ラビリンス 23層
「そう。それじゃあ。シローはしばらく街を離れるのね」
「驚かないんですか?」
「冒険者は、そう言うものだからそれほど驚かないわ」
シローは、アリヒアの宿屋にシーリーンを連れて戻るとアリヒアにこの後の事を話した。色々言われると思っていたシローだが、さすがに元冒険者と言うところかアリヒアはシローの考えに理解を示す。
「明日、ギルドに別のラビリンスを紹介してもらったら、そのラビリンスがある場所へ移るつもりだ。この宿には色々と世話になったからな……」
思い起こせば、記憶をなくしたシローが、冒険者となりラビリンスに挑むようになったのは、数ヶ月前の事だ。そして、勝手の分からないシローに色々と助言してくれたのは、目の前のアリヒアであった。
「いいこと。あなたは、もう気づいていると思うけど、冒険者にとって最も大事な事は、死なない事よ。死んでしまったらすべてが終わるけど。生きて帰れば次があるのだから」
冒険者の先輩らしいアリヒアの助言にシローは強く頷く。
「それにしてもあれだけソロにこだわっていたあなたが、こんな可愛らしいお嬢さんを仲間にするとはね。どこで見つけたのよ」
アリヒアは、シローの側でニコニコしながら座る女の子を見てため息をつく。
「まあ。見た目はこうだが、戦闘になると想像以上に活躍してくれるんだ」
「そうね。あなたが言うのだからきっとこの子は、強いのでしょうね」
アリヒアは、実際にシローのラビリンスでの戦いを見ているわけではないが、シローがラビリンスに籠る頻度や成長を感じさせる立ち居振る舞いからそれなりに活躍していると思っていた。
しかし、実際シローは、アリヒアの数倍以上の成果を果たしているのだが、それはシロー自身も理解できていなかった。わずか、数ヶ月程度の期間にこれだけ強くなる者はいないのだ。
その晩、アリヒアの宿屋では、ささやかな晩餐が開かれる。シローは、アリヒアに感謝しつつ、この夜はいつもなら飲まない酒をシローも飲んだ。
翌日、シローは、いつもよりも悪い目覚めに眉をしかめるが、シローに差し出されたコップの水を飲みほすと少し楽になった。
シローの前にはいつの間にかシーリーンがいた。
「おはようございます。マスター」
「人前では、マスターと呼ぶなと言ってあったはずだが? それになんで俺の部屋にシーリーがいるんだ?」
「アリヒアさんが、昨日ここにシローと私を案内してくれました」
シローは、かろうじて残る記憶をたどる。
「ああ。そうか。俺が飲みすぎて途中から覚えていないのか……ってことは、俺はここに運び込まれたのか?」
「いえ。マスターは、ご自分でここまで歩いて来てここで力尽きました」
シローは、動くと気持ち悪さがこみあげてくる身体を起こしたが、すぐに立ち上がる事はでいなかった。
「シーリー。もう1杯水を頼む」
シローの酔いがさめたのは、太陽が頭上に登る時間だった。まだ、シローは、胃のあたりがむかむかとするが、メイリアとの約束もあるのでシローは、ギルドへと向かった。
シーリーンとギルドに到着するとすぐにメイリアが、シローに気づき、個室に案内される。
「ずいぶんと遅かったわね」
「すまない」
シローは、頭をさげる。約束に遅れるのは最大のタブーだ。
「お、遅れた事は、いいわ。それよりもあなたに頼まれていた情報を教えるからきちんと聞いて欲しいわ」
「悪いな。頼む」
「いいわ。あなたには色々とね……。まず、あなたの希望に合致するようなラビリンスのは、王都にある第4ラビリンスのボージね、Bランクのラビリンスよ。王都の側にある5つのラビリンスの中で、中途半端と言われるせいで人気がないわね。厄介な罠があるわりに、実入りがないってのが評判よ」
「王都か。そしてボージだな」
「次の候補は、この街から北に向かったところにある。カザンの街にある双子ラビリンスのロブリードとリブリードよ。どちらもランクBと言う事もあってビギナーは挑む事が難しいわ。2つ似たようなラビリンスがあるせいもあってそれほど冒険者は多くないわ」
「カザンの街のロブリードとリブリードか」
「最後にこの街から南にかなり歩いた場所にある。はぐれラビリンスと呼ばれているルーレリアンよ。側に街がないせいで、滅多に挑戦する者はいないわ。ランクはBだけど詳しくはわかっていないと言うのが本当のところね」
「最後は、ルーレリアンか」
シローは、メイリアからもたらされた情報を元に、次に挑むラビリンスを考える。
(アル。どこかお薦めはあるか?)
『マスターのお望みのままに』
シローは頭の中で整理する。王都のボージは、不人気と言ってもやはり王都のラビリンスだから無人と言う事もないだろう。何よりも街に人が多すぎるが問題だ。カザンの街の双子ラビリンスも無人と言う事はないだろう。シローが、今一番望んでいるのは、人目のない未踏のラビリンスだ。集中して挑める上にアルハナートやシーリーンを気にせずに戦う事が可能だ。
「メイリア。情報ありがとう。参考になったよ」
「それで、シローは、どこへ向かうつもり?」
「ルーレリアンへ向かう」
「あのね……さっきも言ったけど。あそこには、兵士すらいないのよ。ラビリンスのある場所までたどり着くだけでも大変だと言われているの。それでも向かうの?」
メイリアは、シローを止めたいと思ったが、それを聞くようなシローだとも思ってはいない。
「心配ありがとな」
シローは、そう言ってメイリアに背を向ける。シローの背に言葉をかけかけたメイリアは、ぐっとその言葉を飲み込み口を閉じる。シローが、冒険者であり続ける限り、こんな事は日常の事なのだから。
「じゃあ。行ってくる」
シローは、そうメイリアに言うとシーリーンと共にギルドを後にする。シローは、市場で小分けにしながらも大量の武器や防具を売り払い、まとまった金を手にいれるとその金で食料などを購入する。
そして、その日、夕刻。誰に告げるともなく、シローは、記憶の残る数ヶ月を暮らした街を…ヒルテインの街を去った。




