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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
16/59

ラビリンス 16層

「もし……もし私が、パーティーやクランを立ち上げたらラビリンスを解放できると思いますか?」


「さあな。それは、ヒルデの工夫次第だろう。だれもなしえた事がない事をなしえるつもりなら、誰も考えないような事をやらなくてはならないだろうな」


「あなたは、シローは、それだけわかっていてなぜソロで挑み続けるのですか?」


「今、俺にとってソロが最善だと考えているからだ。だが、もしかするとこの先行き詰って、どこかのパーティーかクランに入るかもしれない。俺みたいな若造が、何の後ろ盾も実績もなく自分のパーティーやクランを作ろうと思っても作れないだろうしな」


 ヒルデが持っている力は、シローにはないものだ。身分や権力、金の力があれば年齢以上の事ができる可能性がだってあるのだ。


「私なら可能だと言う事ですか?」


「ヒルデが、持っている力を活かせばって意味だぞ。それに誰にでもできる事じゃないのは確かだしな。俺が立ち上げるにしてもまだ数年先になるだろう」


 ヒルデは、また長考を始める。すでに自分が描く未来をイメージしているのだろうとシローは、ヒルデを見ていた。


「一人前の冒険者とは、なんでしょうね?」


「さあな。長生きしている奴、今を生きている奴のことだろう」


 ラビリンスに挑む者で、数年も活動できていれば一人前と言えるだろう。シローの話しを聞いて少しヒルデに笑顔が戻った。


「私は、少し意地になっていたかもしれませんね。皆が私に厳しいのは、私を大切に思ってくれているからだとわかっていても反発していましたから」


「そうだな。俺からしたらもったいないくらいだ。今、俺達を監視している奴らなんかお勧めだぞ。スカウトもいるようだし勧誘すればすぐにパーティーが組めるぞ」


 冗談を言うようにシローが話すと


「そう言えばそうですね」


 クスクスと笑いながらヒルデが答える。


「さあ。ヒルデは、これからどうするつもりだ?」


「そうですね。私に足りないものがわかってきましたから、この際足りないものをはっきりさせたいですね。自分で手に入れる事ができそうなものは、研鑽して必ず手に入れます。ですが、自分で手に入れる事ができない技術や知識は、私のちからで手に入れてみせます」


 そこには、明らかに次へ向かうと言う強い意思が感じられた。


「ヒルデは、良いリーダーになるよ」


 スタイルを変える勇気と行動力は、リーダーの資質だ。シローは、彼女がそのリーダーになるだけの資質を持っているのだろうと素直に思った。


「では、指導役の先生に不足するものを教えてもらいます」


 ヒルデは、立ち上がるとすっきりとした顔でシローを誘う。シローも休憩をやめて立ち上がると探索を再開した。


 この後、2人は、1日おきにラビリンスに挑戦し、ラビリンスに魔物との戦闘前後の準備や対応、特殊な魔物との戦闘方法などラビリンスの攻略に必要な知識や技術について確認していった。




 最終日、シローがヒルデの指導を終えてラビリンスから戻る途中この数日、シロー達を監視していた2人の男がシローの前に現れる。


「お疲れさま」


 2人を見たシローがそう言うと


「ああ。まさか2日に1回もラビリンスに潜るとは思っていなかったからな」


「俺のスタイルだとそのくらい潜るんだよ」


「今日は、少しお前に話しがあって来た。少し付き合ってもらって良いか?」


 断っても良い事はないだろうとシローは、頷き、男達の後を追うようについていく。市場の中にあるそれほど大きくない酒場に連れていかれたシローは、席を勧められそこに腰を下ろす。


「まずは、お前に礼を言う。お前もある程度は理解していると思うが、お前が指導した方は、それなりの身分あるお方だ」


「持っている物や話し方を見ていいればわかるさ」


 2人の男が懐から袋を出し、どすんとテーブルの上においた。


「ギルドの報酬とは別にこれを渡す。これは、口止め料として受け取って欲しい」


 その意味は理解できるが


「こんな物は、もらわなくても俺は喋るつもりはない。仕事で受けたものだからな信頼のためにも他言するつもりはない」


「そう言うな。お前を信頼はしているが、頼む者も安心したいだけだ」


 誰が頼んでいるのかを考えると受け取る事も仕方ない事なのかもしれないとシローは思った。


「わかった。それで、相手が安心すると言うなら受け取るさ」


「助かる。これで俺達の仕事も無事に完了だ。それにしてもお前はお嬢に何をしたんだ?」


「別に特別な事をした覚えはないが?」


「お嬢は、すっかり人が変わった。俺達から見てもそう見えるくらい物言いや姿勢がわかった。どこか意地を張っていたように見えていたが、今は俺達の話しにも素直に耳をお貸しくださる」


「彼女の目的は、お前らも知っているんだろう?」


「もちろんだ。だが……」


「危険で無謀な事だと」


「そうだ」


「彼女もそれを正確に理解したんだろう。だから彼女はもう意地を張らないし無理もしないだろう。そして必要な事なら謙虚にそして貪欲に受け入れるだろうし、必要なら助けも頭を下げて求めるさ」


「お前が、そうしたのか?」


「いや。彼女が自分で気づいて考えたんだろうさ」


「そうか。なら、お前の指導で何かがかわったのだな。俺は、ブッカ、こいつはダームだ。王都で冒険者をしていたが、今はさるお方に雇われている。もし、王都に来るような事があったらギルドで俺達の名前を出せばわかるだろうから王都に来る事でもあったら声をかけてくれ。多少の融通くらいはしてやれるだろうからな」


「わかった。その時は、頼るかもしれない」


 2人は、酒場の代金を払うと大きな袋をテーブルにおいたまま席を立った。シローは、重たい袋の中身を見る事もなく背負い袋をしまうと酒場を出た。


 そのまま宿屋に戻り一泊したシローは、翌日報告のためにギルドへ向かった。ギルドにつくなり、受付にいたメイリアに連れられ個室へ向かう。以前よりは、機嫌が良いのかメイリアの顔も穏やかだった。


「まあ。色々と言いたいことはあるけど。結果的にあなたのおかげでギルドも責任を果たせたわ」


「それは、重畳だな」


 メイリアは、テーブルの上に約束していた報酬を乗せる。


「ギルドの依頼を果たした報酬よ。あと、条件どおりあなたの情報は私ができる限り、伏せる事にするわ。そして、特例としてラビリンス入り口の名簿に名前を記載する事を免除します。これで名簿などからあなたの行動を詮索する事はできなくなります。この証明書を見せれば兵士に見せるといいわ」


「ああ。頼むよ。この数日、街で余計な噂を流されて困っていたんだ」


「あなたね……。1週間で4回もラビリンスに挑んでおいて言う事じゃないでしょ」


「だが、あいつも喜んで参加していたぞ」


「もういいわ。そのヒルデさんからもあなたに礼を言っておいて欲しいと伝言されているから」


「ほう」


「最後に彼女が、あなたには、負けませんって伝えておいて欲しいと言っていたわ」


 シローは、その伝言を聞いて苦笑する。


「俺じゃヒルデには、勝てないだろうな」


 シローは、最後までヒルデが何者なのかは、聞くつもりがない。そんな立場の事よりも真摯にラビリンスに挑む、1人の冒険者としてヒルデの将来が楽しみだと思った。


(おかげで、長くラビリンスに滞在しても良くなった。俺も冒険を再開するぞ)


『了解しました。マスターが深部に至れるように支援いたします』


 アルハナートの返答にシローは、これからのビジョンをイメージする。ヒルデとの出会いは、シローにとっても今後を考える上でよい機会となった。


 ギルドを出るとシローは、これからの事を考えがらな帰路につく。


「さあ。明日から本格的に潜るとするか」

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