表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満月の夜  作者: 桐生初
5/27

遠藤京子のノート

甘粕と夏目が戻って来た。


「やはり、福井達の担任の、あの田端先生でした。今、ホームの監視カメラの映像解析中です。」


甘粕は、そう言った後、太宰と霞の暗い顔に気が付いた。


「どうかしましたか。」


「うん…。」


太宰は、夏目に血だらけのノートを渡しながら、辛そうに言った。


「遠藤京子ちゃんが、そこで撥ねられた。俺たちが、駆け付けた時は、まだ意識があって、これを夏目に渡してくれって。夏目の先輩の派出所署員が電話してきてくれたんだが、遠藤京子ちゃんは、時間的には、田端先生がホームに落ちた直後に交番に駆け込んできて、夏目に話があると言ったそうだ。夏目は、本庁勤務になった事を話すと、そこからタクシーに乗って、ここまで来たらしい。本庁まであと一歩の所だった。目撃者や福井が居ないか辺りを捜索したが、俺たちが行った時には見つけられなかった。今、一課に聞き込みして貰ってる。」


「それで、遠藤京子ちゃんは…。」


夏目が聞くと、太宰は、辛そうな顔で首を横に振った。


「さっき病院から連絡があった…。亡くなったそうだ…。」


夏目は血だらけのノートを握りしめて、肩を落とした。


「あの子…、そう言えば、原田美咲が亡くなった後、俺に何か言いたげだった事があるんです…。あの子から話を聞いて、保護してやれば、こんな事には…。」


太宰は夏目の肩に手を置いて、労わる様に言った。


「その時にはまだ分からなかった。確証も無かったんだ。自分を責めちゃいかんぞ、夏目。」


「……。」


「ノート、夏目にって言ったから、俺たちも見てないんだ。」


「あ…、はい…。」


夏目がノートを開き、四人で覗き込むようにして読み始めた。




ー遠藤京子のノートー


 福井が感じが良くて、誰にでも優しくて、明るい優等生じゃないって気付いたのは、初めて同じクラスになって、室田先生と仲良くなりだした頃だった。

室田先生と喋って、先生が楽しそうに話して行ってしまうと、先生の後ろ姿をバカにしたような目で見て、鼻で笑ってた。本当は嫌な奴かもしれないって、その時思った。

 室田先生はみんなに嫌われてた。目付きがいやらしいとか、暗いとか。

黒板に向かってばかりいて、ブツブツ言ってるだけで、授業も分からないし、つまんないし。

でも、福井は室田先生にすっごく感じ良くて、みんながしない挨拶もしてたし、授業も一人で真面目に聞いて、質問なんかもしてた。

あの先生に点数稼ぎしても、なんの得にもならないから、福井は優しいから、かわいそうになってしてあげてるんだよねって、みんな言ってた。

でも、私は、あのバカにした冷たい目を見た時から、なにか企んでる、善意なんかじゃないって思ってた。でも、何を企んでいるのかは、その時は分からなかったけど。

 室田先生は、福井と仲良くなってから変わった。

明るくなったし、授業も凄く面白くなった。

理科ってこんなに身近で、楽しいものなんだって、初めて知ったぐらい。

黒板じゃなくて、私たちの方を向いて授業するようになったら、いやらしい目付きなんかじゃなかったし。

誰も室田先生のこと嫌わなくなって、福井のお陰だねなんて言う人もいた。

 でも、ある日突然、室田先生は福井を避ける様になった。

ちょっと不思議だったけど、後から田端先生から聞いて、納得できたし、福井が何を企んで、室田先生と仲良くしたのかも分かった。

 田端先生は、その頃、室田先生から相談を受けたらしい。

福井は恐ろしくありませんかって。

「学校の連中、皆殺しにしたいと思いませんか。爆弾なんかどうです?派手にさ。」って言ったんだそうだ。

爆弾作るのに、理科の先生である室田先生の知識が必要だったから、仲良くなっておいたんだなって。

室田先生が、ビックリして怒りだすと、すぐ冗談ですよって言ったらしいけど、目がマジでヤバかったんだって。

それともう一つ、福井の叔母さんを貸してあげるって言われたんだそうだ。

叔母さんをエッチな意味で貸すってことらしい。

田端先生も驚いてしまったけど、とにかく福井と話すし、気をつけて見て行きますから、なんとか二人で更生させましょうって誓い合ったんだって。

室田先生は、福井はサイコパスって病気なんじゃないかって言ってたそうで、田端先生もその日からサイコパスに関して調べ始めたんだけど、その誓い合った翌日、室田先生は死んでしまった。

田端先生は、福井が一緒だったと聞いて、サイコパスの確信を強めたんだそうだ。

そして、室田先生も福井が殺したんじゃないかって思ったらしい。でも、証拠もないし、自分の担任してる生徒だから、なんとか救い出す方向で、慎重に進めなきゃって思ったって、私が美咲を殺したのは、福井じゃないかって相談した時に話してくれた。

証拠をある程度固めて、それから福井と話して、説得するって。

 福井は叔母さんを貸すとか、皆殺し計画を話す位だから、かなり室田先生を信用してたんだと思う。

でも、二つとも断られて、頭に来て、殺したんじゃないかって、田端先生とサイコパスについて調べてて思った。

 美咲は福井と付き合ってた。

去年の三学期頃から。美咲のうちは、お父さんは美咲に暴力ふるうみたいだし、お母さんも止めてくれないし、家事しないしで、美咲は弟君達のお世話をしながら、お父さんの暴力から庇ってあげたりして、本当に苦労してた。

うちのお母さんが心配して、児童相談所に言おうかと言ったんだけど、お父さんに復讐されるからやめてって言って…。

なんとか助けてあげたかったんだけど、何も出来なかったから、多分、福井の上辺だけの優しさに癒されちゃったんだと思う。

福井はお父さんから美咲を庇って、逆にお父さんに、これ以上殴ったら、警察に通報するって脅したりしてくれたり、お父さんを殴ったりもしてくれたそうで、お父さんの暴力は福井と付き合うようになってからは止まったんだそうだ。

今思うとだけど、福井はそうやって助けることで、美咲を操ろうといていたんじゃないのかな。

実際、美咲は福井の言いなりになってしまった。

ヌード写真なんか撮らせちゃって。

他の人に、ばらまかれたらどうすんのとか言ったんだけど、駄目だった。

付き合ってる事、絶対ばらすなっていう言い付けもちゃんと守ってた。

私には口止めされる前に言っちゃったっていうのまで、正直に自己申告したお陰で、私まで福井から口止めされた。

付き合ってるの、口止めする男なんてやめときなよって言ったのに、美咲は福井の虜になってた。

でも、室田先生との援交の噂を流されて、流石に美咲も「私たち付き合っているんだから、そんな事あり得ないって、皆に言って。」って福井に頼んだ。

福井は男子にも女子にも人気があるし、福井がそう言ってくれたら、みんな黙るだろうからって。

私もそう思った。でも、福井はなかなかいいって言ってくれなくて、噂は酷くなる一方だし、困り果てた美咲は、アポなしで、福井の家に行った。

そして、その時に福井と福井の叔母さんがいやらしい感じのキスしてるのを見てしまったらしい。

浮気にも頭に来たから、叔母さんとの事、みんなにバラされたくなかったら、私たちの事公表してって言ったらしい。

そしたら福井は、本気なのは美咲だけだよ、叔母さんには無理矢理迫られて、言う事聞かなかったら、保護者辞める、そしたら、養護施設行きだって脅されたからなんだって、美咲を言いくるめたらしい。

あの福井が脅されるわけない。嘘だよって言ったんだけど、美咲は信じてしまった。

そして、美咲が亡くなった日、美咲だけっていう誓いの物を渡したい、皆にも明日、俺達の事公表するねって言ってくれて、これから会うんだってメールが来た。

二人で会っちゃ駄目って返事したんだけど…。

その後、美咲は死んでしまった。

しかも、発見者はまた福井。

わざとらしく人工呼吸なんかしちゃってさ。

 美咲は絶対自殺なんかじゃない。

 殺されたんだ、福井に。

 田端先生は、福井を説得して、改心させて、自首させるって、ずっと言い続けているけど、無理だと思う。

あいつは狂ってるもん。

人間じゃないもん。

サイコパスって治らないって書いてあったし、警察に直接言った方がいいと思う。明日先生にそう言おう。


 今日の放課後、職員室に行ったら、田端先生は、用があるって帰ってしまってた。

まさか、一人で福井に会いに行ったんじゃないかって心配になってメールしたけど、返事が来ない。

なんか嫌な感じがする。

美咲の時と同じ感じ。

どうしようと思いながら帰って来たら、しばらくして、先生から電話が来た。

「今、福井と話して来たよ。やっぱり、全部福井がやった事みたいだ。悲しい事だね。でも、全部認めて、明日一緒に警察に行く約束してくれたよ。福井も病気を治したいって泣いてた。自分じゃどうにも出来なくて、止まらなくなってしまうようだよ。」って言うから、「先生、それ騙されてるんだよ!嘘だよ!先生も殺されちゃうよ!」って私が言ったら、先生は「大丈夫だよ。今回は本当に改心してくれた感じがする。遠藤は何も心配しなくていいから。あとは先生に任せて。」そう言って、切ってしまった。

そうならいいけど、嫌な感じは収まらない。

先生は西大井駅から電車に乗って、おうちに帰るって言ってたから、西大井駅まで行ってみた。

そしたら…!

男の人がホームに落ちたらしいって、駅は大混乱。

その中から、福井が出てきた。

先生の携帯は繋がらなくなってる。

先生は福井に殺されたんだ。

私も福井に見られてしまった。

急いで、学校の近くの交番に行った。

あそこには、かっこいい、なんか他の人とは違うお巡りさんがいる。

きっと子供の話ってバカにしないで聞いてくれると思って。

でも、あのお巡りさんは居なかった。

警視庁に行ってしまったと、他のお巡りさんが教えてくれた。

夏目さんていう名前だって事も。

今、警視庁に向かうタクシーの中。

このノート、夏目さんに見てもらうんだ。

私も殺されるかもしれないから、早く…。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ