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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
10/59

ラビリンス 10層

 ゴーストを倒した宝箱からは、期待に応えてくれたのか槍が出た。宝箱自体が異様に横長な箱だったのでそんな気はしたが、宝箱は、中身に応じて大きさが違う。本などが入っている宝箱は、30cmくらいの小さな宝箱だが、槍が入っていた宝箱は、横幅が異様に長い箱だった。


「アル。ちょっと周囲を確認してくれ。このまま鑑定してしまうから」


『了解しました』


 アルハナートに周囲の警戒をゆだね。シローは、目の前の槍に集中する。


「これは……鉄の槍 呪い無し」


 特に良い物ではないが、2層までには槍は出ていなかったので、シローは初めて槍を手にする事になった。


「少し使ってみるかな」


 槍と言っても短槍に部類するだろう槍をシローは、突いたり払ったりと動きを確かめる。


『マスター。経験がおありなのですね』


「いや。今日初めて触ったんだぞ」


『そのわりには、玄人のように扱われているように見えますが』


 確かに槍を手にした時からしっくりとくる感じもある。習った事もないのに突き払いなどのイメージがなんとなくあった。


 ショートソードを収納に納めるとシローは、槍を手に探索を再開する。


「なあ。アル。貴重なアイテムが出やすい稀少種ってどのくらいの確立で見つかるんだ?」


『稀少種は、およそ100体に1体と言う確率でしょうか。運がよければよく会いますが、運が悪ければ滅多に会う事はないでしょう』


「そうか。なら俺は運が良いほうだな」


 シローは、まだラビリンスに来て100体程度しか倒してないのにすでに3体の稀少種を見つけて倒している。


『マスター。前方に罠です。注意してください』


「何の罠だ?」


『落とし穴系の罠です。床が抜けますので通路の淵をお進みください』


 アルハナートの指示に従い通路の淵を歩く。確かに言われてみれば床面にどこか違和感を感じる。落とし穴を回避したシローは、通路をさらに進む。罠は、長年ラビリンスに籠っていれば、戦士などでもある程度は、見つけ回避する事ができる。シローは、鑑定魔法が使える事もあって集中さえしていれば、自分でも罠を見つける事が可能だ。


「今日は3層をある程度マッピングしたら一度戻ろう。徐々に身体を慣らしていきたいしな」


『賢明な判断と思います』


 シローは、アルハナートがいてもまだ無理はできないと考えている。太陽の光を浴びずに長期間ラビリンスに籠る事に身体が慣れないと疲れも抜けず、集中力なども保てないと考えたからだ。寝る時間や起きる時間、食べる時間もラビリンスの中では、わかりにくく狂ってしまうため知らず知らずのうちに体調を崩すのだ。


『マスター。通路の先に魔物がいます』


 アルハナートからまた魔物がいる事を告げられる。


「あれは、ゴブリンか?」


『はい。間違いありません。ゴブリンが3体です』


 ゴブリンも浅い層で出てくる魔物として有名だが、いきなり3体と言うこれまでの最高数を相手にする事になった。


「アル。強化魔法を頼む」


 念のためにとアルハナートに強化魔法をかけてもらい。シローは鉄の槍を構えた。アルハナートの強化魔法によりシローの身体が光に包まれると、ゴブリンに向けて走り出す。

 ゲギャゲギャとうるさいゴブリンは、それぞれが手にこん棒のような物を持っている。リーチは短いがもらえばただでは済まないダメージを受けるだろう。

 シローは、速度に物を言わせ、こん棒を持って殺到してくるゴブリンを突き殺していく。今日、持ったばかりの槍だが、リーチを生かして的確にゴブリンの胸を貫く。突いた槍をすぐにひねるようにして引き抜くと次のゴブリンを狙う。最初に胸を貫いたゴブリンが前倒れに崩れる頃には、次のゴブリンの首に槍が突き刺さっていた。


「もういっちょ!」


 シローが、そう言うと3体目のゴブリンの胸に槍を突き突き刺さった。3体のゴブリンも身体能力を高めたシローならそれほど難しくなく倒すことができる。シローは、槍の先を確認しながら


「いいな。槍はリーチもあるから勝手がいいかもしれない」


 槍の使い心地に満足したシローは、槍の動きを確認しながら動作のおさらいをする。ゴブリンを倒した後には、1つの宝箱が残った。


「宝箱は1つだけか」


 少し寂しく感じたが、いつもどおりアルハナートに確認をしてもらい。罠がないと聞いたシローは、宝箱を開けた。


「鉄の盾か」


 重たいが、防御力の高い盾は、それなりの値段で売れるだろうとシローは考えながら、アルハナートの収納にしまう。これで、この日手に入れたアイテムも十個を超えた。


「アル。そろそろ戻るから帰り道を指示してくれ」


『了解しました』


 アルハナートに誘導されながら罠を回避したり、帰り道で遭遇する魔物を倒す。シローにとって最長となるラビリンス滞在に少し疲れを感じ進む足取りも重い。


「思いのほか疲れたな」


 緊張感と集中を必要とする時間が、シローの疲労を蓄積している。ようやくラビリンスの入り口に着いた頃には、ほとんど無言となっていた。

 ようやく地上に戻り、兵士に帰還を伝える。


「無事に戻ったか? どうだったラビリンスの宿泊は?」


「いや。かなり疲れたよ」


「なんだ。荷物もないところみると疲れて置いて来たのか?」


 シローは、うっかり収納の事を忘れており手に槍を持っただけの手ぶらでラビリンスから出てしまった事を後悔する。


「あ、ああ。中で魔物と遭遇した時に落としてしまったんだ。もったいなかったよ」


 シローは、咄嗟にうそを言ってごまかした。


(アル。すまないが、次からは、ダンジョンを出る時に適当に背負い袋にアイテムを幾つか入れて出るようにしたいから忘れていたら声をかけてくれ)


『了解しました』


 シローは、ラビリンスを出てしばらく進むと人のいない場所へ移動し、アルハナートの収納から背負い袋といくつかの販売用のアイテムを出して袋に詰める。これでシローは、ラビリンス帰りと説明ができるようになった。


 買取をしているような店は、夜間は閉店しているため売る事もできず背に重たい荷物をしょったシローは、疲れた体を引きずるように宿屋のある区画に進む。

 日付が変わるような時間に開いている店など酒場と宿屋くらいだ。シローは、アリヒアの宿屋まで来るとその中に入っていく。


 遅い時間の客も珍しくない宿屋には、夜間にも誰か彼かいるのだ。シローが、宿屋に入ると不愛想な男がカウンターの中にいた。


「遅い時間にすまない。部屋はあるか?」


 シローがそう言うと


「姉さんを呼んでもいいか? お前が来たら起こせと言われている」


「起こすのは申し訳ないが……」


「姉さんの問題だ。少し待て」


 不愛想な男は、表情も変えずにカウンターの中へ行った。ほとどなく、簡単な上着を着たアリヒアが現れる。


「シロー。無事に戻ったのね」


「あ、ああ。おかげでこの通りだよ」


 背負い袋を重たそうに見せるとアリヒアからそんな事じゃないと言った声がかかる。


「冒険者はね。みんなそう言うのよね。そして、ある日いつも通り出かけて帰らなくなるの」


 どこか寂しそうな顔をするアリヒアを見て、改めて考える。有名クランにまでなった男達でさえ、1度の冒険で全滅する事だってある。


「ああ。わかっているよ」


「本当かしら? それと簡単なものしかできないけど夕食食べるでしょう?」


「いいのか。もうこんな時間だぞ」


「あなたが戻るかもしれないと思ってね。少しだけ用意していたのよ」


 こんな事を女に言われたら、男はころりといってしまうかもしれないなとシローは思った。


「じゃあ。遠慮なくお願いします」


「ええ。少し待っていてね」


 シローは、誰もいない食堂の席につきアリヒアを待った。少し待つと温めたスープを持ったアリヒアが現れ、シローの前に並べる。


「はい。どうぞ。暖かいものが食べたかったでしょう?」


「そうだな。ほっとするよ」


 実際には、アルハナートのおかげでラビリンス内でも暖かい食べ物をとっていたが、周囲を気にせずに食べたり寝たりする事は難しかったので、ゆっくりと暖かい食事ができる喜びは得難いものだ。



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