ラビリンス 20層
シローは、6層の魔物を倒しながらマッピングを継続する。6層には、スケルトンやファントムの他にグールがいる事がわかった。
グールは、アンデットの魔物で力が強く耐久力が異状に高い魔物だ。手や足を切り落としても気にすることなく平然と襲ってくる。
魔物が、1体2体で現れる分には、特別困る事はないが、3体ともなるとアルハナートと連携しなければ、シローにも捌ききれない事がある。特に厄介なのは、ファントムと弓を装備したスケルトンが、同時にいた場合だ。遠距離攻撃する魔物がいると目の前の魔物に集中することができない。グールなどの魔物と対峙しながら後方から弓や魔法で攻撃されるとシローも後手に回る事になる。
「魔法の使い方やアルとの連携で何とか倒せるとは思うが、やはり相手が連携してくると厳しいな」
宝箱から鋼鉄の盾を回収しながらシローが、感想を述べる。6層の宝箱からは、鋼鉄の武器や防具、クリスタル、本、瓶、草などが手に入った。
もっと力をつけるしかないと考えたシローは、小休憩を取り水分を補給するとマッピングを再開する。通路を進んでいくと小部屋があり、そこで行き止まりとなっていたためシローが引き返そうとすると
『マスター』
「なんだ?」
『この奥に隠し部屋があります』
アルハナートの隠し部屋と言う報告は、ラビリンスに入ってから初めてのものだった。
「アルを見つけた部屋のようなものか?」
シローが思い当たったのは、アルハナートと出合った部屋だ。テレポーターの罠のせいでシローは、たまたま発見できたが、通常なら見つける事ができる部屋ではない。四六時中探知魔法を使い続ければ見つける事もあるかもしれないが、そんな使い方をする魔法使いもいないだろう。
アルハナートの指示に従い、シローは小部屋の右側の壁の真ん中よりやや右側の壁面に手を触れる。視覚では、まったく違いや違和感は感じないが、手でなぞるようにするとわずかな突起を感じることができた。
「何かあるのはわかったが、どうすればいいんだ?」
アルハナートが、壁面まで来るとシローが感じ取った突起にクリスタルを吸収した時につかったコードのような物を伸ばした。
『マスターの鑑定魔法をここでお使いください』
アルハナートがコードを戻すとそこがわずかに青く光っている。
「ここで良いんだな」
シローは、意識を集中すると鑑定魔法を使う。魔力が流れ込んだとたん。わずかに青く光っていた部分から模様を描くように光が走り、その光は、何かの模様をしたドアの形になった。
音も立てずにその青く光るドアがすっと開いていく。
ドアの向こうにまた部屋があるようなのでアルハナートを伴いシローは、隠し部屋の中に入っていく。
部屋の中に入る時は、暗く何も見えなかったが、シローが部屋に入ると青白い照明がついた。いくつかの棺のような箱が並べられており、そのほとんどは蓋が開き中には何もなかった。
棺は、全部で8個並べられており、そのうち一番右端にある箱だけが、蓋がしてあった。
「アル。これは何かわかるか?」
『回答に制限がかかっていますので、回答可能な範囲で返答します。これは、戦闘ユニットを保管する倉庫のようです』
「ってことは、アルと同じようなユニットが入っていると言うことか?」
『回答に制限がかかっていますので、回答可能な範囲で返答します。形状から補助ユニットではなく、戦闘ユニットであると推測されます』
「戦闘ユニット? 戦闘をメインにしたユニットと言うことか?」
『回答に制限がかかっていますので、回答困難です』
「わかった。ならこれを起動するには、どうすれば良い?」
『マスターの鑑定魔法が、起動に必要な魔力パスを形成します』
アルハナートと同様にシローの魔法で起動できるようだ。アルハナートが、シローの意図を捉えたのか棺のような箱の一部分に球体からコードを伸ばし、魔力を流す場所をわかりやすく表示してくれる。
シローは、目を閉じ集中を済ませるとその場所に鑑定魔法を使うように魔力を流した。
最初こそ、いつも通りの感覚で魔法を使用していたが、途中からシローの顔色が変わる。まるで、棺に魔力が吸われているかのように急速にシローの魔力が減っていく。
魔力の低下と共に膝が笑い出し、シローは、今にも膝を折ってしまいそうになるが、集中を続け魔力を送り続ける。これ以上は、無理だとシローが諦めそうになった時、ブーンと何か歯車が回るような音が聞こえた。それ以上魔力を吸われる事もなく、シローは解放されたようにしりもちをついた。
肩で、「はあはあ」と呼吸するが、魔力切れに近い状態となっているため意識が朦朧とする。
「アル。魔力…回復ポーションを出してくれ」
シローは、アルハナートの収納から以前手に入れていた魔力回復ポーションを出して一気に胃に流し込む。すると魔力が回復したのかシローの意識がはっきりとしてきた。
シローの意識がはっきりとしてきた時、ゆっくりと棺が開きはじめる。棺の中に納められているのは
「お、女?」
シローが驚くのも仕方ない。そこには、シローと同年代くらいに見える華奢な女性がそこに眠るように納められていた。開いた棺を見てシローが、何も言えないでいると、蓋が開き終えた。
女性が着ている服は見慣れない衣装だった。もしかすると古代の衣装なのだろうかとシローが、女性を見ていると
『マスター。戦闘ユニットを起動するためのパスが必要です。ユニットの胸の部分に鑑定魔法を使用ください。今回は、魔力パスをつなぐだけですので起動時と違ってそれほどの魔力は必要ありません』
また、大量に魔力を吸われるのかとシローは思ったが、どうやらそうではないようだ。シローは、恐る恐る立ち上がると棺の中で寝る女性の胸の中央部分、ちょうど双丘の間くらいに手を置き、魔力を流した。
青白い光が手と彼女の皮膚の間に見えると突然シローの手が、いつの間にか彼女の両手に握られていた。驚いたシローがその手をどけようとしたが、彼女につかまれたシローの腕はピクリとも動かない。
「シーリーン=ルドアート起動成功。魔力パス確認。マスターの認証に成功しました」
「シーリーン?」
「はい。マスター」
起動に成功したシーリーンは、ゆっくりと棺から起き上がり、足をおろすとすっと立ち上がった。シローの前に立つとちょうどシローの顎の位置くらいの背丈があった。
「えっと。アル。俺はどうしたらいいんだ?」
『シーリーン=ルドアートを認証しました。魔力パスを共有します』
「アルハナートと同調を確認。魔力パスの共有を確認しました」
アルハナートとシーリーンの間で何かのやり取りがあり、情報交換が行われているようだ。
「マスターの情報の共有化を図りました。マスターの戦闘補助を担当します戦闘ユニットのシーリーン=ルドアートです」
「えっとシーリーンだな。少し短くしてシーリーと呼んでいいか?」
「はい。マスター。以後、シーリーとお呼びください」
笑顔でシーリーンが答える。見る限りシーリーンは、とても戦闘向きには見えない。手足も細く重たい武器など持てるのだろうかと疑いたくなるような姿をしている。
「なあ。シーリーは、戦闘ユニットと言っていたが、その……どうやって戦うんだ?」
「はい。マスター。現在、シーリーは、魔法は使えませんが、近接戦に特化していますので直接戦闘が基本となります」
「そうか。シーリーは、魔法は使えないんだな」
シローは、シーリーンの姿を見て一番想像しやすかったのは、魔法を使う姿だったが、あっさりとシーリーンに否定された。それよりも近接戦に特化していると言う事は
「まさか。シーリーは、肉弾戦をするのか?」
「はい。マスター。シーリーは、身体自体が武器ですので、マスターが言う肉弾戦が主体となります」
どう見ても肉弾戦をする身体には見えないが、シーリーンがそう言う以上そうなのだろうとシローは思った。何よりもアルハナートが疑う事もないのだから、シーリーンの言葉は本当の事なのだろうと考える。




