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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
12/59

ラビリンス 12層

 受付の女性の説明で、シローは指導役を回避できない事になる。本来であれば5年の間に1度以上引き受ければ良い義務をまだ登録から1か月で果たさねばならない。


「あの……自分の時は、指導を受けませんでしたが問題なかったんですか?」


 シローは、ギルドに入った時にこの指導は受けていない。


「あなたが、ソロで挑戦したいと言った時、私は言ったはずですよ。ソロで挑む事がどれだけ難しく大変な事かと」


 確かにシローは、登録の時にこの女性からそう言われていた。


「はい。確かにそう説明されましたね」


「このギルドで今現在ソロで挑戦している人数をご存知ですか?」


「いいえ」


「あなただけです。と言うよりも王都を含めてもソロで活動しているのは、あなただけです。ですからあなたの指導をできる者はいなかったんですよ。あなたは、クランもパーティーも断ったのですから」


 受付の女性の話しが本当なら、シローは自分が稀少な存在なのだと改めて思った。そしてなぜか少し女性の機嫌が悪いと思った。


「でも規則上、問題はないのですよね?」


「そうですよ。何も問題はありません。ですが、あなたがソロ活動をしている影響で、今回登録に来た方をこちらは説得する事ができませんでした。どう見ても危ない事をしようとしている初心者の方には、どこかのクランかパーティーに加わる事を勧めています。ですが、あなたと言う実例があると言われるとこちらもそれ以上言えませんからね」


 シローの活動自体が、冒険者ギルドでは問題のようだ。別にシローが悪い事をしているわけではないが、ソロでもラビリンスに潜る事ができると言うイメージを他の者にも持たせてしまっているのだ。


「まさか。その責任を俺にとれと?」


「そこまでは言いませんが、あなたの影響が今回の発端です。ですからソロがどれほど大変なのかをあなたが指導すれば、その方もあきらめてくださるとこちらは思っています」


「と言う事は、指導と言うよりも、ソロがどれだけ大変かを教えろと言う事か?」


「そうとっていただいてもかまいません」


 確かにシローは、受付の女性が言うようにソロで挑戦する事の厳しさや課題は、嫌と言うほど理解しているつもりだった。シロー自身もアルハナートと出会わなければ、いつかどこかのパーティーかクランに加わっていたかもしれない。


「俺まだ1か月しか経験がないのに指導できるのですか?」


「あなたが、この1か月の間に何回ラビリンスに潜ったかをこちらは把握しています。無事に1か月の間、ラビリンスから戻って来れた経験やその厳しさを伝えていただければ、それで結構です」


 シローは、ラビリンス入り口の名簿を管理しているのが、ギルドだと言う事を改めて理解する。あまり、おかしな潜り方をすれば余計な事を勘ぐられる可能性を知れたのは、シローにとっても勉強になった。もし、知らずに1人で1週間も潜れば、ギルドに怪しまれるだろう。

 頭の中で今後の事を考え始めたシローに


「それで、受けてくださいますか?」


「ああ。わかったよ。これで義務も果たせるならそれでいいさ」


「では、明日、もう一度ギルドまでお越しください。その方をあなたに紹介しますので」


「確認だが、どうやって指導してもいいのか?」


「そうですね。1週間の間に最低でも1回はラビリンスに潜っていただければ結構です」


「装備とか食糧とか入場料は、そいつ持ちでいいのか?」


「もちろんです。準備からすべて本人にしてもらわなければ意味がないですから。シローさんは、彼女かのじょが無事に戻れるようにだけ配慮してください」


「ちょっと待て……今、おかしな情報があったぞ」


 明らかに受付の女性の目が泳いでいる。視線を合わせようとせずにとぼけているが、シローはそれを許さない。


「まさか。ソロで挑みたいってのは、女じゃないだろうな?」


 女性の冒険者は、男性に比べると圧倒的に少ない。比率にすると9対1くらいだろう。夫婦でペアを組み挑む者やクランによっては、数名いる事もあるが、それは魔法使いやスカウトが多い。


「な、何か問題でも?」


 そう。別に問題はない。


「あのな。いくらなんでも俺は、女連れて行く勇気はないぞ。明日から他の皆になんて言われると思っているんだ?」


「そ、それは……」


 シローもさすがに若い女を連れてラビリンスに行くとは思っていなかった。ただでさえ、ソロでラビリンスに挑む事で目立ってしまっているシローが、ある日、女連れでラビリンスに籠れば周りの者が、それを面白おかしく伝えるだろう事は想像に難しくない。

 事実、受付の女性もそれを想像できるものだからうまい返答ができなかった。


「なあ。もしかして、もう相手に俺が受けると言っているわけじゃないよな」


 シローの詮索に受付の女性は、さらに気まずそうな顔をする。


「俺が更新にそろそろ来ると見越して、向こうに約束を取り付けてしまっているとかないよな」


 変な汗をかき始めた女性を見てため息をつく


「条件がある」


 シローの申し出に受付の女性が喰いついた。


「な、何を条件にするつもりですか?」


「ギルドが、俺の行動を名簿なんかを使って把握しているのはわかった。管理する以上それは仕方ないしな。だけど、俺にも秘密にしたい事がたくさんあるし、それを周りに知られたいとは思っていない。だから、これから俺が一人でラビリンスに潜った日数や状況は、できるだけ伏せて欲しい」


「どう言うことですか?」


「簡単に言うと俺の情報を隠蔽してほしいと言っている。これ以上目立つと余計な詮索をされて迷惑だ。変な奴にまとわりつかれても困るしな。だからギルドの力で俺が大した活動はしていない事にしてくれないか? そうすれば今回みたいな馬鹿な奴も現れないだろう」


「そ、それは確かにそうですね。あなたが、あまり目立つとまたソロを目指す人が出てきますからね。それに目立てばそれだけ他の人からの妬みも増えますしね。わかりました私の方で何とかしてみます。できるだけあなたに関する情報は隠蔽するように心がけますから先ほどの件は受けてください」


「わかりました。その条件が通るなら俺も覚悟してやりますよ」


 受付の女性は、ほっとしたような表情を見せシローの条件を受け入れる。シローにとっては、これからの事を考慮するとこの条件は悪いものでなく、言質を取っただけでも意味があった。


「じゃあ。さっき話したように明日ギルドに来てちょうだい。明日のそうね朝食後くらいがいいわ」


「了解。最後にもう一度あなたのお名前を聞いてもいいですか?」


 一度、聞いているはずだが記憶になかったので確認する。


「あら。紹介してなかったかしら。このギルドでサブマスターをしているメイリアよ。覚えておいてね」


 シローは、その立場を聞いて少し驚いたが、先ほどの条件を自分の判断で対応できる事を考えればそれなりの地位にいるのだろう。


「じゃあ明日」


 シローは、要件を確認してギルドを後にする。宿屋への帰り道に今後の事をアルハナートと確認する。


(アル。明日から1週間の間の事だが、しばらくラビリンス1層あたりで訓練する事になるだろうな)


『マスターのお考えに従います』


(助かる。アルには、ラビリンス内の索敵で協力してほしい。どちらにしても1週間の間の辛抱だ。アルもアルの力も見せるわけにはいかないからな)


『ご苦労をお察しします』


(しばらく日帰りでラビリンスに向かうよ)


『1週間に何回くらい潜るのですか?』


(そうだな2日に1回ペースだな)


『マスターのペースにその方が、ついてこれるかはわかりませんが、了解しました』


 アルハナートが懸念するように他の冒険者が、ラビリンスに向かう頻度はシローよりもはるかに少ない。週にに1回くらいの者が多く、浅い層へ日帰りで行く者でも週に2回くらいが一般的だ。長い滞在を前提にしたクランなどでは、ラビリンスから戻ると1週間程度休息にあてるのが常識だ。精神的な疲労や疲れを十分にとるにはそれくらいかかるのだ。


「さあ。帰って明日に備えて寝るか」



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