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迷宮奇譚  作者: 山と名で四股
迷宮に挑みし者
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ラビリンス 1層

 自分の両親? 故郷?


 記憶のない者には縁のない話だ。


 いつからこんな事をしているのかって?


 記憶のない者には意味のない話だ。







 暗がりから現れた人の大きさくらいある蟻の魔物が、ギチギチと歯を鳴らす。蟻酸の射出に注意しながら慎重に間合いを詰め、相手が蟻酸を吐いた瞬間にその蟻酸を避けて懐に飛び込む。

 使い回しのよいショートソードを蟻の関節に突き入れ、捻るとパキリと音を立てて前脚が落ちた。それでも蟻の魔物は、痛みを感じた様子もなく、鋭い爪でこちらの追撃を牽制する。油断することなく間合いを取り、再び相手の出方をみる。蟻の落とした腕からは、ボタボタと緑色の体液が落ちる。


 先に動いたのは、蟻の方だ。懲りずに蟻酸を浴びせてくるが、同じ攻撃を繰り返すだけで回避は難しくない。再び蟻酸を回避し、間合いを潰すと今度は、ショートソードを腹部に突き刺した。柔らかい部分にズブリと突きささった剣を抜き取ると腹からドロリと体液がこぼれる。動きが鈍った蟻の首をショートソードで切りつけると首が、ゴロリと転がった。ビクビクと体は、しばらく動いていたが、やがて動かなくなり光と共に消え、そこに宝箱が現れる。


「ふう」


 手で汗を拭いながら周囲の安全を確認すると、現れた宝箱を開ける。一応罠がないか宝箱を開ける前に念入りに調べたが、罠らしいものは確認できなかった。


「お、悪くないな」


 箱の中には、ショートソードが入っていた。戦闘前に床に置いていた背負い袋にショートソードを詰める。背負い袋の中には、この日の収穫がしっかりと収まっている。


「よし。荷物もこれ以上持ち帰るのは厳しいし、戻るとするか」


 重たくなった背負い袋の中身に満足しながら暗い道を進む。マッピングスキルがあるため迷う事はないはずだが、何があってもおかしくないこのラビリンスの中では、あらゆる油断が死へ直結するので常に注意が必要だ。

 シローは、数個の罠を回避し、ようやくラビリンスの入り口まで戻るとさすがにその緊張状態から解放される。数時間ぶりに浴びた太陽の光も体に気持ち良かった。


「お、ご帰還だな」


 ラビリンスの入り口にいる兵士が、ラビリンスから出てきた男に気がつき、慣れた手際で帰還を確認する。ラビリンスに入るときに記入した名簿に帰還確認をつけると男は軽い挨拶をしてラビリンスを後にする。


 ラビリンスと呼ばれる迷宮の入り口から少し歩くと、色々な物を販売する露店やラビリンスから手に入る様々な物を買取りする買取屋と呼ばれる男達がいる。


「おう! 無事に戻ったようだな」


「ああ。おかげ様でね」


「何かめぼしい物は、手に入ったか?」


「まあ。ぼちぼちですよ」


 社交辞令のようなやりとりをして露店の前を通りすぎる。露店のある区画から徒歩で10分ほど歩くとラビリンスへ挑む冒険者たちを相手にする宿屋が立ち並ぶ区画があり、その区画の中にある宿屋の一つに入っていく。


「あら。シローおかえりなさい。今日も無事だったみたいね。すぐに食事にする?」


「ええ。お腹が減ってますからね。夕食をお願いしますよ」


 この2週間ほど宿泊している宿屋の妙齢の主であるアリヒアが、厨房にいる男に声をかける。宿屋の一階は食堂にもなっており、シローはその席の1つに腰を下ろし背負い袋をその隣の席に置いた。

 アリヒアは、値踏みするようにシローの身体をまじまじと見る。


「今日もケガはなさそうね。それにまた少し強くなったかしら?」


「どうでしょうね。後でゆっくりと確認してみますよ」


「あなたのようにずっと1人で挑む人は、珍しいから私興味があるのよね」


 シローを見つめるアリヒアのまっすぐな目を避けるようにシローは、視線を泳がせる。スタイルが良くどこか煽情的なアリヒアの容姿が目の前にあるとシローもどきどきしてしまうのだ。


「うふふふ。純情なのよね」


 からかうようにシローを見ていたアリヒアの視線からようやく解放されると奥から食事を運んでくる男の姿があった。今日の夕食は、暖かいスープと少々硬めのパン、それにサラダがついている。


「ありがとうございます」


 シローは、食事を運んできた男に礼を言うと運んできた男も軽く会釈して戻っていく。1人で黙々と夕食を胃袋に運び一気に夕食を食べ終える。今日、朝の食事以降、食事らしい食事は、摂っていないのでとても美味しくいただくことができた。


「ふう。ごちそうさま」


 シローは、夕食を食べるとすぐに自分の部屋がある2階へと移動する。自室となっている部屋の前まで行くとドアの鍵を開けて部屋に入る。中には、ベッドと机、椅子が1つずつ置かれており、しろーは机の上に背負い袋とショートソードを置いた。疲れた身体をパキパキと鳴らしながら軽いストレッチをする。


「よし。さっさと確認するか」


 ドアの向こうの気配を確認し、シローは部屋のドアに鍵をかける。誰も自分を観察する者がいない事を確認できたシローは、意識を集中するように一点を見つめる。

 雰囲気が先ほどまでのシローと少し変わり集中状態になる。


「さて、今日の収穫を確認するか」


 シローは、背負い袋の中から今日ラビリンスで見つけたアイテムを一つずつ出し、机の上に並べていく。長短はあるが、剣類が3本と怪しい液体が入った瓶が2つ、本が1冊、草のような物が数束。


「まずは、何かの草の束だな」


 シローは、右の掌を何かの草に向け目を閉じる。すると右手が光だしその草を包み込んだ。数秒ほどかかったが、光が消えると鑑定作業が終わった。


「月夜草か」


 月夜草は、ラビリンスだけで入手できると言う草で、状態異常を治すためのポーションの原料となる。それほど珍しい物ではないが、需要が高いためそこそこの値段で取引されている。


 鑑定を終えた月夜草を一端テーブルの端によけ、次の草の鑑定作業へ移る。このような鑑定作業は、通常なら専門店が行っているが、シローは自分でアイテム等の鑑定をする事が可能だ。

 シローは、魔法で鑑定できる事を他の人には秘密にしているのだが、それにはいくつかの理由がある。まず、その鑑定方法なのだが、専門店にいる者は、自分の経験と図鑑などの本を活用してそのアイテムが何であるのかを調べるのだが、シローは、魔法で行う。通常の鑑定と呼ばれる作業と魔法による鑑定の違いは、その精度はもちろんだが、呪いの有無や魔法で強化されているかどうかなどを確認できる点で大きく違う。


 事実、短剣を鑑定してもらう際、通常の鑑定ではせいぜい「鉄の短剣」と言う事がわかるだけで素材くらいしかわからないが、シローの魔法による鑑定では「鉄の短剣+1 呪い無し」と言うレベルで鑑定することが可能だ。そしてこの「+1」の部分については、その物の出来の良さを現すためのものだ。+と出れば同じ物であっても出来の良いもので-と出れば不出来な物と言える。「+1」でやや優良、「+2」で優良、「+3」でかなり優良と言える。同じ武器でも「+3」の物と「-3」の物では、別物と言えるほどの差が生じるのだ。


「月光草か。これはいいな」


 月光草もラビリンスだけで入手可能な草で、石化を解くためのポーションの原料となる。石化は、ラビリンス内にある罠や魔物の特殊攻撃で起こり得るのだが、毒や麻痺と違い解くことが難しいため貴重な物だ。当然、取引価格も高い。


「さて、次は剣類だな」


 再びシローは、鑑定作業を行う。


「鉄の短剣+1、呪いなしか。まあ、こんなもんだな」


「次は、お! 星降る鉄のショートソード+2 呪いなしか、星降るって事は斬撃強化だな、これはなかなかの逸品だぞ」


 2つ目の剣を鑑定したシローが、少し興奮しながら剣を眺める。出来の良さもさることながら魔法で強化された武器は、通常の武器よりも効果が高いからだ。通常、武器屋などで行われる鑑定では、どのような魔法がかかっているのかわからず実際に使って自分で感じるしかない。魔法鑑定ができる者は、この世界にシローの他にいないのか、このような鑑定があると言う話をシローは聞いた事がない。ひょっとすると、王都に住む高名な魔法使いか賢者ならできるのかもしれない。

 そのためせっかく優秀な魔法がかかっている武器も普通の武器のように扱われ、逆に呪いがかかっていても気づかずに使っているものが多い。


「これは、自分で使う武器としてとっておくか。ショートソードは使い勝手がいいしな」


 その後、3本目の鑑定を行ったが


「胴のショートソード-1、呪いあり、これはダメだな」


 アイテムの呪いとは、装備すると機能低下するようなアイテムの事を言う。呪いのかかった武器を持って戦うと集中力の低下や身体機能の低下などを招くのだ。装備すると外せなくなると言った事はほとんどないが、知らずに呪われた武器などを所持していると大切な時にミスを犯すことにつながる。

 良い武器だと信じ込んで使っていると思わぬところで死を迎えるため呪いと表現されているようだ。せっかく良い武器を手に入れたのに苦戦するようになると皆はその武器が呪われていることを疑うのだが、この呪いの有無を調べる事も魔法鑑定以外では実際に使ってみるしかないのだ。  




拙い駄文ですが、お付き合いいただければ幸いです。

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