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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
30/59

ラビリンス 30層

「そうか。王都の治安室の所長だったか」


 治安室とは、その街の治安維持のために組織された国立の機関だ。規模の大小こそあれ王国内の街には、必ずあり、市民同士のトラブルや強盗、殺人、窃盗などを取り締まっている。

 冒険者の活動を推奨する立場の国だが、同時に多くのトラブルを起こす冒険者と言う者達への対応もこの治安室が担っている。


『はい。どうやら市場でマスターの売買をたまたま目撃して目をつけたようです』


「そうか。余計な奴に目をつけられたな。しばらくは、観察されるかもしれないからアルも注意してくれ」


『了解しました』


「さて、そうなると俺にできる事は、どこかのラビリンスに潜る事かクリスタルを得る別の手段を考えるかだな。そのためには、各ラビリンスの情報を得る事。特にクリスタルが良く出るような情報が欲しいな。後は、どこかのクランに話をつけて優先的に譲ってもらえるかだが、正直期待できないだろうな。いや……まてよ。前にヒルデの事で関わったダームとブッカが王都にいるな。何かあればと言ってくれていたし、一度つなぎをとってみるの良いか。うまくすればクランなんかを紹介してくれたりするかもしれない」


 シローは、かつて指導役としてかかわったヒルデのお守りをしていた2人を思い出す。


「確かギルドで名前を出せば、繋いでくれると言っていたな。明日にでも王都のギルドに行って聞いてみるとするか」


 シローは、どこかで見張られている可能性も考慮し、その日は部屋に食事を持ってくるように宿に頼んでそのまま部屋の中で過ごす事にした。

 王都の食事は、値段の割に寂しいもので、少々がっかりもしたが、文句を言わずに食べると横になった。シローにとっては、ラビリンス以外で寝る事の方がすでに日常ではないため、かえって落ち着かずゆっくり眠れなかった。




「ほう。女連れか。良いご身分だな。それで、女はどんな奴だった?」


 シローが泊まる宿屋のオーナーの男にビートが、聞きこむ。すでに宿泊名簿を勝手に閲覧している。


「旦那。勘弁してくださいよ。こっちだって客あっての商売だ。高い部屋に泊まってくれる奴を売ったと噂になったら信用に関わる」


「ほう。ずいぶんな事を言うじゃねえか。そんな怪しい奴を止めていると言って出るとこに出ても良いんだぞ」


「そりゃあんまりだよ。泊まっている女は、別におかしなとこもない冒険者の女ですよ。男と同じくらいの年でまだ20歳前くらいでさあ」


「最初から教えれってんだ。まったく面倒かけやがって。ここで俺が聞いたって事をお前が黙っていればそれでいいんだよ」


 少々強引な手口でシロー達に探りを入れるビートは、宿屋のホールにある椅子に腰かける。


「きっとあいつは、何かある。俺の感がそう言っているからな」


 根拠のない自信を見せるビートの目は、階段にむけられる。シロー達が宿泊する2階からシロー達が現れるのとじっと待つためだ。




「また、あいつが来ているのか。それに宿屋も俺の情報を売ったとなれば……この宿は、今日で引き上げだな」


『どちらへ行かれます?』


「そうだな。どこか別の宿に行っても結局は、押しかけてくるだろうからいっそのことラビリンスにでも籠った方がいいかもな」


 むしろ落ち着くとばかりにシローは、提案する。


「市場で食糧も買ったから半年だって籠れるだろうしな。明日、ギルドの対応次第では、王都を去った方が良いかもしれないな。なんらなもう一度ルーレリアンに戻って探索を再開しても良い」


 シローの目的が、クリスタルを集める事だったが、王都でそれが果たせないのなら王都に滞在する意味はない。余計なトラブルに巻き込まれるくらいならさっさと出て行く方がましだとシローは考える。


 翌朝まで部屋でおとなしく過ごし、朝一で宿屋のカウンターへ向かう。


「部屋を引き払いたい」


「え? 確かもう3日は宿泊すると」


「客の情報を売るような宿には、長く泊まれないさ。今日までの分は払うからこれで最後だ」


 オーナーの男が、驚いているが、その様子が喋った事を告げている。何も言えないオーナーに今日までの分を払うとシローは、宿屋を後にする。

 その足で向かうのは、王都の冒険者ギルドだ。


 王都の冒険者ギルドは、本部と呼ばれるだけあって他の街の数倍大きな建物に居を構える。入り口から入るとカウンターだけで10個以上の受付があり、そこには、たくさんの冒険者が並び自分の番を待っていた。金銭の出納や新規登録、移転報告などギルドの職員は、忙しくその仕事をこなしている。

 その列の一つに並んだシローの順番が来ると


「はい。次の方どうぞ」


「急で悪い。ダームとブッカと言う者にここで名前を出せば繋いでくれると聞いたんだが」


「失礼ですがあなたは?」


「俺はシローと言う冒険者だ。以前2人には世話になったんだ」


「わかりました。あちらで少しおまちください」


 受付の男が指をさした椅子に腰をおろしたシローは、ギルド内を見ながらふたりを待つことにした。次から次へと現れる冒険者は、パーティーやクランを形成しており、連れだって現れる。シローのようにソロで挑む者は、皆無であり、ここではペアでさえ珍しいようだ。

 冒険者の身に着けている装備などを見るとその実力や何層まで行っているのかが、大体わかった。皮鎧などを着ている駆け出しの冒険者もいれば、ミスリルの武器を持つ見るからにベテランと言った者もいた。


シローは、しばらく行き交う冒険者たちを眺めているとそこに一度見た顔を見つける。


「おう! 本当にシローだな」


「ああ。しばらくぶりだな。ダーム」


 2人は、一度しか話す事は、なかったが互いに相手の顔を覚えていた。本当に知り合いかと少し疑っていた受付の男もダームの様子を見て納得したのかそれ以上目で追う事はなかった。


「それで、俺達に繋ぎを付けたと言う事は、何か用事があるって事だな」


「ああ。実は、王都には、クリスタルを入手するために来たんだが、どうにも数が手に入らない事がわかった。それで、ダーム達の顔が効くクランでもあれば、話しをつけてもらえないかと頼らせてもらったんだ」


「クリスタル? そんなもの何に使うんだ?」


「ああ。実は、ちょっと魔法の研究に必要なんだ。それと魔法の事は、秘密にしたいんだよ」


「その研究にクリスタルが必要だってことか……。そうだな、まあここではなんだから一度俺達のところへ来いよ。話しはそれからでもいいだろう。それとその隣のお嬢ちゃんは、シローのなんだ?」


 隣に座るシーリーンを見てダームが尋ねる。


「ああ。あの後、仲間にしたんだよ。こう見えても凄腕の戦士なんだ」


「ほう。あれだけソロでやっていたお前が、認めているって事は、この嬢ちゃんは、見た目に反して戦えるってことか」


「ああ。そう言う事だ」


 シーリーンを値踏みするようにダームが頭の先から足の先まで見るが、華奢な身体に本当に戦士かと疑っているようだ。


「まだ、魔法使いと言われた方が信じる事ができるんだがな」


「後で、人目のないところなら実力を見せてやるよ」


「そりゃ。楽しみだ」


 ダームは、まだ信じられないと言った表情をする。


「それでどこへ行くんだ?」


 シローが聞くとダームが、笑いながら答える。


「お前が、クランを紹介しろと言ったんだろ。これから行くんだよ俺達のクラン永遠のエターナルウインドの本拠地にな」



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