華な屋敷が並ぶ。その中の1つの前で先導するダームが、指を指した。
「ここが、俺達永遠の風の拠点だ」
シローは、その建物を見て改めてヒルデの力の凄さを感じる。
「すごいなここまでとは……」
「まあ。そんなとこに突っ立ってないで入れ入れ」
ダームは、門を潜ると中へ入れとシローを誘導する。立派な屋敷のドアを開けるとそこには、外観からは、想像できないような設備が備えられていた。たくさんの武器がきれいに並べられ、いつでも使えるように磨かれていた。
「中は、冒険者の拠点にふさわしいな」
そう言ったシローにダームも苦笑する。
「これもお嬢の考えだよ。さあそれよりもこっちだ」
ダームは、シロー達を連れて2階へ上がる。2階にもたくさんの部屋があるようだが、その中の1つに案内される。
「お嬢。連れてきたぞ」
ダームが。ドアをノックしてそう言うと中から「どうぞ」と声が聞こえた。ダームは、入れとシローを促す。
部屋に入るとそこには、正装したヒルデが応接用のテーブルの前に立っていた。冒険者の恰好をしたヒルデしか見たことがなかったシローは、その姿に言葉を失った。
「あら。もうお忘れですか?」
「い、いや。すまない。なんと言うか…予想になかったと言うか……」
シローが、目の前にいるヒルデに言葉を失っていると
「まずは、こちらへ。かしこまる必要はないわ。ねえ先生」
シローは、ヒルデに言われるがままに応接用のソファーの前に移動する。
「あら。こちらのお嬢さんは?」
「ああ。俺の方も色々とあってな。今、ペアを組んでいるシーリーンだ」
「シーリーンと申します」
ヒルデもシーリーンを見てダームと同じような顔をする。
「ペアって事は、シローと一緒に冒険者をしているの?」
「ああ。こう見えても有能な戦士なんだ」
「ふーん。シローが、そう言うって事は、かなりの腕って事ね」
ダームと同じ評価にシローもただ苦笑するしかない。
「それにしても聞いたぞ。まさかもうクランを結成しているとはな」
「私だけの力じゃないわ。ダームやブッカのおかげよ。エターナルウインドの代表は、私だけど、リーダーがブッカで、サブリーダーがダームよ。2人は、優秀な戦士とスカウトで、冒険者の中でも顔が利くわ。私の呼びかけに応じてくれた仲間が集まってできたのが、エターナルウインドなの」
「そうか。入り口の設備も見たが、かなり色々と考えているようだな」
「まだまだよ。それにもっと訓練しなければ、深い階層へは行けないわ」
「答えられない場合は、答えなくても良いが、エターナルウインドは何層まで潜っているだ?」
「別にいいわ。今7層に挑戦中よ」
「すごいな。結成からまだ日も浅いのにそこまで進めているのか」
「あなたが、言ったとおりね。仲間と連携がうまくできるようになってから安定して攻略も進める事ができているわ。おかげで王都でも一目おかれるクランにはなることができたわ」
ヒルデやダームの説明では、王都に数あるクランの中で、結成間もないクランにも関わらず中堅クランに位置づけられるところまでエターナルウインドは来ている。
「シローは、ずっとヒルテインの街のラビリンスに潜っていたの?」
「ああ。何とか5層近くまで進んだんだが、ソロの限界を感じたよ。それでどうしたものかと困っていたところでシーリーンに会ったんだ。2人になって5層まで進んだところでここに移ってきたんだ」
シローは、シーリーンの事を隠すために嘘をつく。少し後ろめたい気持ちもあったが、アルハナートの事やシーリーンの事を説明するわけにもいかない。
「それじゃしばらくは、王都のラビリンスに潜るの?」
ヒルデが、身を乗り出してシローに聞く。顔を近づけられてシローは、少し照れくさくなり視線を外した。
「お嬢……」
側で見ているダームも呆れたようにヒルデに声をかけると、ようやく我に返ったのかヒルデも顔を赤くする。
「ご、ごめんなさい。つい夢中になって……」
「いや。俺こそ急にお邪魔してすまなかった」
「お嬢。シローは、クリスタルを手に入れたいそうだ。それで、クリスタルの入手について何とか便宜を図って欲しいとさ」
「クリスタル? 5層あたりから見つかるものですね。シローはクリスタルを何に使うのですか?」
「いや。実はな。少し魔法の研究をするのにまとまった数のクリスタルが欲しいんだ。それで、王都まで来て何とか買おうと思ったんだが、どの店でもほとんど売っていないと聞いてな。入手可能なクランに声をかけて譲ってもらえないかと考えたんだよ」
ヒルデは、シローの希望を聞いて少し考える。
「ダーム。うちの倉庫にもクリスタルが、結構あったわよね」
「ああ。この前の遠征までに手にいれたクリスタルは、すべて倉の中だ」
「じゃあシローが、クリスタルを望むならそれをすべてシローに用立ててあげてもいいわ」
ヒルデの返答にシローは、喜びと共にその先にある条件が気になった。
「わかったよ。それで、俺は、何をすれば良いんだ?」
「あら。まだ、何も言ってないのに……。でもお願いがあるのは、確かね。実は、この前の探索で2人怪我人が出たの。幸い怪我は大した事がなかったからすぐにも治ると思うけどラビリンスに潜るには、しばらく休養が必要そうなの。その2人が戻るまで、うちのクランと一緒に行動してもらえない?」
シローは、ある程度提案の予想はついていたが、ヒルデの提案は、その予想どおりラビリンスへの同行を求めるものだ。アルハナートやシーリーンの本来の力をヒルデに見せるわけにはいかないが、クリスタルが手に入るのなら力を隠したまま同行する事もわるくない。
(アル。シーリー。お前たちの力を伏せたまま同行する。本来の力を隠して潜る事になるから色々と配慮を頼む)
『了解しました』
(はい。マスター)
「わかった。その条件をのむ。だけど、俺はソロやペアしかしたことがないから連携は、あまり期待しないでくれよ」
「大丈夫よ。あなたの実力は理解しているつもりだから」
ヒルデは、シローに全幅の信頼を寄せているのかシローの実力を疑う事はない。
「そうか。それで、いつラビリンスには潜るんだ?」
「あなたたちの準備がよければ、明日か明後日にも出発したいと思っているわ。よければ、ここを宿代わりにしても良いし、必要な物もこちらで準備するわ」
「いいのか? 随分と至れり尽くせりだが」
「いいのよ。あわよくばあなたをクランに加えたいって言う私の作戦なんだから」
「それを言ったら作戦にはならないだろう」
クスクスと笑いながらヒルデは、ソファーから立ち上あがる。
「あなたは、私に力があると言ったわ。そして、その力は、余す事なく使ってこそのものよ。だから私は、迷わずに行動することができるわ」
横に並ぶダームも笑いながら「ちがいねえ」と言っている。
真っすぐな目でシローを見据えるヒルデの目には、曇りはない。ただ、自分がすべきことを全力で進める力強さがあった。
「それじゃ。しばらくやっかいになるよ。親切にされた分だけは、働いて返さないといけないからな」
「ええ。きっちりと働いてもらうわ」




