ラビリンス 2層
「さあ。次は、この瓶だな」
再び机の上の瓶を魔法の光で包む。
「これは……猛毒薬か」
猛毒薬もラビリンスに挑む冒険者には需要がある。魔物によっては瓶ごと投げつけて毒で倒す事も可能だからだ。特に即効性のある猛毒薬は、取扱いは難しいが求める者も多い。
シローはもう一つの瓶も鑑定する
「次は、魔力回復薬だな+1の良品か」
回復薬系のポーションや毒薬にも良品や不良品がある。効果があきらかに違うのだ。
「さて、最後は、この本だな」
ラビリンスで見つかる古い本には、封が施されておりそのままでは読むことはできない。何らかの魔法書か知識書なのだが、鑑定してみなければそれが何の本なのかはわからない。
武器や防具のようなものは、見立てである程度鑑定する事はできるが、本だけは鑑定する事ができないのだ。古代の文字で書かれたラビリンスで見つかる本の大半は、王都に住む賢者の元へと二束三文で売られていく。
賢者が暮らす王都の魔法研究機関へ運ばれた本は、賢者などにより鑑定された後、その価値に応じて金額をつけられ売りに出されると言う。希少な魔法書や知識書ならば、それだけで一攫千金を得られる物もあるそうだが、本の鑑定は、その手間から鑑定料が高く、鑑定してみて価値のない本だった場合には、大赤字となる事の方が多いので見つけた冒険者は、本を安値で売る事が多いのだ。
ちなみに未鑑定の本の封を解き読もうとしても何が書いてあるかわからない本を読む事はできない。何の本かわからない者が、その本を読もうと試みても読めない仕組みになっているようだ。
光に包まれた本の鑑定が終わると
「なんだ? 趣味の本か何かだな。植木への水のやり方……か」
シローの魔法で鑑定すると古代文字が変換され読む事ができるようになる。タイトルを見れば希少な魔法書でもなくシローはがっかりする。シローが、その気になればこうした本の鑑定だけでも大金を手にすることは可能なのだが、そうするとシローが独自の鑑定魔法が使えることが皆にばれてしまうので秘密にしている。
シローは、鑑定済みのアイテムを売れば、それなりの稼ぎを得られるかもしれないが、自分が鑑定できる事は隠しておきたいし、鑑定ができると言っても信じてもらえないだろう。だからいつも鑑定結果に関係なく一般の相場で売買しなければならない。
未鑑定のショートソード1本の売値は、およそ1500G。先ほどの星降るショートソードであれば軽く数倍の値を付けてもよいのだろうが、それを鑑定以外の方法で説明する事は難しい。王都にいる賢者にでも鑑定してもらえば、証明書を発行してもらえるかもしれないが、王都までわざわざ持っていき、鑑定料を払ってまで売りたい物でもなければそんな手間はかけたくない。
結局、ラビリンスから持ち帰った荷物のうち価値のあるショートソードは自分で使う事にして残りのショートソードや短剣、薬草の類は売る事に決める。猛毒薬や魔力回復薬は、保管して取っておくことにして鑑定済みの本は、宿の壁に立てかけた。
鑑定作業を終えるとシローは、ベッドに横になる。朝からラビリンスに潜った疲れもあって横になるとすぐに瞼を閉じた。
翌日、シローがベッドから起きだしたのは、すでに昼近い時間だった。
「少し寝すぎたな」
欠伸を一つした後、身体をほぐすように肩や首を回す。ポキポキと骨が音を立てた。風呂のない宿屋では、せいぜい顔と歯くらいしか洗う事ができないので、宿の裏にある井戸まで行くと水をくみ布で身体を拭く。
ようやくさっぱりとしたシローは、アリヒアに外出することだけ伝えると荷物を持って市場へ向かった。ラビリンスのあるこの街には、ラビリンスから得られるアイテムの売買を行う店など冒険者を相手にする店が多い。
武器の売買をしている店を見つけたシローはさっそく交渉に入る。
「買い取りを頼みたいがいいか?」
「ああ。何を売るつもりだ?」
値踏みするように店主が、シローを見る。見た目同様にシローが若い事もあって大した物は持って来ないとそれほど期待はしていないのだろう。
「鉄のショートソード2本と胴のショートソード、あと鉄の短剣を売りたい」
「鉄のショートソードは1400G、胴のショートソードは700G、鉄の短剣は800Gでどうだ?」
「この前、鉄のショートソードを1500Gでを売ったが、相場が下がったのか?」
金額交渉は必須だ。相手が、シローを見て金額を安く提示した可能性が高い。
「いや。すまん。少し試させてもらった。鉄のショートソードは、1500Gで良い。鉄の短剣も900Gだな、胴のショートソードは800Gでどうだ?」
相場とほぼ同じ金額を引き出したのでシローに不満はない。このくらいの事をしなければ買い取りで利益はできないのだから。
「ではそれで売ります」
シローは、2本のショートソードと1本の短剣を売り3200Gの報酬を得る。
「この辺で、薬草を高く買い取る店を知らないか?」
シローは、受け取ったGの中から100G銀貨を渡して情報を求める。買取屋の男が受け取ると
「この先を曲がってすぐの店がいいな。あそこは目利きもそれなりだから良い物であればいい値で買ってくれる」
「助かる」
情報を得たシローは、男が指示とおりに歩き店を見つけると再び声をかけた。
「買い取りを頼みたいが良いか?」
「おや。お客さんかね?」
出てきたのは、年老いた老婆。その刻まれた年輪のような皺がその年経験を感じさせる。
「これを買い取って欲しい」
シローは、月光草と月夜草を背負い袋から取り出して老婆に見せる。
「おや、月光草と月夜草だね。なかなか良いものじゃないか」
鑑定魔法がなくても、長年の経験があれば、見た目がほとんど変わらない草を見るだけで区別することできるようになれる事を老婆が教えてくれた。
「いくらで買い取ってくれますか?」
「そうだね。物も良いようだし、合わせて500Gでどうだい?」
草類の相場までは、暗記していないシローは、老婆の顔を見て
「はい。それでお願いします」
と老婆に草を渡す。
「毎度あり……」
老婆が受け取ると500Gをシローに渡した。何か老婆がにやりと笑ったような気がしたが、それ以上会話することもなくシローは店を出る。
「さて、現金もできたし少し腹ごしらえするか……」
シローは、食事できる店を探して市場を散策する。ふと、武器を売る店を見つけその店頭に置かれている武器に目が留まった。
見るからに素材が違う。鉄や鋼鉄と言った色合いのものではない。鑑定してみたい気持ちにかられたが、シローはじっとその剣に目をやった。
「どうだすごいだろう。ミスリルでできた剣だ」
シローが見ている事に気がついた店の親父が、シローに笑いながら話す。
「有名なクランの冒険者が売っていった。価格は、100000Gでどうだ?」
お前には無理だろうと言わんばかりに親父が笑う。実際に、シローは買うつもりはないが、ミスリル素材でできた剣は滅多に市場にでないので、もしかすると未鑑定ではなく、なんらかの呪いがついた欠陥品の可能性も高い。そもそも良品等であれば、売りに出さずに自ら使った方が、結果的に稼ぎだってよくなるはずだ。
「珍しいと思っただけだよ。そんな金はないしね」
ミスリルの剣と別れたシローは、市場にあった串肉を売る屋台で2本の肉を買って朝昼兼用の食事にした。シローは、1日ラビリンスに潜ると1日を休息に当て、翌日再びラビリンスに潜ると言うリズムで生活している。




