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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
18/59

ラビリンス 18層

 ラビリンスに挑む前にギルドへ顔を出したシローは、メイリアを見つける。


「メイリア。少し時間あるか?」


「あら。何かのお誘いかしら?」


 周囲をうかがうようにしたシローを見てメイリアも察したのか


「わかったわ。ついてきて」


 メイリアは、シローを連れて個室へと向かう。前に打ち合わせに使った場所だ。案内された部屋のソファーに腰をかけるとメイリアがシローにどうぞと言うように手振りで伝える。


「実はな。昨日、俺が、使っていた宿屋の部屋が何者かに襲われたんだ。幸い、部屋には何もおいていなかったから被害は、部屋の鍵が壊されたくらいなんだが、どうにも襲われるいわれもなくてな」


「あら。それは大変だったわね」


「ギルドに俺の事を調べに来るような奴はいなかったか?」


「そうね~。あなたの事は、ほとんど伏せているから調べようもないはずよね」


「賊が、俺を狙う理由がわからなくてな」


「賊が狙うのは、金か貴重なアイテムなんかがほとんどよ」


「金か……。もしかしたらあの時か」


 シローは、以前、酒場でヒルデのお守りをしていた2人から大金をもらった事を思い出した。


「思い当たる事があったの?」


「ああ。今思い出したよ。だけどこれでただの泥棒か強盗だって事がわかった」


「大金を持っているならギルドに預ける方がいいわよ」


「いや心配はないが、宿屋に迷惑だな。とっとと捕まえるか宿を変えるかした方がいいかもな。まあ、ほとんどラビリンスに籠っているから会う機会も少なさそうだが」


「あなた、まだ連日ラビリンスに潜っているの?」


 あきれたようにメイリアが、シローに聞くが


「ああ。メイリアは、信頼しているから話すが、地上よりもラビリンスの中にいる時間の方が長い」


「あなたの事は、詮索しない約束だけど。やはり、それだと目立つでしょう?」


「大丈夫だよ。俺の挑んでいるラビリンスは、不人気の所だからな。他の人気ラビリンスなら目立つかもしれないけどな」


 シローが、毎日、挑戦しているラビリンスは、このギルドが管理している3つのラビリンスのうちの1つだ。ラビリンスは、ラビリンス毎に難易度も手に入るアイテムも違うため、挑戦するラビリンスを選べる冒険者は、安全で確実に稼ぐ事ができるラビリンスを選ぶ。

 このギルドが管理するラビリンスは、Dランクラビリンスの「ドーン」とDランクラビリンスの「ブレイジ」Cランクラビリンスの「ボグルド」の3つだ。その中でも「ドーン」は、倒しやすい魔物が多く、罠も少ない事から初心者に人気だった。「ブレイジ」は、少々罠が多いが、中層あたりで良いアイテムが手に入る事から中堅からベテランまでが、ホームグランドにしている。シローが、挑戦している「ボグルド」は、罠が多く嫌な敵も多い。その上、あまり良いアイテムが出ないと言われているため挑戦するもは、それほど多くないのだ。


 事実、シローが、ラビリンスに籠っていても出合う冒険者は、多くない。時折、アルハナートの索敵に冒険者がかかる事もあるが、5層にもなると出会う事は滅多になかった。


「そうね。確かにボグルドは、人気がないものね」


「俺は人見知りだから人の多い所は、苦手なんだよ」


 メイリアは、冗談でしょとばかりにシローを見るが、本人は本気のようなので突っ込みはせずに放置を決め込んだ。


「これ。色々な事で世話になったからそのお礼だ」


 シローは、背負い袋から小さな箱を出してメイリアに差し出した。メイリアは、一度、シローを見てからその箱を開ける。


「これ……」


 中には、青い宝石がついたブローチが入っていた。シローは、ヒルデのお守りからもらった金は、このブローチに交換している。実は、もう1つ同じような物を買ってあり、それはアリヒアに渡すつもりでいた。最初は、その金で魔法書か武器でも買おうと考えたが、自分で稼いだ金でない物を使う事に何かためらいがあり、迷った末に世話になった人にお礼をする事にしたのだ。


「まあ。これまでとこれからの口止め料だと思ってくれ」


 シローは、存外にこれからも頼むと言う意味も込めて言ったつもりだが、受け手がどう受け止めたのかはわからない。


「あ、ありがと……」


 予想外のプレゼントにメイリアも照れながらシローに礼を言った。メイリアは、成人した15歳からギルドに勤務し、それ以後、やれ才女だ切れ者だと言われながら20歳になるころには、サブマスターにまで上り詰めた。

 だが、そんな経歴を持つ彼女も色恋事になると歳相応の経験しかないのだ。メイリアには、その容姿もあって言いよる男も多かったが、がさつな冒険者ばかりを見ていたためメイリアは、恋愛経験も少ない。


「じゃあまた何かあったら頼むよ」


 シローは、ソファーから立ち上がるとメイリアにそう言ってギルドを後にした。メイリアは、シローからもらったブローチを箱から出して、しばらく見つめた後、大事そうに箱に戻すと仕事に戻った。


「もう。どうすれば良いのよ」




 シローは、ギルドから出ると宿屋へ戻る。アリヒアにまたしばらくラビリンスに籠る事を伝えるためだ。宿屋についてすぐにアリヒアを見つけて、これからラビリンスに向かう事を説明する。

 再び、部屋の鍵の事などで弁済すると言ったが、アリヒアはそれを固辞する。


「わかったよ。鍵の事はもういいさ」


 鍵の修理の事は、あきらめ、シローは、アリヒアに背負い袋から出した箱を渡す。メイリアの時と同じように箱の中には、赤い宝石のついたブローチが入っていた。


「これ……は?」


「アリヒアには、色々と世話になっているからな。そのお礼だよ」


 不定期にラビリンスに籠るシローの都合に合わせて部屋をとっておいてくれるアリヒアへの礼のつもりでシローは、ブローチを渡した。夜遅くに戻っても食事を提供してくれたり、色々な面でサポートしてくれている事への素直な感謝だった。

 だが、それが受け手にどう伝わったのかはわからない。


「また、しばらくラビリンスに籠るから。またそのうちにな」


 シローから箱を渡され対応に困り


「これ…どう言うい……」


 とアリヒアが言いかけた時には、シローは、すでに宿屋を出てラビリンスに向かっていた。


「もう。年下のくせに大人をからかうものじゃないわ」


 不満をぶつける彼女の顔は、どこか幸せそうに見える。



 シローは、いつもどおり、入り口で兵士に100G支払いラビリンスの中へと入る。周囲の索敵を行い、誰もいないことを確認すると、いつもどおり背負い袋の中の物をアルハナートの収納にしまいシロー自身は手ぶらとなる。


「さあ。今日は6層を目指すか」


 気持ち新たにシローが、歩き出すと


『マスター。後方から接近する者がいます』


 アルハナートの索敵報告だ。


「さっきいなかったと言う事は、ラビリンスに入って来たと言う事だな」


『はい。マスターを尾行していたのかもしれません。こちらがラビリンスに入ってすぐに向こうもラビリンスに入ったようです』


「となると」


『宿を襲撃した犯人ではないでしょうか』


「その可能性が高いだろうな」


 シローは、相手を警戒するため槍をかまえる。すでに相手が来る方向もわかっているので準備をして待っているとほどなく通路の向こうから男が2人現れた。

 一見すると冒険者のようだ。


 ラビリンス内での私闘や強奪は、ギルドで禁止されている。もしばれたりしたら兵士に捕えられ最悪、死罪にすらなりかねない。それでもラビリンス内で起こった事さえ、外にばれなければ誰にも気づかれる事もないため中には、ラビリンス内で強盗や殺人を犯すものいる。


 シローが、待ち構えていたことで2人の男もぎょっとする。装備や姿からどうやらスカウトと戦士のようにシローには見えた。


「俺に何かようか?」


 シローが、2人に言うと


「ちっ。ばれていたか」


「ああ。だが、話しは早い。金を出せ! たんまりと金を持っているんだろう」


 2人がそれぞれ武器を取ってシローを脅す。


「お前らそれがどんな意味か分かっているんだよな?」


「当たり前だ」


 鉄のロングソードを持った戦士風の男が前に出る。戦う以外に選択肢はないようだとシローも覚悟を決めた。ラビリンス内で、襲撃された場合、返り討ちにする以外に方法はない。この場合、正当防衛だと主張しても水掛け論にしかならないため相手を倒すしかないのだ。


「宿を襲ったのもお前たちだろ?」


 シローは、戦士の剣を槍で受け止めながら聞く


「そうだ。だがな、これから死ぬお前には関係ない事だ」


 戦士の剣がシローに迫るが、シローの槍は戦士の技量よりも高い。巧みに剣を受け流し的確に槍で相手の身体に傷をつけていく。焦った戦士は、後ろで隙をうかがうスカウトにも参戦を要求する。

 舌打ちも聞こえたが、シローの後方へと回り込むように移動を始める。挟み撃ちを狙っているようだ。


(アル。スカウトを任せる)


『了解しました』


 透過しているアルハナートが、後方に回り込もうとしているスカウトの後方に回り、火魔法で作った火球を打ち込んだ。

 予想外の方向から魔法で襲われたスカウトの首から上が炎に包まれた。



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