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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
11/59

ラビリンス 11層

「どうしてこんなに俺に親切にしてくれるのですか?」


 シローは、常々聞いてみたいと思っていたことをこのタイミングでアリヒアにぶつける。


「あら。シローは、親切にされるのは嫌い?」


「いや。そんな事はないが……」


「私ね。昔は、あなたと同じ冒険者だったのよ」


「え?」


 アリヒアの話しは、少し予想と違うものだった。


「この宿の厨房の人も、今私を呼んでくれた人も一緒にパーティーを組んでいたわ」


「……」


「いつか自分たちのクランを立ち上げて有名になるって決めてね。毎日のようにラビリンスに潜っていたの。私達は、6人パーティーだったわ。それなりに頑張ってお金もだんだんたまってきたとき、少しだけ自信がついて欲が出たの。もう1層降りてみようってね。そうしたらその1層下でパーティーメンバーの2人を失ったわ。残った人も怪我して戦えなくなった者と心に傷を持ってしまった者になったわ」


 シローは、静かに話すアリヒアの目がいつも以上に寂しく見え、彼女がどんな想いでそれを受け止めたのだろうかと考えた。


「その後、パーティーは解散。残ったメンバーでこの宿を始めたの。時々ね、あなたみたいな若い子に忠告してあげているのよ。油断は死を招く、自信は敵だってね。ラビリンスは、そう言う場所なんだって」


「わかっていたつもりでしたが、アリヒアさんに言われて実感しました。油断や慢心がないように心がけます」


「そう。それでいいわ。あなたはどこか見どころがあるから。早く死んでほしくないと思ったのよ」


 シローは、金言に感謝し、暖かいスープを胃の中に入れる。


「色々と勉強になりました。きちんと準備も必要だし、もっと経験をつまないと下層へはいけませんね」


「そうね。下層は本当に危険よ。しかも今あなたは、ソロなんだからできる事だって限られるわよ」


 ソロでラビリンスの下層を目指す者は、ほとんどいない。その理由は、2日潜ってはっきりと理解した。食事と睡眠の問題ももちろんだが、睡眠時の警戒や罠の回避をどうするか、物理攻撃の効かない魔物をどうするかと1人では解決できない課題が多い。


「そのうち良い仲間を見つけますよ」


 現状、アルハナートがいるからその予定はないが、そう答えておいた方が安心されるだろう。


 食事を終えたシローは、部屋の鍵を受け取るとすぐに部屋に入りベッドに転がった。寝袋と違いやはりベッドはゆったりと寝ることができる事を再確認する。


 少し微睡かけたが、ふと鑑定魔法の事を思い出し、ラビリンスから持ち帰った物の鑑定作業を始める。2日間で手にしたアイテムは、30個程度だが金になりそうもない物は、ラビリンス内に捨ててきた。鑑定が済んでいなかったいくつかのアイテムの鑑定を終えるとベッドに転がるように潜り込みそのまま寝息をたてはじめる。


 翌朝、アリヒアに手に入れた物を換金する事を伝え、宿を出たシローは、市場へと向かった。ショートソードや短剣、盾、皮鎧と言った武器や防具で余っているものを売り払うとそれなりの現金ができた。同じ店でたくさん売ると出所やおかしな噂の元になるため、シローは小分けにして売却する。ソロのくせになんでこんなにアイテムを持っているなどと噂されれば余計な詮索を招くとシローは考えたからだ。


 不要なアイテムを売り払い身軽になるとシローは、ふと大切な事を思い出した。そう言えば最近ギルドに行っていない。確か月に1度は、所在を確認すると言っていたが間もなくこのラビリンスに来て1か月になる。


「仕方ないな顔だけ出しておくか」


 冒険者ギルド、すなわち冒険者支援組織の事をこの国ではそう呼んでいる。国家施策でもある冒険者の育成は、国の人口対策、労働対策を兼ねているためギルドは国営となっている。

 今、国では土地の開墾が進む速さよりも早く人口が増加しているが、労働する場所が比例して増えるわけではない。労働する場所がなければ、食べる事に困り貧困や治安の悪化につながる。そうなれば最悪暴動や革命すら起こしかねない。

 国は、その対策としてラビリンスへ潜る冒険者を奨励して雇用の場と生活手段を確保しているのだ。一攫千金を夢見る事のできる冒険者と言う職業は、一見華々しくも見え、貧しい者達にとっては人生を変えるチャンスにも映る。


 しかし、実際は、ろくな戦闘技術も知識も持たない市民が、素人丸出しで魔物の巣に入っていくと言う無謀な試みなのだが、体裁を整えるため国は、ギルドを通じて冒険者の養成訓練など様々な支援を行っている。


 主な役割は、冒険者の登録管理、冒険者の資産の預かり、冒険者の訓練、クエストの発注などだ。特にペア以上で活動する場合には、資産の預かりは重要なサービスだ。パーティーやクランの活動費を預けたり、資金をまとめて預けたい場合には便利なサービスだ。毎回お金を持ってラビリンスに潜るわけにもいかないし、信頼できないところに預ける事は誰だってしたくないのだ。


 また、登録管理の一環として月に1度、ギルドカードの更新を義務付けているのは、そのラビリンス毎に登録できる上限人数を設定しているからだ。1つのラビリンスに膨大な人数が押し寄せれば余計なトラブルを起こしかねないための配慮だ。怪我や引退などで攻略を一定期間中止する場合などは、ギルドにその旨報告しておけば、いつでも再び再開することができる。


 シローは、この手続きを必要としており、今、探索中のラビリンスに登録しているため月に1度更新する必要があった。


 シローは、空になった背負い袋を担ぎ、ギルドへと向かう。市場からそれほど遠くない場所にあるギルドの扉を潜ると長いカウンターに数人の職員が受付を行っていた。

 シローは、その1つに並ぶと自分の順番を待つ。


「次の方どうぞ」


 職員の女性から声をかけられ前に出る。


「シローだ。更新をしたい」


 懐からギルドカードを出し受付に渡す。確認すると間もなく前回登録してから間もなく1か月となる所だった。


「はい。受付完了です」


 シローは、受付の女性からギルドカードを受け取り、ギルドを後にしようとしたが


「えーとシローさんは、ソロでしたよね?」


 呼び止められて振り向いた。


「それがなにか?」


「少しよろしいですか?」


 何やらやっかい毎の感もあるが、シローもギルドとは、もめたくはない。受付の女性に誘導されて別室へと連れて行かれる。打ち合わせや面接が、できそうな小部屋に案内されたシローは、受付の女性が指差した椅子に腰をおろした。


「それでなにか?」


「実は、少しお願いがありまして」


「お願い?」


 受付の女性は少し困った顔をして


「実は、ソロで活動する事を希望する新人さんがいるのですが……」


「それが何か?」


「少しの間で良いのですが、その方の指導をしていただけませんか?」


「俺がですか?」


「はい。実はソロで挑む方は、全体でみると大変少ないのです。普通ならどこかのパーティーかクランにお願いして実戦経験をと思っていたのですが、ソロで挑む事を強く希望されていましてわざわざ王都からいらしています。その方には、ソロでの挑み方を指導してもらえる人が必要なのです」


「あのですね。自分の時には、指導なんてありませんでしたよ。別に誰かの指導がなくてもちゃんと考えればわかる事です。それに俺だってまだこのラビリンスに潜るようになって一月ですよ。まだ指導できるような経験はありませんよ」


「ですが、すでにラビリンス内での宿泊も経験されたのでしょう?」


 どこから情報を得ているのか目の前の受付の女性は、シローがラビリンスに1日滞在した事をすでに知っていた。シローは、昨日の今日で情報が来ている事に驚く。


「確かに昨日、ようやく1泊する事はできましたが、それだけですよ」


「それが、どれだけ大変な事かは、十分知っています。だからシローさんに指導を頼みたいと思ったのです。期間は1週間。報酬は、1日当たり1000G。最終日に指導状況に応じて加算させていただきます」


 受付の女性は、有無を言わさぬ展開でシローを追い詰める。報酬の事はどうでも良いが、面倒事はごめんだとシローは思った。


「できれば避けたいですが、どうしても受けないとだめですか?」


「確かギルドカードを渡す時に説明したはずですが、ギルドに登録すると5年に1度、後輩の指導をする義務を負うのよ」


 シローは言われてようやくそんな説明があったことを思い出した。




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