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満月の夜  作者: 桐生初
3/27

捜査開始

小学校に入った甘粕と夏目は、福井優斗が小学六年生当時の担任に、福井について聞く事にした。

動物虐待に関しては、頃合いを見計らって聞くつもりだ。

過去の福井を知り、そこから証拠を固めていくつもりだった。


 「福井ですか?なんでまた…。」


不審がる元担任教師に、甘粕は優しげな笑顔で言った。


 「いえ。福井君がどうこうというわけではありません。最近起きた連続自殺事件の方で、2回も現場に居合わせた様なので、精神的に大丈夫かなと心配になりましてね。酷い惨状を何度も見る事により、犯罪に走ったり、逆に自殺なんてこともあり得るので。人の死や事件を未然に防ぐのも、警察の努めですから。新しく出来た、心理関係の捜査課なので、時間に余裕もありまして。どんなお子さんなのか、お聞きしておこうかと…。」


 甘粕が優しく丁寧に言うと、元担任は、信じてしまったらしく、その後は怪しまずに話してくれた。


 「福井はとにかく非の打ち所がない子供でした。成績も良かったですし、虐められている子が居れば、庇ってやり、いじめっ子を撃退。そいつらも福井には逆らえないんですよね。なにせ、何でも万能で、学校中の人気者でしたから。見た目も良かったですし。」


 「その虐められていたお子さんの名前を聞かせて下さい。」


 甘粕が聞くと、元担任は泣きそうな顔になった。


 「それが…。三人だったんですが、内二人は、不慮の事故で…。」


 甘粕と夏目は、思わず顔を見合わせ、名前を聞き、言葉に詰まった。

 二人の名前は、大村彰行と飯山良太だった。その二人は、森川中学校の生徒ではなかったが、昨年の一月に、会話に夢中になって、赤信号を直進し、トラックにはねられ、二人同時に亡くなっている。

 これは何かあるーそう感じた甘粕は質問を続けた。


 「もう一人のお子さんの名前は?」


 「立川巧君です。やはり、別の中学に行きました。品川区は学校選択制ですから、地元に行かなくてもいいので…。」


 「なるほど。で、その虐めを止めてあげた後はどうだったんですか?違う学校に行ったという事は、虐めは無くなってなかったのでしょうか?」


 「いえ、そんなことはなかった筈ですなんですが…。」


なかった筈のわりに、何かありそうな雰囲気である。


 「福井君と仲良くなったりとか、一緒にいたりすれば、虐められなさそうですが…。」


 「そういう側面はあるんですが…。でも、結局は離れていましたね。直後は仲良く見えましたが、その後は逆に距離をとっていたかな…。彼らにもプライドがありますし、バツが悪いのかななんて思いましたけど。」


 「そのもう一人のお子さん立川君も、そんな感じでしたか?」


すると元担任は、急に憂鬱そうな顔になった。

さっきの含みがある物言いといい、どうも何かある様だ。


 「どうかなさいましたか?」


 甘粕が優しく聞くと、バツが悪そうに頭をかいた。


 「いやあ…。失敗したなって事を思い出しましてね。

福井に助けてもらった後、他の二人同様、仲良くしていたかと思ったら、突然私に、『福井君は僕の大事な物、全部取っちゃう。虐められてたの、助けてやっただろうとか、また虐められたいなら、あいつら俺の言いなりだからまた虐めさせるとか脅して、ゲームやマンガを返してくれない。』と言うんです。

その立川という子は、虚言癖というんですか。ちょっとご家庭が複雑なのもあって、嘘の訴えをして、人の気を引いて、被害者になってチヤホヤされたいような所がありましてね。

それが元で虐められてる部分もありましたし、クラスでも嫌われていたんです。

私は正直、また始まったと思ってしまいました。福井は虐めを止めさせた事で、ヒーローになっていましたし、やっかんだのかなって。

大体福井がそんな事するはずありませんから、立川の言う事は全く信じず、私が一応形式だけ福井を呼んで、違うよなあ?というニュアンスで事実確認をしてしまったんです。

福井は当然、借りただけなのに酷い、僕が何したって言うんだって泣き出してしまったので、本とだよなあと福井を慰め、逆に立川には嘘は人を傷つけるとか、説教してしまったんです。

立川は嘘なんかついていないと、最後まで言っていましたが、何日か後に、嘘ついていました。ごめんなさいと、謝りに来たんで、やっぱりなあと思いました。

でもその後、突然不登校になり、原因は親御さんにも分からず、校内での虐めの類いも、いくら調べても出て来ず、こちらからの働きかけにも一切応じてくれず、家に行っても、立川本人は会ってくれない状態で…。

福井の事が本当に嘘だったとしても、私が立川の事を全く信用しなかったというのが、傷つけてしまったのかなあと、反省しましてね。」


 「そうですか…。」


 甘粕は何か考えている様子で相槌を打ち、また質問した。


 「大村君と飯山君からは、そういった話はありましたか?」


 「それが全く無いもんですから…。なんであんな嘘ついたんだか…。」


 恐らく嘘ではなく、本当に脅され、物を奪われ、そして嘘でしたと先生にわざわざ謝りに行ったのも、もっと恐ろしい脅しを受けて言わされ、、不登校は、それが怖くて学校に行けなくなったのではないかと甘粕は思い、夏目もそう感じていた。


 甘粕は念のため、いじめっ子達についても、名前とその後の様子を聞いた。


 元担任は困った顔になった。


 「警察の方なら、その名前でお調べになれば分かるかと思いますが、その後窃盗団の様な万引きで荒稼ぎをして、補導されたんですよ。そんな知能がある子達とは思えないんですけどねえ…。悪知恵は働くのかなあ…。一応、森川中学校の方に在籍はしてるんですが、来てるんだか、来てないんだか…。」


 元担任は嫌な思い出が続いたせいか、大きなため息をつくと言った。


 「ともかく、福井の様な、あんな出来のいい子は、今まで見た事がありません。子供特有の悪ふざけもしませんし、誰に対しても分け隔ての無い子で…。私も二十五年も教師をしておりますが、こんないい子本当にいるんだなと思った位でして…。ご両親や親御さんがあんな亡くなり方をしても、健気に勉強も手を抜かず頑張っていますから、心配は心配ですが、道に外れたり、自殺したりは無いと思います。」


甘粕は引っかかりを覚えた。

夏目の見聞きした福井少年と、先生の認識の落差に。

この先生は、福井の表の顔しか見てこなかった様だが、教師として、本当に表しかわかっていなかったのだろうか。


 「先生は、色んなお子さんを見て来られて、逆に不自然に思われた事はありませんか?いい子過ぎて…。」


 元担任は唸りながら考え込み、途切れ途切れに話し始めた。


 「確かに…。いくら優等生という子でも、そこは子供ですし、人間ですから、どこかしらに穴はありますが、福井にはそれが全く無くて…。でも、なぜか仲のいい、いつも一緒にいるような友達は居なかったんですよね…。申し送りにも、仲のいい子は無しって書かれてありどうもずっとそうだったようで、それは不思議には思いましたが、大人びていたので、周りの子供達が自分より子供に感じられたのかななんて思いましたけど…。」


 「でも、先ほど、学校中の人気者だとおっしゃっておられましたが。」


 夏目が聞くと、頷いた。


 「小一の時からずっとそうでした。子供達の信頼は厚く、女の子にももてましたし、何かというと、福井福井って…。あ、でも、小六でクラス替えした時、しばらくは人気ナンバー1は、吹石にとられてたな。吹石は、有名なサッカーチームのエースストライカーだったんですよ。日本代表の一流選手に教えてもらった事もあるとかで、凄い人気で…。」


 「何がきっかけで福井君がナンバー1に返り咲いたんですか?」


 甘粕が聞いた。

 大人にとっては、取るに足らない事だが、子供にとっては、かなり重要な事である。


 「えーっと…。教室で飼っていたメダカが全滅していた事があるんです。身体中傷だらけで、誰かが棒か針の様な物で突つき回して殺した様な、残酷な状態でした。

その時、誰も居ない教室から吹石が出てくるのを見たと福井が…。

えっ…、ちょっ、ちょっと待って下さい…。

その後、吹石は急速に人気が落ちて…。

まさか福井の方が嘘をついていたんでしょうか?。

吹石はヤンチャでしたが、そんな事をする子ではなかったので、わたしも、吹石がやってないと言う以上、罪に問うのはよそう。疑わしきは罰せずだ、やった人は、いつでも先生の所に来て下さいと言って、終わりにしてしまったんですが…。

そんな…。人気者ナンバー一に返り咲く為に、福井が嘘をついて、人を陥れるだなんて…。

どうしよう…。立川が言ってた事が本当なのか?不良達への入れ知恵も福井が?」


 元担任は、メダカ殺害は福井の仕業とは思っていない様だが、福井の人間性に関しては、疑問に思い始めた様だ。


 「そういえば…。もう引退されて、亡くなった、国語の嘱託教員でいらしていた、堺先生がおっしゃった事があるんです。

福井は危なくないかと。

何の話ですかとお聞きしたら、彼には感情と言う物が無いとしか思えんと。

かわいそうだとか、悲しいとか、感じない様だとおっしゃったんです。

国語の授業で、子供達のほとんどが泣いてしまうようなお話をやった時も、彼は全く表情を変えず、さっぱり分からないという顔をしていて、他の子が泣き始めたのを見て、初めて泣き出したが、感想を聞いても、自分の感想は一つも出て来ず、人真似だったそうなんですね。

その時だけではなく、教材の感想をいの一番に聞くと、いつも分かりませんと言うと…。

そう言われてみると、クラスの誰かが辛い目にあった時なども、周りの反応を見てから慰めていたような気もしました。

堺先生は、こうもおっしゃっていました。福井は邪悪な子だ、他者への共感が全くできていない、人を人とも思っていないと。

何をご覧になったのかはおっしゃってくださいませんでしたが、その直後、病気を理由にお辞めになり、昨年ご病気で亡くなりました。

もしかして私は、とんだ思い違いをしていたのでしょうか?刑事さん達は、もしかして、福井が何かしたと思われてこちらに?」


 二人は言葉を濁した。

 まだ何とも言えない状況であるし、言える状況でも、言ったら、この元担任も危険に晒されるかもしれない。

 甘粕は、言葉を選びながら言った。


 「まだ、これという証拠も、事実関係も把握出来ていませんので、ご説明は控えさせて頂きます。ただ、我々が先生にお話を伺いに来た事、決して福井君の耳には入れないようにお願い致します。捜査状況が漏れる事は、捜査に支障を来しますし、先生ご自身も危険に晒す事になります。」


 「分かりました…。」


 元担任は、深刻な表情で考え込んでいる。

 甘粕は、堺先生のフルネームと住所を聞いた後、全く別の質問をした。


 「ところで、福井君は大変優秀という事ですが、中学受験などはしなかったんですか?」


 「はあ…。実は受けて合格はしてるんですよ。それこそ名門と言われる、私立、国立のほとんどを。でも、行かないって言うんで、なんで?と聞いたら、受験は面白いから、また高校は入る時にやりたいから、行っても無駄だからって言うんです。面白いって何?って聞いたら、試験会場に行くと、みんな合格しようと必死になってて、見ていて面白いからって…。なんだか随分上からだなあって、その当時のわたしですら、不愉快になった覚えがあります。他者への共感、確かに全く出来てないですよね。そんな失礼な話…。」


元担任が、段々と福井の人格に疑いを抱いてきたところで、甘粕は、小学校で飼っていた鶏の毒殺事件について聞いてみた。


「あれは、犯人が分からなかったんですよね。毒殺事件もそれっきりで…、あ、いや、福井の隣の家の犬も確か毒殺されて死んでたな!どっちも農薬だったと聞いてますが!」


 甘粕達は、元担任に礼を言い、何か思い出したら、どんな些細な事でも連絡をくれるよう、また、再度口止めをして、小学校を出ると、ご近所への聞き込みに向かった。


福井の評判は、とにかくいいの一言に尽きる。

 巡査時代の夏目を覚えている主婦も何人かいて、気さくに喋ってくれた。


 「家族があんな亡くなり方した後に、またあそこに住むって言うから、心配で聞いたのよ、あたし。思い出して、辛いんじゃないのってさあ。そしたら悠斗君、涙ぐみながら、でも笑顔でね、一緒に居たいんですって。かわいいじゃないのよう。それにさ、別の場所に引っ越したら、それはそれで、何で引越して来たんだとかって話になるだろうから、嫌だって言ってたわ。しっかりしてるわよ。本と。」


 二人は、なるほどなるほどと感じ良く聞きながら、亡くなった家族について聞いた。


 「お父さんはね、どっかの銀行の本店の、なんか結構偉い人だったみたいよ。でも、感じ良くてねえ。奥さんも綺麗で感じいい人でさあ。弟君がね、なんだっけ。ダウン症?あれだったの。でも、可愛い子でさあ。いっつも元気よくあいさつしてくれて。お父さんも悠斗君も弟君の面倒よくみてたわよ。本と仲のいい家族でさあ。」


 「奥山さんの犬の件はどうですか?」


 夏目が聞くと、主婦は首を横に振った。


 「奥山さんの犬はもう、そりゃあうるさくってさあ。のべつ幕無し、ずっと吠えてるんだもの。でもね、全く文句言わなかったのよ。うちもこの子がいてって、弟君ね。この子が騒いだりして、ご迷惑おかけしてますからって奥さんが。でも、弟君は騒いだりなんかしなかったし、静かなお宅だったのよ?それに、奥山サンのあのバカ犬が吠えてたのは、福井さんちが建ってるすぐ側の庭だったのよ?相当うるさかったと思うんだけど、よく出来た人達よ。本とに。犬が死んだら、お悔やみになんか行ったりしてさ。優しいのよね。飼い犬は家族同然ですから、お辛いと思いますって。人間が違うって感じ。私ら、あのバカ犬が死んだって聞いたら、ざまあみろって感じだったのにねえ。あんないい人があんな亡くなり方するなんて、神も仏もあったもんじゃないわよね。」


 その後も甘粕は、トラブルや揉め事はなかったか聞いた。


 「んー。ほんとに一回こっきりあっただけなのよ?あとはもうずーっと仲良し、静かなお宅だったの。」


 「はい。」


 「あの事故が起きる一週間前位だったかしら。お父さんと悠斗君がさ、凄い大声で怒鳴り合って、お母さんの泣き声みたいなのも聞こえたなんて事があったわ。お隣同士になって、十七年位経つけど、あんなの初めて。」


 次に一緒に住んでいる叔母の事を聞くと、突然不機嫌そうな顔になった。


 「ああ、あの叔母さんとかいう若い女の人ね。一緒に居る所は、外では見た事無いわね。もう、必ず毎日5時25分に帰ってくるわよ。で、ご飯作ってるみたい。まあ、悠斗君のお陰で、あの家に住んでいられるんだから、それぐらいしないとね。」


 「土日なんかも、二人で出かける事は無いんですか。」


 「二人は無いわね。叔母さん一人でスーパー行って、一週間分の買い物してくるみたいよ。それも必ず時間が決まってて、朝の十時。それ以外で叔母さんが出掛けてるとこなんか見た事無いわね。若いのに、決まりきった生活して、何が楽しくて生きてんのかしら。」


 余程嫌いらしい。


 「感じいい人ではない?」


 思わず苦笑しながら甘粕が聞くと、鼻の穴を膨らませて、語気強く言った。 


 「ええ!本と感じ悪いわよ。挨拶も声出さないし、いっつもおどおどしてて、こんばんわって声かけただけで、ビクッてさあ。なんか悪い事してるか、疾しい事でもあんのよ、きっと。曇りの日なのに、サングラスしてたり、フード被ってたり、大体こっちが話してんのに、下向いて、顔上げないなんて、失礼じゃないのよ。この辺の人みんな言ってるわよ。お兄さんの遺産目当てで、悠斗君に付け入ってるんだって。絶対、悠斗君、騙されてんのよ。ああ、心配!」


 また引っかかった。

 それはもしかしたら、怪我を隠す為なのではないのか。

 おどおどしているのは、日常的に虐待を受けているからではないのか…。

 そんな気がした甘粕は、夏目と遅い昼食を済ませ、叔母の職場へ行った。

 叔母は小説の編集部に居り、そこの編集部の人間が、たまたま甘粕と大学時代の友人であったので、遊びに行った風を装い、外の喫茶店で話を聞く事にした。


 「なんの捜査だよ。」


 友人は笑いながら煙草に火を点け、甘粕もゴロワースに火を点け、夏目にも促し、三人でモクモクと吸い始めた。


 「いや、ま…。不可思議事件てトコかな。」


 適当なな事を言い、福井里子の様子を聞いた。


 「転んだって言ってるけど、ありゃあどう見ても、殴られた怪我だよ。目の周りの青あざとか、首に紐みたいので絞めた様な痣とか、あり得ないだろう?DV男とでも付き合ってるんですかって聞いたら、全否定してたけど。でも、いかにもDV男に捕まりそうな人ではあるよ。気が弱くて、人が良すぎて、寂しそうで、信じ込みやすくて、人付き合いが苦手で、自分に自信が無くて。なんか、前にチラって聞いたけど、お兄さんて、東大出なんだってな。いつも親に比べられてたから、つい、私なんて…って言っちゃうって言ってた。それ、良くないですよって俺が言ったら。」


 隣家の主婦の証言から考えても、優斗以外の男性との接触は無さそうだが、一応聞いてみた。


 「男と会ってる感じはある?」


 「それが無いから不思議でさあ。担当してる作家は、女性で主婦だし、社内でしか男と接触する事はないし、かといって、彼女と社内恋愛してる奴がいるなんていう噂も聞いたことないし。5時きっかりに毎日退社。担当が主婦作家だから、夕方からは家事で忙しいから、呼び出しくらうも無いし、締め切り二週間前には上げてくる人だから、缶詰のお付き合いする事も無いしな。羨ましいよ。」


 「どんな様子で帰る?」


 「甥っ子のご飯作らないとって、血相変えて、必死になって帰るよ。」


 「必死になって?遅れたら大変て感じか?」


 「そ。そんな感じ。甥っ子相手に、何をそんなに気イ遣ってんのかなって思うよ。甥っ子がDVなんじゃねえの?なんて、冗談でみんな言ってるよ。」


 それは、強ち外れていないと甘粕も思う。

 力で支配し、孤独な叔母を言うなりにしている。

 サイコパスなら、あり得る事だ。


 「甥っ子の話はするのか?」


 「うーん。何回か…っていう程度かな。自慢してたよ。頭良くて、イケメンで、甘え上手でって。なんか恋人みたいですねって言ったら、青くなって黙っちゃって、それっきり話さなくなったけどな。」


「14にして、叔母と関係してるという事でしょうか?」


 帰りの車で、夏目が深刻な顔で言った。


 「実際はもっと早いかもしれない。同居と同じ時期じゃないかと、俺は思ってる。サイコパスの診断基準の一つに、放埒な性関係というのもあるからな。最近の子は発育がいいし、あり得ん事では無いと思う。」


 「探れば探る程、福井悠斗の仕業で納得できてしまう反面、ローティーンの内から、そんな事を本当にと、信じたくない面もあります。不気味です。」


 「本当だな。でも、その不気味に感じる部分は無くさない方がいいと思う。この課に居る限りは。」


 「そうですか?」


 「うん。慣れちゃ駄目だろ、こんなの。冷静な目をもちつつ、感情はしっかり無くさずにいないと、俺達まで人間じゃなくなっちまうだろ?」


 「はい。」


 太宰に連絡すると、丁度太宰達も中学側の聞き込みが終わったところだと言うので、本庁に戻り、調べ上げた事を話し合い、次の方針を決めることにした。

 

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