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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
22/59

ラビリンス 22層

 シローは、休憩をはさみながら6層の探索を続けマッピングを進めていく。合間に現れる魔物との戦闘では、シーリーンの能力を把握する事や連携方法などをアルハナートを交えて確認していった。


「シーリーが、加わった事で戦術の幅が広がったから、6層のマッピングが完了したら7層に進もうと思うがどう思う?」


『戦闘ユニットが、加わった事は良い事ですが、まだマスターの御身を守るだけのものが不足しているのではないでしょうか』


 アルハナートの指摘は、シローの痛い所をついた。シーリーンを得た事で攻撃面はある程度確保できたが、後手に回ると選択肢は少ない。未だに動きやすいからと言う理由で防具も皮鎧を着ており、魔物の直撃を身体で受ければひとたまりもないのは事実だった。


「防御魔法か良い防具、回復魔法なんかが必要ってことだな」


『はい。マスターを守る手段が少ないのが現状です。広範囲を襲う魔法やブレスと言った攻撃から身を守る手段がないと深い階層へ進むのは危険です』


「それなら。先に進むのはそれらの課題を解決してからと言う事になるな。アル。今の俺の評価値はいくつになった?」


『現在のマスターの評価値は263、魔力値102。アルハナートの魔力値121 シーリーンの魔力値120となります』


「まだ、経験不足と言う事だな。この6層でもっと鍛えるか……それとも他のラビリンスも経験してみるかだな」


 ラビリンスは、この場所以外にもたくさん存在している。シローがいる街の側にもこのラビリンスを入れて3つのラビリンスがあり、王都や他の街へ行けば、そこにも複数のラビリンスがあるのだ。


『他のラビリンスに挑む事には賛成です。より多くの経験を積む事でマスター自身が強くなれるでしょう』


 シーリーンもそばに座り頷いている。シローは、この階層で長く戦うよりもより多くの経験をした方が、自分を強くすることができるだろうと考えつつあった。


「よし。決めたぞ。この6層のマッピングを終えたら、一旦このラビリンスの攻略は中断する。ここより難易度の高いラビリンスで、あまり人気のない所を選んでそこに潜るぞ」


 普通なら難易度が低く、稼ぎやすいラビリンスを選ぶのだが、シローは目立つ事なく活動できるような不人気ラビリンスを探すつもりでいる。魔物が強く、凶悪な罠があり、実入りも少ないようなラビリンスこそシローが望む場所なのだ。


 相談の後、シローは、6層のマッピングを終えるまで探索を続け、7層へと続く階段も見つける。また、魔物から得た宝箱からクリスタルを幾つか手に入れた。ほかは、特にめぼしい物も手に入らなかったが、スケルトンやファントムは、良い訓練になるため、シローはシーリーンと色々な連携方法を試していった。

 やはり、シーリーンは、戦闘特化だけあって物理攻撃だけの相手なら1人でも問題なく魔物を倒していくことができるようだ。


 シローは、6層から引き揚げるように階層を上に上にと戻っていき、間もなく出口と言う所で、ふと歩みを止めた。シローは、後ろを歩いてついてくるシーリーンを見て


「なあ。入り口の兵士に、どうシーリーの事を説明したら良いと思う?」


 シローは、戦う事ばかり考えていたが、地上に戻った時になんと説明すれば良いのかに気がつく。シローが、ソロで挑んでいる事を入り口の兵士も知っている。それにラビリンスに入るときに1人で、帰りに2人になっている事は、どう考えても異状な事だ。シローは、シーリーンの事をごまかすアイディアを考えるが、どれも決定打にかける。何よりもこんな女の子が、ラビリンスで戦うと言っても信じてもらえるかどうかもわからない。


『マスター。ラビリンスの出口で、シーリーに透過魔法をかけます。一時的なら兵士の目をごまかす事が可能でしょう。その後、マスターが、入り口の兵士の気をひいている間にシーリーの速度を持って姿を隠します』


 困ったときのアルハナート様のアイディアを採用する事にしたシローは、ラビリンスの出口で覚悟を決める。


 意を決してラビリンスの外に出たシローは、兵士の気を引くためにすぐに行動を起こした。


「ただいま。ようやく戻ったよ」


 普段は、それほど話さない兵士だが、今日はシローの方から話しかける。


「おう。戻ったかずいぶんと長い間、いたようだが無事だったんだな」


「ああ。おかげ様だな。だが、危ない目にあったから、しばらくここのラビリンスはあきらめるよ」


 兵士の気を引くような会話をして兵士の目を引き付ける。


『マスター。もう大丈夫です』


 アルハナートの声にシローは安堵する。どうやらシーリーンは、無事に脱出したようだ。


「じゃあな」


 兵士との話を打ち切り、手を振るとラビリンスを離れる。しばらくするとどこかから現れたシーリーンが、シローの隣にもどり歩きはじめる。


「さて、どちらにしてもシーリーを仲間として登録しないといけないな。アル。シーリーをギルドに登録するつもりだが、問題はあるか?」


『シーリーが、戦闘ユニットと気づく者はいないでしょう。他の者の目には、普通の人間にしか見えないはずです。ですが、現状のようにあまりにも軽装だと冒険者として登録する事は難しいのではないでしょうか』


 シローは、シーリーンの姿を見てアルハナートの指摘は、もっともだと思った。


「シーリー。何か武器を持って歩くか? 余っている皮鎧とショートソードでも持てばそれなりに見えるだろ」


「はい。マスター」


「それとラビリンス以外では、俺の事をマスターと呼ぶのは困るな。ラビリンスの外では、シローと呼んでくれ」


「はい。シロー」


 何かしっくりこないが、とりあえずこれで何とかなるだろうとシローは思った。ラビリンスから出たのが、ちょうど昼どきだったため、シローはその足でギルドへと向かった。


 ギルドに入ったシローが、受付を見るとメイリアの姿はない。ちょうどよいとばかりに、別の受付に並び順番を待った。しかし、タイミングよく休憩からでも戻ったのかメイリアが、受付に並ぶシローを見つけた。


「あら。こちらで受け付けるわよ」


 そうシローに声をかけたメイリアの目は、シローの横でニコニコと笑顔を振りまくシーリーンに向けられている。空いていた受付にメイリアが立ち、シロー達がそこへ移動させされると


「それで、その子は?」


「あ、ああ。名前はシーリーン。ギルド登録してほしいんだ」


「それで、その子は、シローの何なの?」


「今まで、ソロで頑張っていたが、いよいよ俺も限界を感じたんだ。シーリーンは、こう見えても戦士としてなかなかもんなんだ。だからペアを組むことにしたんだよ」


 嘘ではない事実を交えて疑るような目でシーリーンを見るメイリアに説明する。メイリアは、つい先日までは、上機嫌だったのに今はすこぶる機嫌が悪いようだった。


「まあ。いいわ。シローが、ソロを止めて仲間を作るのは悪い事じゃないないもの。あなたは、いつかちゃんとしたパーティーかクランに入るべきよ」


「あ、ああ。今挑戦しているボグルドで、これ以上先に進むには、もっと強くなるか仲間を集めないと無理だと思うんだ。それで、俺は、少し旅に出るつもりだ。シーリーンをギルド登録した後、ボグルドよりも難易度の高いラビリンスの浅い層で、もっと経験を積むつもりだ」


「ええ! シローこの街を離れるの?」


 メイリアの声が思いのほか大きく、周囲の目がシローに向かう。慌ててメイリアが、周囲を睨みつけ事なきを得る。


「ご、ごめんなさい。それよりもシローは、この街を出るつもりなの?」


「ああ。ボグルドよりも難易度の高いCランクかBランクのラビリンスを紹介してくれ。できれば、人気がなく人があまり入っていないラビリンスが良い」


 メイリアは、目を閉じ何か言いたげだったが、大きく息を吐くと


「わかったわ。あなたが考えて決めた事なんでしょう。ならその条件のラビリンスを調べておくから少し時間をもらえるかしら。明日には紹介できるようにしておくから明日また出直してもらえる?」


「わかった。頼むよ」


 シローが受付を離れ、見知らぬ女と出ていくのをみて、メイリアは他の者に聞こえない声でつぶやいた。


「ここに戻るとは言わないのね」



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