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満月の夜  作者: 桐生初
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安田少年発見

本日最後となるのは、安田少年宅である。


 母親は在宅しており、快く話に応じてくれた。


 刑事に対する手厚いもてなしから、息子の発見に期待を寄せているのが分かる。


 「失踪当日、来客などがあった様子はありますか。」


 「いいえ…。あの当時も刑事さんに聞かれたんですけど、そんな形跡はありませんでした…。一人で置いて行かなければ、こんなことには…。」


 月日は流れても、母親の苦悩は終わる事は無いのだろう。辛そうに答えた。


 「中学生にもなれば、親と出掛けるのも嫌がるようになるものだと思いますよ。」


 甘粕はそう言って慰めた後、安田少年の部屋を見せてもらった。


 素晴らしく片付いている。

 本棚の本もきちんと整理されて並んでいるし、大きさも揃えられている。

 机の上も、参考書や教科書が系統立てて並べられ、ペン立てに入っている筆記用具も、色別、種類別に分類されており、几帳面さが窺えた。


 「部屋の片付けは裕翔君がされていたんですか?」


 「はい。私なんかより片付け上手で…。いつも言わなくても綺麗にしていました。」


 安田少年が失踪したのは、夏の暑い盛りである。こういう几帳面な子なら、来客があったら、飲み物の類いを出すのではないか…。


 「キッチンに、何か不自然な点はありませんでしたか。どんな些細なことでも構いません。」


 甘粕が言うと、母親は迷いながら答えた。


 「ええっと…。あの、本当にくだらない事で、私が仕舞い忘れただけかもしれません…。」


 「構いません。教えてください。」


 「あの…。コップが二つ、冷蔵庫の近くの作業台に出ていました。裕翔は私が出しっぱなしにしていても、仕舞う子なので、私が入れ忘れていたのだと…。」


 だとしたら、母の留守中に仕舞うはずだ。

 来客は在ったのだ。

 そして、その客は福井である可能性が非常に高い。


 「福井君はこの家に遊びに来た事はありますか?」


 「はい。何度か。庭が好きだと、私の花を褒めてくれて、来ると必ず庭を歩き回っていました。」


 「庭…。」


 甘粕は二階の窓から、眼下の庭を見つめた。


 「ちょっと拝見してもよろしいですか?」


 「どうぞ。」


 甘粕は庭に出て、当時の福井の背丈ぐらいにかかんで、辺りを丹念に見回した。

 福井の性質から考えると、庭に出ていたのは、花を観賞する為でも、庭を楽しむためでもないだろう。

恐らく、犯行場所を探していたのだ。

 福井は安田少年の家族が出掛けた事を確認し、安田少年を訪ねている。

友達を出迎え、飲み物を用意しようとした安田少年に声をかけ、コップを仕舞うゆとりすら与えず…。


 ー庭に誘い出した…。


 甘粕は殺害現場になりそうな場所を探し、ガーデニングの為の水道に目をやった。

 一般敵な物で、蛇口の下は、鉄枠の蓋がついて、地面からは五センチ位高くなっている。


 「この辺の水場のルミノール反応などは、当時調べていますか?」


 「いえ。調べて頂いてません。」


 もう二年近く経っている。今更調べても何も出ないだろう。

 甘粕はしゃがみ込んで、鉄枠の中を覗き、鉄枠を外した。


 「裕翔がいなくなってから、ずっとお掃除してないんです!汚いですよ!」


 「大丈夫ですよ。」


 それならば、逆に都合がいい。

 毛髪のような塊がある。


 「夏目。」


 「はい。鑑識呼びました。」


 そして甘粕は水道の前にしゃがんだまま、周りを見回した。


 家の下部分には大きめの通気口がある。

 通常、この手の家の下にある通気口は、縦十五センチ、横二十五センチ位の大きさだが、この家のは、土台を高く上げてあるせいか大きめで、縦三十五センチ、横は四十五センチ位あった。甘粕は通気口の鉄柵を外し、スーツの上着を脱いで、身をよじらせながら中に入った。

背の高い甘粕でも、どうにか入れる。

成長期段階の子供なら、やすやすと入れるだろう。


 中に入ると、地面からの高さは一メートルちょっとあった。


 甘粕は注意深く懐中電灯で、床下をくまなく照らした。

 大分奥の方に、土が盛り上がっている部分がある。

 嫌な予感がしながら、土をどけると、人骨らしき物が見えた。


 「甘粕さん…。柊木先生も呼びますか…。」


 「ああ…。」


 やはりとは思ったが、これが正真正銘の人骨で、安田少年のものだと分かったら、両親は息子の死体の上で、息子の生還を信じ、待ち続けていたことになってしまう。

この先母親は生きて行けるのだろうかと、胸が痛んだ。


 夏目と共に土だらけになって出てくると、既に到着して、水道の鑑識を始めていた、鑑識班班長の幸田の元に行った。


 「毛髪と屍蠟化した肉片が出たぜ。」


 「人間の物ですか?」


 「それはまだちょっとな。」


 頷いた後、幸田に、中の鑑識を頼んだ。


 中に入った幸田が、しばらくしてから出て来て、甘粕に告げた。


 「人骨だ。若えな…。十一歳~十四歳ってとこだろう。」


 「そうですか…。」


 「若干変色してるが、ガイシャが着てるのは、オレンジ色のTシャツに、カーキ色の半ズボン。裸足だ。」


 失踪当時の安田少年の格好だった。


 甘粕は幸田に礼を言うと、不安そうに見守っていた母親の元へ行った。 

 父親も帰宅しており、母親を庇う様に肩を抱いて一緒に立っていた。


 「床下から人骨。水道の下から、屍蠟化した肉片が見つかりました。人骨が着用していた衣服は、オレンジ色のTシャツにカーキ色の半ズボンで、裸足の状態です。年齢は恐らく十一歳~十四歳かと思われます。」


 「ど…、どういうことですか。裕翔なんですか…。」


 震える声で聞く母親に、甘粕は辛そうに言った。


 「状況的にはそう思われますが、DNA検査をしてみない事には、はっきりとは申し上げられません。」


 「そ…そんな…。どうして…。誰かが裕翔を殺して、床下に隠したってことですか?私たちは裕翔の上でずっとあの子の帰りを待ってたという事ですか…?」


 そう言いながら泣き崩れてしまった母親を支えている父親も震えていた。


 この瞬間が一番辛い。

 甘粕は辛そうな顔のまま目を閉じ、夏目と共に深々と頭を下げた。


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