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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
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ラビリンス 3層

「この近くにそんな有名なクランが来ているのか」


「ええ。昨日たまたまラビリンスに向かう一団を見たから間違いないわよ」


 ラビリンスに潜るため早めの朝食を食べているシローに宿屋の主であるアリヒアが、向かいの椅子に座って話しかけている。あくまで宿泊客の1人にしか過ぎないシローが、この宿に来てからアリヒアは、暇さえあればシローの側にいるのだ。


「なら市場にあったミスリルの剣は、そのクランの誰かが持ち込んだんだな」


「ふ~ん。ミスリルで作られた武器なんてこの街じゃ滅多に見ないわよね」


 ラビリンスに潜る冒険者は、人数に応じて呼び方が変わる。1人で挑む者はソロ。2人で挑む者をペア。3人から6人で挑む者をパーティー。7人以上で挑む者をクランと呼んでいる。

 クランともなると完全分業制を採用している場合が多く、近接戦闘職と魔法職がしっかりと揃い、探査や罠の開錠などを行うスカウトや荷運びを行うポーターなどが役割分担して活動する。


「なんて名前のクランかわかるか?」


「確かホークウインドって言っていたわね」


 ホークウインドは、王都近辺のラビリンスを中心に活動するクランとし知られており、リーダーを務める鷹の羽と言う二つ名を与えられた男が有名だ。


「こんな田舎のラビリンスにまで来るって事は、何か王都近辺のラビリンスであったのかもな」


「わかったわ。そのあたりは、聞いておいてあげる」


 シローは、頼んだつもりはないが、せっかくアリヒアが調べてくれると言うなら興味もあるので聞いてみたいと思った。


「何かわかったら教えてくださいね。お礼はしますから」


「あら。楽しみにしているわ」


 うふふふと微笑みながらアリヒアは応える。シローは、少し、早まったかと後悔したが、せっかくの好意なので受け止める覚悟をした。


「じゃあ。そろそろラビリンスに行ってきますね。今日も予定だと夕食頃には戻りますから」


 食事を終えたシローは、いつも通り背負い袋に昼食替わりにするパンと水筒を詰め込むとラビリンスに向かう。入り口につくと受付をしている兵士に100Gを支払い、名簿に名前を記入する。ラビリンスは、国が管理している事になっており、入る度に1人100Gを支払う必要があるのだ。

 シローが名簿に名前を書いているとその名簿の上の方にホークウインドの面々の名前が記載されている事に気がついた。


「もしかしてホークウインドさんたちが、入って行きました?」


「ああ。昨日から潜っているよ。彼らは数日この間この中にいると言っていたな」


 シローと違い、ラビリンスに持ち込む食糧や水の量もはるかに多いクランは、長い時には1週間あまりもラビリンスに潜るのだ。荷物を持つ量も限られるシローには、真似できる事ではなかった。


「やっぱりクランとなると規模もすごいですね。俺は、今日中に戻ってくるつもりですから」


「違いねえな。こんな危ない場所に何日も潜るなんて正気の沙汰じゃねえよ」


 兵士の男が俺には無理だと言わんばかりに話す。


「じゃあ。無理しない範囲で稼いできますよ」


 こうしてシローもいつも通り、ラビリンスに潜る。シローがこのラビリンスに潜るようになってからこの日でちょうど7回目となる。

 すでにシローは、2階へ下りる階段も見つけてあるが、ソロで2層に下りてもそれほどうま味があるわけではないので、もっぱら1層の探索に当てている。このラビリンスの1層は、入り口から比較的近い場所に階段があり容易に2層に下りる事ができるため上級者やパーティーなどで挑む者は、さっさと下の階へ足を向ける者が多いのだ。


 シローが1人で、まだ未踏破の区域をマッピングしながら進んでいると暗い通路の向こうから人型の魔物が、近づいてくるのが見えた。すばやく背負い袋を肩からおろし、通路の側におくとショートソードをかまえる。


接近してきた魔物の姿が視認できる距離まで来るとようやく相手を識別できた。相手は、コボルト。犬の顔をした人型の魔物であり、ラビリンスの上層に出てくる定番とも言える魔物だ。個体としての強さは、弱く群れになっても慌てなければ対応することが可能だ。

 しかし、シローがそのコボルトの姿を見て驚いた。


「稀少種か?」


 シローが言った稀少種とは、その個体ごとの希少種を言う。通常の個体よりも強かったり、特殊能力を持っている事がある滅多に遭遇することのない個体だ。この個体の最も大きな特徴は、倒すと高確率でレアなアイテムの入った宝箱を落とす。

 なぜ、魔物を倒すと宝箱がでるのかは未だに解明されていないし、魔物を倒してしばらくすると倒した魔物がなぜか消え去ると言う事象についても解明されていない。


 シローは、ショートソードをかまえ、相手を睨みつけるようにしながら背負い袋を側の壁に置く。コボルトは、武器を持つわけでもなくじっとシローをうかがっている。

 コボルトとのにらみ合いが続き、動く気配がない事にしびれを切らし、シローは先日手に入れたショートソードで切りかかる。一般的なコボルトであれば、この一撃で大勢が決まるのだが、さすがに稀少種だけあってその動きは早かった。シローの剣をぎりぎりでかわすと手の爪でシローを襲う。シローも咄嗟に後方に身を引く事でその爪をぎりぎりで回避した。

 剣を引いたシローが、半身の姿勢を取り、ショートソードを自分の身体で隠すように構える。コボルトが、かがむように姿勢を低くしてシローに飛び掛かってきたところを下段から振り上げるように剣をふるった。

 先日、入手した星降る鉄のショートソード+2の効果もあってか切り上げた剣は、かがんだ姿勢で飛び込んだコボルトの顔を割くような軌道で進む。


「ぐぎゃ!」


 首の付け根から顔にかけて斜めに切り裂かれたコボルトが、悲鳴をあげると、シローは止めとばかりにショートソードをコボルトの心臓めがけて突き刺した。

 前のめりに倒れたコボルトは、光に包まれると豪華な宝箱を残して消えていった。


 魔物を倒した時に現れる宝箱は、豪華な物ほど中に良い物が入っていると言われている。シローが今、目の前にしているその宝箱は、装飾も施された物でシローがこれまでに見た宝箱の中で最も豪華な物だった。


「すごいな。これの中身はそうとう良いものじゃないか?」


 シローの期待が、高まる。宝箱に伸ばした手もどこか震えていた。


「何が入って……!」


 宝箱を開けようとしたシローの足元に青い魔法陣が浮かび上がった。


「やば! テレポーターか!」


 見たことのない豪華な宝箱に油断したシローは、宝箱に仕掛けられていたテレポーターの罠にかかる。すでに作動してしまった罠を止める方法はない。テレポーターは、最悪、壁の中に転送され命を失いかねない最悪の罠の1つだ。

 その時シローは死を覚悟する。


 魔法陣の光が最も強くなったとき、その場からシローの身体は消え去り、通路には昼食の入った背負い袋とせっかく入手したショートソードだけが残された。

 ラビリンスに潜る者が、命を落とす原因で最も多いのが、罠によるものだ。石化や毒状態に陥る罠や串刺しされる罠など凶悪な罠が多いラビリンスでは、わずかの油断も命取りになる……

 これまで油断する事のなかったシローも豪華な宝箱を見て興奮し、そこに油断が生じたのだろう。


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